9.4-14 本物14
その頃、ルシアは、というと——
「う゛う゛う゛……テレサぢゃん゛……」ぐすっ
——テレサの願い通りに(?)、顔を、涙と鼻水でぐしょぐしょにさせていた。彼女は、テレサへと送った手紙に、素っ気ない言葉を書いていたものの、実際のところは誰よりも彼女のことを心配していたようである。
そして、その隣には、ワルツもいて——
「何度も言ってるけど、あまり心配しなくても大丈夫よ?テレサの身体、コルテックスの身体と共通だから、多分、”大河”の中に落ちても死なないくらい頑丈だと思うし……最悪、転移魔法で岩の中に埋まってるとしても、岩ごと壊して脱出できるはずだから……」
——と、テレサの身体に掛かっている出力リミッターのことをすっかり失念した様子で、妹のことをなだめていた。妹が転移魔法を使いテレサの遭難のキッカケを作り、姉が脱出手段を奪う、という二段構え……。どうやら、この姉妹の組み合わせが、テレサが遭難することになった根本的な原因だったようである。
そんな2人は、世界樹の穴の中を、何時間にも渡り彷徨っていた。度々、無線機で話しかけて、電波が届く場所にテレサがいない事を確かめては、場所を変えて……。世界樹の中を、文字通り端から端まで、歩き回っていたのだ。
だが、夜になった今でも、テレサからの返答はなく……。テレサを転移させた本人であるルシアの心には、その責任の重さが、ズシリとのし掛かってきたらしい。
ただまぁ、先の通り、姉のワルツの方は、それほど心配していなかったようだが。
「ほら、コルテックスのアイテムボックス経由でご飯を送ったら、”たすけて”って手紙が帰ってきたんでしょ?なら、取りあえずは、行動不能に陥ってるって訳じゃないんだし、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うわよ?」
「でも、”たすけて”って……」ぐすっ
「んー、それなんだけど、良く考えてみて?ルシア。本当に助けて欲しい人が、綺麗に食事を平らげたあげく、丁寧に包装し直して、元の通りに紙とペンをくくりつけて返してくると思う?あれ絶対、書く言葉が見つからなくて、面倒くさくなった感じよ?間違いないわ……」
「……お姉ちゃん……」
「うん?」
「なんでそこまでテレサちゃんのこと、分かるの?」
「いや、別に分かってるわけじゃないわよ?何となくそんな気がしただけ……(うわ、もしかして私の思考、テレサに毒されてる?!)」
と、ルシアの指摘を受けて、内心で焦るワルツ。彼女の”面倒くさくなった”という推測は完全に当たっていたものの、それは彼女がテレサのことを理解していた結果ではなく、単なる偶然だった——らしい。
「……あやしい」
「……なら、ルシア。もしもだけど、私がテレサの思考を読めるくらいにテレサの事を理解しているとして……それって、ルシア、受け入れられる?」
「……えっ?」
「テレサの思考が手に取るように分かるのよ?私が。それって……どうなのかしら?」
「すっごく……嫌かも」
「でしょ?……じゃぁさ?今度は逆に考えてみてよ?ルシアがテレサの思考を読めたらどうする?それってつまり、ルシアがテレサのことを——」
「……お姉ちゃん」
「うん?」
「なんか不毛だから、このこと考えるのもうやめよう……」
「……そうね」
口々にそう言ってから、無言になって……。そして再び世界樹の中を歩き始めたワルツとルシア。
それからも彼女たちは、ここまで繰り返してきた通り、遠距離からでは電波が通りにくい世界樹の中で、テレサに向かって無線機による呼びかけをつづけたものの……。その後も、テレサからの応答は無かった。
ちなみに、世界樹の中でテレサを捜索していた者たちは、彼女たち2人だけではない。マクロファージを操るコルテックスと狩人も、遠隔地のミッドエデンから、テレサの捜索に加わっていた。そのほかの者たちは、いつどこから攻撃されるとも分からない世界樹の中で探査するのは極めて危険だったこともあって、外で待機している。
ただ、コルテックスたちは、ワルツたちとは別行動をしており、その場には姿は無かった。4人で同じ場所を回るよりも、分散して探した方が効率的だと考えたのだ。おそらくは今頃、ワルツたちとは世界樹の中心を挟んで反対側を捜索しているのではないだろうか。
そして日が沈み、夜になり、さらには深夜になって……。ルシアの体力的な限界を考えたワルツは、その日の捜索を打ち切ることにしたようである。
「ルシア?今日はもう——」
「ううん。帰らない。テレサちゃんを見つけるまで、私、諦めない……」
「でも、ルシア?貴女が倒れちゃったら、他の人たちに迷惑が掛かるのよ?(特にカタリナに……)それに、テレサなら今すぐどうにかなるってわけじゃないんだから、一旦戻っても、そう事態は変わらないと思うわ?ちょっと1日、寂しい思いをするだけよ?テレサが……」
ワルツはそう言って、妹のことをなだめると……。今度はルシアが、少し考え込んだ後で、どこか申し訳なさそうにこう言った。
「……なら、最後に、あのおっきな森を見ていきたい。あの場所で呼びかけて返事がなかったら……今日は諦めて帰ろうと思う」しゅん
「わかったわ。どの道、帰る途中で寄ることになるだろうから、森がよく見える場所まで行ったら、呼びかけてみましょ?」
「……うん」
そう言って踵を返すと、来た道を戻って、世界樹に入った亀裂がある方向へと歩き始める姉妹2人。
そして30分ほど世界樹の中の空洞を移動して、2人は光るキノコが転々と生えている大空洞まで戻ってきた。
少しだけいのべーしょん、なのじゃ。
……いや、もしかすると、ここ数日の文章は、かなり変わっておるかも知れぬ……。




