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4中-06 来訪者

ワルツが王都から子供達を連れて、無事帰還してきた次の日。


また、晴れである。

前回、雨雲を見かけたのは、王都で天使と戦った際だろうか。

尤も、ドス黒い雲が頭の上で渦巻いていただけで雨は降ってこなかったので、魔術的な何か、なのかもしれないが・・・。


とはいえ、ワルツ達のいるアルクの村には特に影響はない。

早朝に発生する霧のおかげだ。

どうやら、海からの湿気を多く含んだ風が村近くにある山脈に当たって冷やされ、それが霧になるようだ。


(じゃが、地形を考えるなら、雨くらい降ってもよさそうなのにのう・・・)


ワルツの周囲400kmが見渡せるレーダーによると、この一ヶ月間、特にこのアレクサンドロス領周辺だけ雨雲らしき雨雲が存在していなかった。

風や地形の影響が考えられない以上、何者かによって作為的に雨雲が排除されている可能性も否定できない。

もちろん、偶然の可能性もあるのだが。


何れにしても、2ヶ月の間、この状態が続いているのだから異常だろう。


ところで・・・、とワルツはふと思う。


(この村には影響はないが、サウスフォートレスはどうなんじゃろうか?)


2週間ほど前に行ったが、それほど干ばつで困っている感じは無く、いつも昼食を取る際に椅子代わりにしている噴水も、枯れること無く流れていた。

まぁ、ルシアがワルツの作った昼食で暴走して、大規模な水魔法を発動させていたので、当面は問題無さそうだが・・・。


(あ、そうじゃ。水魔法を使えば・・・)


水が無いなら、水を作ればいいじゃない、という発想である。


「狩人のう?サウスフォートレスでは、水不足になったら魔法で水を作っておるのかのう?」


ちなみに、今は、メンバー全員で朝食を頂いていた。

今日はルシアも一緒だ。


「うん?どうしたんだ?急に」


「いやのう?最近、雨が降っとらんじゃろ?この村は霧が出るからいいとして、町の方は拙いのではないかと思うてな」


「・・・いや、雨が振らなくても、地下水脈があるから問題無いと思うぞ?」


「ほう?」


近くに山脈も無ければ、大して高低差も無いサウスフォートレスで水脈などあるのだろうか。


(冷泉?あるいは、異世界特有の何かかのう・・・例えば・・・)


「・・・サウスフォートレスの地下にダンジョンでもあるのかえ?」


「いや、無い・・・と思いたいな」


どうやら、狩人も知らないらしい。

まぁ、ワルツの冗談である。


「ところで、お主。その喋り方は何じゃ?」


多少、キャラが被っているテレサが指摘した。


「昨日、童達を助けに行ってから、癖が抜けぬのじゃ・・・」


「・・・ならば仕方ないの」


「テレサ様、そこは納得するところではないと思うのですが」


素直に引き下がったテレサに、テンポが口を開く。


「む?何故じゃ?」


「はい、恐らくですが、お姉さまはテレサ様をイジっているのではないかと」


「イジる、じゃと?」


「つまりは、可愛くて、ちょっかいをかけたい、ということです」


イジる、とは、そういう意味だっただろうか・・・。


「ふむ、そうじゃったか・・・はっ!もしかして・・・けっ、結婚」


「無い」


「ぐはっ」


「ただ、癖が抜けなかっただけなのに・・・」


どうやら、テンポの荒療治(?)に、ワルツがいつもの口調を取り戻したようだ。


「で、話を戻すんだけど、最近、雨が少なすぎる気がするんだけど、どう思う?」


「私はこの地方の人間ではないので何とも・・・」


カタリナは勇者の仲間として隣の国から派遣されてきていたので、アレクサンドロス領についてはワルツと同じくらいの知識しか持ち合わせていない。


「私もわかんないよ」


「妾もじゃ」


「右に同じく」


「・・・まぁ、こんなもんじゃないか?」


結局、狩人しか知らないのだが、本人が把握していないようなので、話にならなかった。


「まぁ、狩人さんの両親にはお世話になってますし、一度、様子を見に行きましょうか」


「えっ」


「もちろん、ルシアもよ」


また置いて行かれるんじゃないかと思ったルシアだったが、ワルツがそれに気づいて補足する。


「うん!今度こそ一緒だよ」


ルシアの体調を考えると、あと2・3日は様子を見るべきだろう。

その間、発熱が無ければ、完治していると考えていいのではないだろうか。


「じゃぁ、4日後にサウスフォートレスに行きましょう。テレサの装備や服も考えなきゃならないし」


今はルシアの服を借りているテレサだが、いつまでもその状態では拙いだろう。


(ん?テレサの発育が悪い?それともルシアの発育が良い・・・?)


