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4中-03 治療

当初、ワルツはカタリナに対して、抗菌薬の知識を教える予定でいた。

抗菌薬としては、ペニシリンなどの抗生物質が有名だろう。


だが、カタリナの行動は、ワルツの想像の上を行っていた。


まず、加熱滅菌した金属製の細かい網(ワルツ製)を用意する。

次に、


「ルシアちゃん、ちょっと痛いですが我慢して下さい」


と言ってから、腕に注射針(ワルツ製)を刺して採血をする。

尤も、ルシアは寝ているのでその言葉は聞こえないだろう。

・・・それ以前に、全く起きる素振りを見せないところを見ると、カタリナの注射スキルは相当なものなのかもしれない。

実は謝らなくてもいいのではないだろうか。


さて、その後、結界魔法を掛けた金網をフィルターとして、血液をろ過する。

最後に、採血した血液を再度、ルシアの身体に戻せば終わりだ。


つまり、人工透析と同じ原理である。


ただ、結界魔法の特性を調整すると、ろ過する対象を自由に選択することができるので、この場合のように、細菌や毒素のみを取り除くことも可能だ。

人工透析とは似ているが、現代世界のものとは比べ物にならないほどフィルターが高性能なので、やっていることは別物と言っていいだろう。


「身体全体の血液をろ過するためには相当時間が掛かると思いますが、これなら細菌や毒素によってこれ以上体力を落とすということは無いのではないでしょうか?」


この方法と回復魔法を併用すれば、抗体ができるまでの時間稼ぎになる。

つまりは、体力を落とさないように回復させつつ、細菌を減らすことができるのである。


「なるほどね」


ワルツは純粋に感心していた。


ワルツが教えようとしていた抗菌薬は、何も、身体に害のある細菌だけを攻撃するわけではない。

例えば、経口で飲むタイプの場合、腸内細菌を善玉悪玉問わず死滅させてしまうため、腹痛や下痢などの症状を引き起こすなどの副作用が出る可能性が高い。

その他にも免疫力の低下や肝機能障害など、人によっては様々な副作用が出るので、抗菌薬の多用や常用は勧められないのである。


だが、カタリナの方法だと、針を刺す際に感染症を引き起こす恐れはあるものの、基本的には自分の血を濾過してまた戻すだけなので、そういった副作用は考えられない。

もしも感染症を引き起こしてしまったとしても、同じ方法で血液を濾過しつつ、回復魔法をかければ大きな問題にはならないのである。


つまり、今回のようにダニ等によって噛まれることによって血液中に細菌が入り込んだ感染症に関しては、特に優れた処置であった。


欠点を言えば、体中の血液をろ過するために時間が掛かることと、その間、術者がフィルターに魔力をかけ続けなければならないことだろうか。


「まだまだ、改善の余地はあるけど、素晴らしい方法ね」


「そうですね。もう少し、病気のことが分かれば、もっと効果的な方法が見つかると思うのですが・・・」


カタリナは、ルシアの治療を続けながら、もっとより良い方法が無いか考えているようだ。


「結界の使い方、か・・・」


ワルツも、結界の新しい可能性について、考えるのだった。




さて、ルシアを治療している間、リビングでは狩人、テンポ、テレサが神妙な面持ちで話し合っていた。


「ルシア・・・大丈夫だろうか・・・」


「狩人殿、これで10回目じゃぞ?」


『大丈夫か』という発言が、である。


「すまんな。ワルツやカタリナが付いているのだから、滅多なことにはならないと思うのだが・・・」


どうやら狩人は、ルシアが『斑点病』に掛かっていることを薄々感じているらしい。

冬でもないのに流行病(インフルエンザ)のような症状を発症するとなれば、確率が高いのは斑点病くらいなものなのだから、当然だろうか。


「大丈夫ですよ。お姉さまもカタリナも、私を作るほどの技術と能力を持っているんですから」


「あぁ。そうだな」


・・・というやり取りを10回繰り返しているのである。


「じゃが、お主がホムンクルスとは、全く見えぬがのう・・・こうしてみると、完全に普通の女性じゃが・・・」


同じことを何度も繰り返すのも、どうかと思い、テレサが別の話題を振った。

大丈夫と分かっていることを悩み続けていてもしかたがないのだ。


「そうですね・・・証明するのは難しいですが・・・」


そう言って、手を開くテンポ。


「私にできることはこのくらいですかね」


すると、突如としてテンポの手の上20cm程度の場所に、金属質の4つの塊が現れた。

()()()()機動装甲の掌である。

親指、中指、小指?、そして掌で構成される3つ指の巨大な手で、重力制御で浮いているため、それぞれの指は掌と物理的に接触していない。


「お姉さまの手を自在に操れる・・・というのは、ホムンクルスの証拠にはならないですね・・・」


ワルツと同じ頭脳を持っていないと、機動装甲のハッキングなどできるわけがない。

だが、それを説明するためには、機動装甲自体のメカニズムやハッキングの概念などを伝えなくてはならず、結局、理解してもらうことは叶わないだろう。


自分がホムンクルスであることの証明が意外に難しいと感じるテンポ。


「いや、別に疑っておる訳ではないぞ?」


「私には、その手を扱えるだけで、十分な証拠だと思えるがな」


「うむ」


