9.4-04 本物4
『……ストレラー?いま良いー?ちょーっと、話があるんだけどー』
ストレラ……。それはワルツたちが作ったホムンクルスの1人。具体的には、アトラスの妹で、コルテックスの姉である。まぁ、正確に言うなら、3人がこの世界に誕生したのは数秒の差なので、年齢に上下はなく、”三つ子”と言っても良いかもしれないが。
そんなストレラに対し、電波を飛ばしたワルツは、このとき、妹から飛んでくるだろう返答を想像して、少し緊張していたようである。緊張していたがゆえに、それを誤魔化すために、無理に明るく話しかけたらしい。
というのも、ワルツは、ストレラの事を、短期間の間だけメルクリオ王国に派遣すると言っておきながら、ほぼ放置状態で、今日この日まで連絡を取っていなかったのである。そのせいで、妹から何を言われるか、心配でならなかったようだ。まぁ、メルクリオ王国は、ワルツたちのミッドエデン共和国と、彼女たちが敵対するエクレリア王国(?)の中間にある国なので、同じホムンクルス姉妹のコルテックスとは密に連絡を取り合って、戦線の調整を行っているようだが。
それからまもなくして、ストレラから返答が戻ってくる。
『無理』
ツーッ、ツーッ、ツーッ……
漢字にしても、音にしても、たったの2文字だけ口にして、瞬時に通信を切断するストレラ。どうやら彼女は、ワルツの予想通り、相当に立腹しているらしい。
しかし、ワルツの方も、そこで諦める程度の豆腐メンタルではなかったようだ。
『……放置して申し訳なかった、って思ってるわよ?それに、エクレリアへの対処を任せてることにもね……』
すると、その言葉に対し、無線通信を切断したはずのストレラから返答が戻ってくる。
『断言するけど、姉さん、絶対、申し訳無いなんて思ってないでしょ?どーせ、内心では、この時さえ乗り切ればそれでいいとか思ってんじゃないの?そうでもなければ、長い間、音沙汰無しとか、ありえないじゃない』
『…………ホントごめん』しゅん
図星だったのか、それとも言い返す言葉が見つからなかったのか……。通信越しにも分かるほどにシュンとするワルツ。
対してストレラの方は、そんなワルツの反応を謝罪として受け取ったのか、少しだけ態度を変えて、こう言葉を続けた。
『もう今となっちゃ、別に良いけどさ?メルクリオにも私の居場所のようなものが出来たから、わざわざミッドエデンに帰ろうとは思えなくなったし……』
『……?居場所?』
『えぇ、居場所。それなりに居心地の良い居場所よ?私って、カノープスと一緒に、この国メルクリオ王国の、仮初めの王族として生活を送っている訳だけど、この立ち位置にいると、色々とやりたい放題出来るのよ。……頭の良い魔物たちを集めて私兵部隊を作って、定期的にS級の冒険者を襲ったり、兵士たちを襲ったりして、風紀の引き締めをする、とかね。意外と悪くないわよ?この、姫の立場、ってやつ』
『いや、悪いとか悪くないとかそういう以前の……えっと、楽しそうね?』
ストレラの言葉を否定したなら、彼女の機嫌が悪くなってしまうような気がして、とりあえず肯定することにした様子のワルツ。そんな彼女は、妹の機嫌を、できるだけ良い状態に保っておきたかったようである。なにしろ、ワルツがこうして連絡したのは、何も、ストレラの声が聞きたくなったから、という訳ではなく、彼女に頼み事があったからなのだから……。
そんなワルツの意図を察したのか、ストレラはこんな問いかけを姉に対して投げかけた。
『まぁね?そういえば姉さん、今日は何か用?まぁ、用事も無く連絡してくるわけがないわよね?今まで連絡、寄こさなかったんだし……』
『うっ……』
『あら?図星?』
『……う、うん。貴女さ……マナって知ってる?あの透明な水っぽい見た目のやつ。まぁ、メルクリオって魔道具の一大生産地なんだし、知らないわけがないわよね……』
『えぇ。そりゃもちろん知ってるわよ?……ふーん。つまり姉さんは、マナが欲しいって訳ね?でも、私が怒ってると貰えないかも知れない、って?』
『うっ……』
『魂胆が見え見えね……』
と、どこか嬉しそうな様子で、そう口にするストレラ。そんな彼女は、長い間、連絡をしてこなかった姉に対して怒っている、というわけではなかったようだ。
とはいえ、喜んでいる、というわけでもなかったようだが。
『そっかー……姉さんの頼みかー……どうしよっかなー?』
『そこをなんとか……』
『でもさ?マナくらい、ミッドエデンにもあるんじゃないの?それとも、もしかして姉さん、ミッドエデンの何処にマナがあるか分からないとか?まさかねぇ?』
『いや、マナがある場所とか、作り方とかは、もちろん分かってるわよ?(カタリナとコルテックスが……)でも、ちょっとだけ足りないのよ。ミッドエデン中にあるマナをかき集めても、ね……』
『は?何ってるの?姉さん……』
『いまさー、アルボローザって名前の国にいるんだけど、そこにある世界樹が折れそうなのよ。それで、カタリナに修復してもらうのに、大量のマナが必要、ってわけ。大体……貴女の国の真ん中にある大きな湖1個分くらいの大量のマナが、ね?』
ワルツがそう口にした瞬間——
『無理』
ツーッ、ツーッ、ツーッ……
——と、再び回線を切断するストレラ。
それからというもの、彼女はワルツの連絡に応答することはなく……。そのやり取りを聞いていたカタリナが直接呼びかけるまで、ストレラは無視を決め込んだようだ。




