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4中-05 回収

1人目の家族の回収が終了した。


女性の故郷は王都から歩いて2日の距離にある小さな村で、サイズ的にはアルクの村と大して変わらない大きさだった。

特に人が多いわけではなかったので村の中から子ども達を回収するのは簡単であったが、追加で夫も一緒に付いて来たのは仕方のないことか。

村にあった家や畑を手放してでも、妻や子ども達といっしょに居たいというのは、当然のことだろう。


・・・帰りは家族揃って言葉を失っていた。

もちろん、空を飛ぶことにである。

尤も、子どもはすぐに慣れてはしゃぎ始めたのだが・・・。

その様子が、もっと年上のテレサと被る部分があるのは・・・気のせいか。




さて、問題は2人目だ。

非常に面倒なところに子ども達が住んでいるのである。


・・・王都だ。


とはいえ、今のワルツは変装しているので、もしも指名手配されていても、直接顔を見られなければ捕まることはないだろう。

では何が問題なのか。

1人目の家族の回収が終わってからすぐに出発しなかった理由でもあるのだが、それは・・・


(うわぁ・・・行きたくない・・・)


・・・つまり、ワルツ自身が嫌だったのだ。

彼女にとって、王都は危険な場所ではない。

だが、ワルツ達を敵視してくる者達がいるのは間違いないはずだ。

誰だって、敵視してくるような人達に会いに行くなど、避けたいだろう。

といよりも、面倒事しか起こらない場所に行きたくないだけなのかもしれないが・・・。


そして、午後の食事を終え、女性と約束した時間ギリギリまで工房に引きこもった後で、嫌々ながら約束の場所(工房前)に向かう。


すると、既に女性がワルツのことを待っていた。


「・・・では、行くかのう」


ワルツは魔女のコスプレをしながら、それっぽく話した。

むしろ、意識すること無く、自然に話してしまっていた。

午前中、ずっとこの喋り方をしていたので、逆に普通の喋り方を忘れそうになっていたのである。


「お願いします」


女性は短く、まっすぐにワルツへ言葉を返した。

ワルツと違って、王都では自分の大切な子供達が待っている。

もしかしたら、空腹で泣いているかもしれないし、怪我や病気を患っているかもしれない。

親としては気が気ではなかったのだ。


ワルツも、そのことを理解していない訳ではない。

もしも理解していなかったなら、こうして女性を運ぶこともないし、行きたくない王都に行くことも無いだろう。


ワルツは意を決して、女性を重力制御で浮遊させた。


「・・・」


何も言わない女性。

多少、目を見開いたが、すぐに元の表情に戻る。

1人目の女性もアルクの村を出発する際は同じ態度であった。

驚きなど、子どもの身を案ずれば、どうでも良くなるのかもしれない。




・・・飛び続けること1時間。

ルシアを連れて王都から帰ってきた時よりも時間がかかってしまった。

速度を上げて超音速で飛行するためには、一度、機動装甲の光学迷彩を解除してジェットエンジンを展開しなくてはならない。

そうなると女性に色々と情報が漏れるので、ホログラムを解除しなくてもいい600km程度の速度で飛んだ結果だ。


ちなみに、ジェットエンジンを使わず重力制御だけで音速を超えるためにはリミッターを解除しなくてはならない。

自分以外のモノを飛ばす分にはリミッターの解除は必要ないのだが、自分自身が飛ぶ場合は安全面からなのか、何故かリミッターが掛かるのだ。

具体的には《反重力リアクターブースト》というやつだ。

これを使うと、燃費がガタ落ちなので、長距離の移動には適さない。


(安全装置だけ解除されればいいのに、燃費も悪化するなんて、一体どういった仕組みなのかしら)


ワルツ自身も、構造は分かっていても、自分がどうやって動いているのかは分からなかった。


それはさておきである。

ここは王都をぐるりと取り囲む12m程度の高さの塀の外側だ。

塀・・・というより、超巨大な壁といった感じである。


ワルツは腰に手を当て、よっこらせ、という掛け声とともに、重力制御で浮かべていた女性を地面に下ろす。


「さてと、王都に付いたがどうするかのう?」


「・・・」


女性は必死に考えているようだが、返答は無かった。

どうやら、塀に抜け道は無いらしい。


前回、王都から向け出す時は転移魔法で抜けだしているため、間違っても正門から入る事はできない。

ちなみに、転移で王都に入る場合には、『転移門』という場所があって、転移が使える魔法使いたちはそこで手続きをして出入りを行うのである。

だが、ワルツ達はその手続を踏んでおらず、その上、魔女として捕まっていた経緯もあるので、素通りは出来ないだろう。


一方、飛んで町に入るということも難しい。

夜ならまだしも、今は真っ昼間だ。

少ない数の視線に晒される可能性があった。

これに関しては単純に作戦ミス・・・というより、なんとかなるわよ、というワルツの安易な考えの結果である。


(じゃぁ、仕方ないわね)


ワルツは機動装甲を壁の上に配置し、辺りを監視する。

壁の向こう側は倉庫街になっており、近くには人もいなかった。


(ならっ!)