ルシアは10歳、テレサは14歳である。

年齢を考えるなら、同じサイズの服を着ているというのはおかしいのだが・・・いや、何でもない。


ところで、王女が古着を着るというのはいいのだろうか。

本人は気にしていないようなので、問題は無いのだろうが・・・。


「・・・異論がある人?」


「ところで、旅はどうするんだ?」


魔女狩りの被害にあったために、旅は中断している。

この後、どうするのか、という問いかけだ。


「そうね。サウスフォートレスから戻ってきて、何もなければ、王都郊外から再開でいいかしら?」


「いいのではないですか?」


「うむ」


「私も賛成」


「よろしいではないでしょうか」


「じゃぁ、まずはサウスフォートレスからだな。歩いてか?」


全員が賛成したところで、狩人が問いかける。


「歩きでいいんじゃない?・・・いや、難しいのかしら・・・テレサは歩きでの旅は大丈夫?」


旅の最初の内は、ルシアも体力的に相当苦労していたようだ。

まぁ、回復魔法があるので、いつまでも引きずるような疲れや怪我は無いのだが。


「お主。ミッドエデン王国第四王女を舐めておるじゃろ?」


その言葉に、ふと貴族令嬢の狩人が脳裏に浮かぶワルツ。

そして、テレサの変身魔法である。


「もしかして、王城からよく抜けだしたりしてた?」


「うむ。あんな狭いところに閉じ込められるなど、御免じゃからな」


(・・・この世界の令嬢は、皆、脱走スキル的な物を持っているのかしら・・・)


ワルツの脳裏には、何くわぬ顔で城門を潜るテレサの姿が鮮明に浮かんでいた。

おそらく、騎士団の誰かか、出入りの商人にでも化けていたのだろう。


「じゃぁ、サウスフォートレスへは歩いて行きましょう」


というわけで、4日後、ルシアの体調が良ければ、サウスフォートレスへと行くことになった。




その日の夜。


村に侵入者が現れた。

・・・と言っても、誰かに危害を加えるわけでもなく、単に酒場に飲みに来ただけのようだが・・・。




次の日。


朝の日課である狩りと山菜の収穫が終わって、狩人が食事の準備を始めた頃だった。

ワルツとテンポとテレサが食事までの時間つぶしとして、食卓の上でドミノ(ピタ○ラ○イッチ)をしていると、不意にカタリナが呟いた。


「あれ?酒場に見かけない女性が居ますね」


近所づきあいのあるカタリナが言うのだ、この村の人間や魔女狩りの被害にあった者ではないのだろう。

・・・というより、ワルツには心当たりがあったのだが、この世界の知識があまり深くないので余計なことは言わなかった。


「あ、ホントだ・・・美人・・・」


カタリナの声に反応したルシアも、家の窓から酒場を覗いて呟いた。


「妾も見たいが・・・」


目の前で、プルプルと震えながら、キッチンから持ってきたスプーンをドミノの上に積み重ねているテレサ。

まぁ、テレサが覗いたところで、この村と未だ接点が無い彼女にとってはあまり意味がないのではないだろうか。


「あっ、こっち見て手を振ってる」


と、ルシアも手を振り返す。


(どうしようかしらねぇ・・・)


「カタリナ?」


「はい」


ワルツはキッチンから持ってきた()()()をドミノの仕掛けに組み込みながら、カタリナに話しかけた。


「ルシアと自分に物理・魔法結界を張って、様子を見てきてもらえる?」


「えっ?どうしたんですか?」


「うーん、私の勘違いならいいんだけど・・・一応ね」


「分かりました。念のため警戒しておきます」


「お願いします」


と言うのは、キッチンから持ってきた卵をドミノの前に設置するテンポだ。

本来はテンポもカタリナを手伝うべきだが、一度始めてしまったドミノを途中で投げ出すわけにもいかない。


こうして、ワルツ達はカタリナとルシアに面倒事を任せつつ、自分たちは遊戯に勤しむのだった。

・・・見た目は、だが。


後ろで狩人が、


「あれー、おっかしいな・・・ここにあったスプーンと()()()と卵はどこに・・・」


・・・本当にイジられているのは、狩人ではないだろうか。


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