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4中-04 変装

次の日。


空はいつも通り晴れ渡っている。


(・・・雨は振らないの?)


ワルツの脳裏に、徐々に不安めいたものが渦巻き始めていた。

実は、この世界に来てから2ヶ月弱、一度も雨が降ったことはないのだ。


狩人や酒場の店主の話でも、ここまで雨が振らなかったことは今まで無いのだという。

だが、何が原因なのか分からない以上、ワルツにはどうしようもないのだが・・・。




さて、朝早くに2名の女性たちがこの村から旅立った。

故郷に恋人を残してきた女性である。


本来なら、商隊の馬車に便乗して旅立つ予定だったが、偶然通りかかった冒険者達と共に村を出て行った。

どうやら、その冒険者達とは顔見知りだったらしい。


冒険者達に魔女狩りから救出したことがバレないか心配だったが、なんとか話を誤魔化せたようだ。

この後は、一度、冒険者達が拠点としているサウスフォートレスまで出てから、王都方面の商隊に便乗して故郷に帰っていくのだろう。


彼女達が出発する際に、ワルツは故郷までの旅費と食事代などの諸費を合わせたお金を持たせた。


(ここで出し惜しみして、何かあったときに恨まれると嫌だしね)


ワルツの忠告を聞かずに、村を離れる者達である。

自ら危険な目に会いに行くというのだから、それを保護する必要はないだろう。

だが、放置するわけにもいかないので、十分な路銀を持たせた、というわけだ。

ある意味、リア充勝手に爆発しろ、と同様な意味合いを含んでいるのかも知れない。


もしも再び捕まった時、ワルツは彼女達を助けないだろう。

しかし、その際、彼女達の口からアルクの村のことが漏れる恐れはあった。


(口封じのために・・・いや、やめときましょ。まぁ、その時はそのときね)


一瞬、物騒なことがワルツの脳裏を掠めたが、結局、細かいことまで考えるのは面倒になるワルツだった。


というわけで残る問題は、直ちに村を出たいと言った、あと2名の女性達だ。


それぞれ故郷に子どもを残してきており、この村まで連れてこなくてはならない。

見捨てると言う選択肢は、面倒事が嫌いなワルツと言えどあり得なかったのである。


その際の移動にはルシアが協力する予定だったが、先日の通り無理させるわけにいかない。

というわけで、ワルツが空を飛んで女性と子どもたちを向かいに行くことになったのだが・・・。


「嫌っ!お姉ちゃんが行くなら、私も行く!」


と言うのはルシアだ。


ワルツ達が工房のリビングで狩人の作った朝食を摂り終わった頃、一人遅れて起きてきた。

カタリナの作った、風邪薬の効果か、随分とぐっすりと眠れたようである。

治療を終えて一晩寝たら、熱も下がっていつも通りの体調に戻ったらしい。

果たして、カタリナが凄いのか、魔法が凄いのか・・・。


だが、何れにしても、体内の細菌が全滅したわけではないので、体力が落ちれば、再発する恐れは残っていた。


(うーん、どう返すべきか・・・)