狩人の言葉に、テレサも同意する。


「それならいいのですが・・・。そうですね、あまり、口外すべきことでもないので、逆に、証明する方法が無い方が私達にとっては良い事なのかもしれませんね」


仲間以外の誰かにバレてしまうと、碌な事にはならない事案の一つだろう。


「そういえば、随分と秘密なことが多いよな。私達」


狩人は今までのことを思い出しているようだ。


「ん?まだ、何か秘密を隠しておるのか?」


「そうだな・・・って、テレサに教えると困ることって何かあったか?」


下手なことを言う前に、狩人がテレサに問う。


「いえ、テレサはお姉さまが認めたメンバーの一人です。特に聞かれて困ることは無いでしょう」


「そうか・・・なら・・・」


と、狩人はワルツと出会ってから、これまでのことを話し始めた。


ある日突然、アルクの村にやってきたこと、勇者と戦ったこと、命を救われたこと、一緒に狩りをして楽しんだこと・・・などなど、狩人が思い付く限りの約2ヶ月分の思い出をテンポに教えた。


「・・・と言う感じに、どうしても美味い食事が作れないみたいなんだ」


最後はメシマズで終わる。


「・・・お主・・・」


テレサは気づいた。


「先程から、ワルツ殿の話しかしていないのじゃが・・・」


パーティーの秘密の話をしているのに、何故かワルツの話ししか出てこなかった。


「ん?そういえば、そうだな・・・」


それじゃぁ、ルシアやカタリナの話でもしようかと狩人が考えていると、


「・・・まさか、ライバルじゃったか!?」


テレサの視線が急に鋭くなる。

が、冷たくなったわけではないようだ。

むしろ、何か熱いものを感じる。


その視線が何を意味するのか・・・理解できる狩人は、やはり同じ穴のムジナではないだろうか。


「・・・いや、それはない」


だが、真っ向から否定する。


「ワルツは、私の初めての友達なんだ。大切だけど、結婚しようとは思わないよ」


『そもそも同姓なんだから出来るわけないし』、と口にはしない。


「そうか・・・残念じゃ。良きライバルになれると思ったのじゃが・・・」


「ははは。すまんな」


普通は、『ライバルって何だよ』と答える所だが、何故か狩人は謝った。

所謂、『むっつり』というやつだろうか。

あるいは、『お前など、眼中には無い!』という意志の現れか・・・。


「・・・」


そんな2人のやり取りをテンポは静かに見ていた。

・・・というより、ついて行けなかったので、結局、視線を既に真っ暗になっている窓の外へと移した。


「(・・・窓の外には、お姉さまの機動装甲(本体)がいるのでしょうね・・・)」


などと思いながら、だ。


要は、ここでの会話は全てワルツに聞かれているのである。


「(誰にも言えない、このパーティーの本当の秘密はそこでしょうね)」


だが、それに気づかない2人は、少し歪んだガールズトークを繰り広げていた。




それから間もなくして、ワルツとカタリナがルシアが寝ている客間から出てきた。


「容態は落ち着きましたが、しばらくは安静にしておいたほうがいいでしょう」


カタリナがルシアの容態を告げた。


「大丈夫なのか?」


11回目の狩人の言葉である。


「えぇ、流石カタリナ。もう安心してもいいわね」


カタリナは、先ほどの透析魔法(?)から、更に進歩した治療法を確立していた。


「流石じゃな。もう、様子は見に行ってもよいのか?」


「えぇ。空気感染や飛沫感染はしないから、いいわよ?」


「くうき?ひまつ?」


「・・・要は伝染らないってことよ」


テレサには伝わらなかったようだ。

同時に、狩人も分からなそうな顔をしている。


「でも、寝ているので、覗くくらいにしてくださいね」


すると、ドアの隙間からルシアの様子を伺う2人+1人(テンポ)

口には出さなかったが、テンポも心配していたのだろう。


3人の視線の先では、ルシアが規則正しい呼吸をしていて、うなされている様子もなかった。


「まだ、完全に治ったわけじゃないから、もうしばらく様子を見る必要はあるけど、もう問題はないはずよ」


その言葉とルシアの様子に、3人とも安心したようだ。




「・・・となると、子どもたちの回収はしばらく先になるのか?」


魔女として捕らえられていた女性達。

その中でも、すぐにこの村を離れて迎えに行く、と言っていた者達の子どもである。


本来なら、ルシアの転移魔法とワルツの飛行によって迎えに行く所だったが、ルシアがこうなってしまっては、すぐに迎えに行く事は出来ないだろう。


「そうね・・・ルシアが行くなら、1週間は様子を見たいところね・・・」


天使との遭遇を考えて、万全を期すなら十分に回復の時間をもたせるべきだろう。


「というわけで、私が行ってくるわ」


「いいのですか?」


空を飛べることがバレてもいいのか、と言う意味である。


「仕方ないでしょ?」


人命と個人的な機密情報。

天秤にかけるほどのことでもない。


というわけで、ワルツが一人で子どもたちを迎えに行くことになったのだった。




・・・ちなみに、その日いっぱい、ワルツは狩人とテレサに視線を合わせなかった。

その理由は言うまでもないだろう。

とは言っても、狩人もテレサも気にすることは無かったのだが・・・。


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