9.4-03 本物3
その後、四天王たちから、国内や王城の中を自由に歩き回れる権利を奪い取ってから……。ワルツは早速、その権利を行使して、王城の中を歩き回っていたようである。とはいえ、行き先は、アルボローザの国宝が眠るだろう宝物庫、ではなく……。未だ眠り続けていたメシエの容態を看ていたカタリナの所だったようだが。
「……って事になったのよ。ホントどうしたものかしらね?冗談抜きに、私が空に上がる?多分、その間、碌な事にならないと思うけど……」
「相変わらず、すごい端折り様ですね?」
「えっ?まぁ、何てことはなくて、裏に本物の魔神がいた、ってだけの話よ?」
「あ、そうですか」
「貴女、なんか反応、薄くない?」
「だって、魔神なら……いえ。何でもありません」
「……カタリナ。この際だから、白黒付けようじゃないの。私は魔神じゃなくて、マシンよ?」
「似たようなものだと思いますけどね……。ほら、魔神とマシンって、音もすごく似てますし……」
「貴女……言うようになったわね?」
もはや敵無し、といった様子のカタリナを前に、どこか不満げな表情を浮かべるワルツ。なお、彼女たちは、なにも喧嘩をしていたわけではなく、いつも通りの挨拶のようなものを交わしていただけである。
そんな2人がいたのは、王城の中にあった重役専用の仮眠室。そこには、ベッドに寝かされたメシエと、彼の横で泣き疲れたかのように眠るランディー、それに、彼女たちを急な攻撃から守るために、護衛の任を買って出ていたユキと賢者もいたようである。もちろん、ここに来るまでの間、ワルツと共に行動してきたシュバルも一緒だ。
なおコルテックスは、ワルツが殺虫剤の散布を終えたことで、二次被害を受ける者たちが新たに現れる心配が無くなったために、ポテンティアと共に、ミッドエデンへと帰っていった。あまり国を長く開けると、放置されている兄のアトラスの機嫌が悪くなる上、エクレリアの者たちがいつやってくるとも分からなかったので、長居は出来なかったようだ。
そのほか、テレサたちの事については、後ほど述べるとして……。カタリナの治療を受けたドラゴンたちは、まだ家には帰っておらず、王城の敷地内で老人会(?)を催していたようだ。ただし、人の姿で、ではなく、元の姿で、だが。
というわけで。
ワルツは、四天王たちとの会話で判明した”魔神”についての話をカタリナとしていたわけだが……。それを聞いていたカタリナにとっては、”魔神”の登場など、さして重要な事ではなかったようである。それはもちろん、ワルツが魔神扱いされていたことも理由の1つだったが……。”魔神”をどうするかなど、2択しかない上、すでに決まっているようなものだったので、いまさら彼女が頭を悩ませる必要など何処にも無かったようだ。
結果、カタリナは、魔神の話を早々に切り上げると、自身に任せられていたタスクについて、話し始めた。
「まぁ、魔神についてはワルツさんにお任せするとして……その間、私は、世界樹の修復をすればいいですか?」
「今、サラッと私に、重役を押しつけたわね?」
「そうですか?では、魔神退治は、私が行ってきますね?」
「……ごめんカタリナ。それはそれで本当にどうにかなりそうだけど……世界樹の方は、私がどうにか出来る問題じゃないから、そっちの方、お願い……」
「えぇ、もちろん冗談です。宇宙空間での酸素の確保は、私一人だけでは限界がありますからね」
「……そう(でも、魔神をどうにかできるって言うところは、否定しないのね?)」
と、短く口にしながら、内心で少しだけ呆れていたワルツ。それは、2人の会話を聞いていたユキや賢者も同じだったらしく、2人とも揃って苦笑していたようだ。
なお、そこにはシュバルもいて、彼も会話を聞いていた訳だが、そんな彼が何を思ったのかは——
「…………」にゅるっ!
——不明である。
「そんなわけだから、貴女は世界樹の修復をしてもらえるかしら?どう?できそう?」
「大量のマナが必要になりますので……可能とも無理とも現段階ではお答えできません。ルシアちゃんやコルテックスとも相談してみないと、なんとも……」
「まぁ、そうよね……。あ、そうだ。そういえばさ?マナについて、私にちょっと当てがあるのよ」
「……当て?」
「そ、当て。もしかしてカタリナ……魔法の使えない私が、マナに当てがあるはずない、とか思った?」
「はい」
「……ストレートね」
と、にっこりと優しげな笑みを浮かべながら肯定するカタリナに対し、ジト目を向けるワルツ。その後で、彼女が手のひらをグーパーグーパーと開いたり閉じたりしていたのは、最近は小康状態にあった中二病が再発したためか……。
それからワルツは、無線通信システムを起動すると、とある人物へと電波を飛ばしたようである。
具体的には——人の領域と魔族の領域を隔てる大河の向こう側。さらには、そこから幾重にも山脈を越えた、その向こう側へと……。