ワルツは、自分のことをまっすぐと見つめてくる、目の前の(ルシア)にタジタジだった。

だが、本人の体調や、感染している細菌のことを考えると、簡単に同行は認められないのだ。


「・・・ルシア。今日は大人しくしていて。貴女のことが心配なの」


膝を折り曲げ、ルシアと同じ視線の高さになって優しく諭すワルツ。

すると、ルシアは俯いて泣きそうな顔をした。

寂しがり・・・と言うよりは、姉の役に立てないことが悲しい、といった感じか。

あるいは、いつまでも子供扱いされることが嫌なのか・・・。


「・・・次は一緒に行くから」


小さいつぶやきだったが、ワルツには十分に届いた。


「えぇ。お願いね」


「・・・うん」


ワルツとしてもルシアが来ないことで、女性たちやその家族に空を跳べることがバレてしまう、というデメリットがある。

だが、バレないようにするためだけに、地面を歩いて移動していたのでは、目的地に着くまでに一体どれだけの時間が掛かるか分かったものではない。


あるいは、近くに転移魔法が使える魔法使いがいれば手伝ってもらうという選択肢もあるのだが、この村に使える者はおらず、ワルツ達の知り合いにも殆どいなかった。

流石に、テレサが王宮に戻れば、知り合いの魔法使いに使える者が何人かいるようだが、まさか、王宮に助けを求めるわけにはいかないだろう。

あと知り合いといえば勇者達だが・・・まぁ、余談はいいか。


「まぁ、空を飛べるのがバレちゃうけど、仕方ないわね」


呟くつもりは無かったようだが、思わず考えが口から漏れた。

すると、


「ほう。お主、やはり飛べるのか」


テレサが反応する。

尤も、ワルツが飛べることは昨日、狩人から話してもらったワルツ話(?)で知っていたのだが・・・、


「是非、妾も一緒に連れていって欲しいところじゃ」


空を飛びたい、というのはどの世界でも共通した人の夢なのだろうか。

だが今回は、行きたがっていた ルシアに留守番してもらっているので、ただ行きたいから、という理由で同行を許可するわけにはいかない。


「今度ね」


丁重にお断りする。


「うむ。()()じゃぞ?」


妙に『絶対』のところに力を入れて話していた。

相当に空に憧れているのだろう。


「バレては困ると言うのでしたら、変装するというのは如何でしょうか?」


カタリナが口を挟む。


「変装?」


「はい。高度な技術を持った魔術師(上位の魔法使い)なら空を飛べるということを聞いたことがあります」


やはり、魔法で飛べるらしい。

だが、空を飛んでいる人を見たことが無いので、相当に希少なスキルなのだろう。


「つまり、魔術師っぽくなればいいってこと?」


「はい」


ワルツは頭の中で魔術師を思い浮かべる。


(オーソドックスな魔女になればいいのかしら・・・)


というわけで、以前ルシアに見せたことのある、真っ黒な三角帽とローブを羽織った、腰の曲がった老女に変身する。

ついでに曲がりくねった杖のようなものも手に持った。

もちろん、ホログラムで、だ。


「こんな感じかのう?」


ついでに、話し方も変えた。


「!?」


それに反応したのは狩人だ。

どうやら、知人に似ているらしい。


(そういえば、捕まっていた女性の中に似たような格好の人がいたような・・・)


何か関係でもあるのだろうか。


「そうですね、いい感じではないでしょうか」


「お主は本当に芸達者じゃのう?」


カタリナとテレサのお墨付きを貰ったようだ。


テンポだけ口を開いていなかったが、ワルツの様子を見て、自分の服と見比べていた。

今のテンポは普段着を着用しているが、旅や狩りの間は、今のワルツと同じような不自然に大きな三角帽と真っ黒なローブを羽織っている。

中身こそ違うが、遠目に見ればそっくりではないだろうか。

まぁ、腰が曲がっていたり、変な形の杖は持っていないが。


「ならばこれで行こうかのう」


腕をプルプルとさせながら杖を握るワルツ。

その状態で部屋の中を歩いてみた。


「どや?」


(私の演技、完璧でしょ?)


と、後ろを振り向く。


・・・が、仲間達は既に別の話題へと移っているのか、ワルツのことを見るものはいなかった。


「・・・」


腕だけでなく、身体全体がプルプルと揺れ始めるワルツ。

彼女の心の中では、言葉に出来ないもどかしい感覚が渦巻いているのだった。




「・・・というわけで、儂がお主達を郷里まで連れて行くのじゃ」


女性2人を工房に集めてこれからのスケジュールを説明するワルツ。

ホログラムの変装では、ワルツの顔までは変えられないので、帽子を深々とかぶり、顔を隠しながら話す。


スケジュールの内訳はこうだ。


まず、1人目の女性と共に故郷の子どもたちを回収しに向かう。

これを午前中の内に方付ける。


2人目は午後からである。

本来なら、1人目の家族を回収してきたらすぐに出発、と行きたいのだが、理由があって午後からということになった。


「よろしいかのう?」


『よろしくお願いします!』


2人から威勢のいい返事が返ってきた。


こうして、まず、1人目の女性の子どもを回収に向かうワルツだった。


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