そして、王都の壁に重力制御を使って強引に穴を開けた。


「うむ、ではゆくぞ?」


「・・・は、はい」


ワルツが先に穴に入って、その後を女性がついていく。

飛ぶ際は驚かなかった女性だが、流石に目の前の頑丈そうな壁に突如として穴が開いたことには驚いたようだ。


「ここは・・・」


王都に入ると、女性は辺りを見回す。


「あ、商業街裏の倉庫街です!」


どうやら現在位置が分かったらしい。


「こっちです」


先ほどまではワルツが先導していたが、ここからは女性が先を行く。


商業街を抜け、中央市場を抜け、飲食街を抜ける。


(・・・妙に人が少ないのは気のせいかしら)


人が全く居ないわけではないが、王都ほどの大都市にしては、少ない印象だ。

もしかすると、先日のこともあるので、厳戒態勢でも敷かれているのかもしれない。


途中、王都民とすれ違ったが、ワルツ達に気づいた様子はなかった。

どうやら、指名手配されていたり、あるいはされていたとしてもその情報が行き渡っている様子は無いようだ。


しばらく歩いて、2人がたどり着いた場所は、王城を挟んで一悶着のあった教会とは反対側にあるスラム街だ。

その中の一軒に女性は足を踏み入れた。


スラム街にあるが、ボロボロな家、というわけではない。

むしろ、小奇麗にしているのではないだろうか。


(まぁ、外で待ってますかね・・・)


よっこらせ、という声と共に、軒先においてあった丸太の上に腰をかける。

ワルツは、女性と一緒には家に入らなかったのである。


・・・そして、家の中から子どもの泣き声が聞こえてきた。

1人目の女性の時も同様だったので、再会を喜んでいるのだろう。


ワルツは家族同士の再会に水を指さぬよう、周りを警戒しつつ女性たちを待つのだった。




待っている間、ワルツは生体反応センサーとレーダーを駆使して、王都中の人の動きを調べていく。

王都内を歩いている時、人が少ない理由が気になったのだ。


すると、王都中に人が分散していることが分かった。

自分の家の中でじっとしている、といった感じだ。

やはり、厳戒態勢が引かれているのだろう。


だが、レーダーには、妙に人が集中している場所が2箇所、映し出された。

・・・王城である。


その2箇所とも同じ場所に集中しているので、対峙している状態ではないだろうか。

それぞれ4000人ずつ、合計8000人といったところだ。


(1箇所に集まるにしては、妙に多い気がするけど、模擬演習でもやっているのかしら・・・)


あるいは、ワルツ達の所業を捜査すべく、何らかの準備でもしているのか・・・。


生体反応センサーやレーダーだけでは、詳しいことまでは分からなかった。




ワルツが彼らの様子を観察していると、家から女性と子ども達が出てきた。


「お待たせしてすみません」


女性は6歳くらいの女の子と4歳くらいの男の子連れて、それと服などの家財道具を持てるだけ持って、家から出てきた。


「よろしくおねがいします!」


「おねがいします!」


姉と弟が元気よく挨拶する。


「こちらこそ、よろしくのう」


演技を続けたまま、ワルツが挨拶を返した。


「夫は()らぬのか?」


「・・・はい。戦争で・・・」


兵士として戦ったのだろうか。


「・・・すまぬことを聞いてしまったのう。では行くぞ?」


「はい。お願いします」


こうして子供達を無事回収したワルツ達は、王都から即座に脱出したのだった。

帰りは、門の外まで歩く、なんてことはしない。

空を飛ぶワルツ達を追いかけられるものなど居ないのだから。


お陰で少なくない数の人々に見られたようだが、地面までは距離があったので、顔までは見られなかっただろう。

元も、ワルツの場合は帽子で顔を隠しているので見られることもないが。




この時、ワルツが、()()()()の異常に気づいていれば、事はあまり大きくならなかったのだが・・・。

結局、帰ることを優先してしまい、胸の中にあった違和感を確認しなかったのだ。


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