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9.3-35 悪魔35

 ベアトリクスによって、まるで人形か小動物のように軽々と抱きかかえられ、城の方へと向かっていったテレサと他数名の少女たち。

 そんな彼女たちは、そこで自分たちに向けられていた視線に、気付いていなかったようだ。


「あれは……ルシアちゃん?」


「はい。ルシアちゃん、テレサ様、ベアトリクス様、それにイブちゃんです。おそらくは虫除けの薬が出来て、ワルツ様の所に報告に行った帰りでしょう」


「虫除けの……薬?えっと……もく……もく……」


「……木酢液ですね」


「あっ……それです」


 そにいたのは、王城の裏で、世界樹の方からやってくる黒い虫たちに対応していた勇者とリアだった。早朝までそこには、賢者やユキ、それに水竜たちがいたものの、殺虫剤散布によるトラブルが生じてからは、勇者とリアの2人だけで、その場にやってくる虫たちと戦っていたのである。

 とはいえ、直径8kmにも及ぶ世界樹からやってくる虫たちに対し、たった2人だけで対応していたのか、というと、そういうわけでもなく……。王城を守るアルボローザの兵士たちと共に戦っていたようだ。

 ただ、何も問題は無いか、というと、そういうわけでもなく……。2人は今、予想外の問題(?)に直面していたようだ。


「でも……虫除けの薬ができても……虫……いないですよ?」


「そうですね……。休憩から戻ってきてからというもの、殆ど見かけませんね」


「私たち……ここで……まだ待機ですか?」


「リアは、時間がもったいない、と思うのですね?」


「……はい」


 再び、大量の虫たちと戦うのかと思いきや、子どもでも対処できるのではないかと思えるほどの数しか現れず、勇者もリアも、暇を持て余していたのである。

 それはアルボローザの兵士たちも同じで……。今では、兵士たちの数も、半分ほどに減っていた。そのせいもあって、虫の密度も、そして人口密度も下がってしまったその場の現状を見ていたリアは、このままで良いのか、と疑問を持ったようだ。


 しかし、一方で、勇者は、リアと同じ事を考えつつも、彼女とは少々異なる考えを持っていたようだ。


「……私たちは、いわば、最終防衛線です。たとえ虫たちが減ったとしても、完全に安全が確認できるまでは、動くべきではないと考えています。……こういう場合によくあるのですよ。自分たちが離れた瞬間に、その場にいた味方が、急に敵に襲われて全滅する、というケースが、ね……」


 そう言って目を細める勇者。そんな彼の脳裏では、もしかすると、後悔した際の光景が浮かび上がってきていたのかもしれない。なお、これは蛇足だが、逆に、その場を離れたために、全滅した仲間(パーティー)もいたとかいなかったとか……。


 そんな勇者の言葉を聞いたリアは、難しそうな表情を浮かべて考え込んだ後で……。勇者パーティーの他のメンバーが度々口にしている言葉を真似るかのように、勇者に対してこう言った。


「……たとえどんなことがあっても……私は……勇者様に……付いていきます。ですから……勇者様が……ここに残るというのなら……私も……残ります」


 それに対し勇者は、少々申し訳なさそうに返答する。


「すみません、リア。暇を持て余しているのは承知しています。その代わり、リアの要望を1つ聞きますので、遠慮無く言って下さい」


「……要望?」


「はい、要望です。願いや頼み、希望など……私に叶えられるものなら、1つだけ叶えます。ただ叶えるのは私なので、大金が欲しいとか、世界が欲しいとか、そういう実現困難な頼みではなくて、出来れば……簡単な頼みにしてください。まぁ、場合によっては……難しくても叶えますけどね?」


 そう言って苦笑を浮かべるメイド姿の勇者。

 対してリアは、少しの間、考え込んだ後で——


「……分かりました。では……1つ……お願いをしようと……思います」


——と、結論にたどり着いたらしく、ゆっくりと口を開いて願い事を言った。


「虫たちが……やって来るまでの間……私と一緒に……ダンスの練習を……してくれませんか?」


「……?それで良いのですか?ダンスの練習だけで……」


「……やっぱり……もう少し大変なことを……頼んだ方が良かったですか?」


 という言葉と共に、にっこりと笑みを浮かべながら、そっと右手を差し出すリア。

 すると勇者は、自身も小さく笑みを浮かべて首を振ると……。差し出されたその手を取り、彼女の腰に手を当てた。


「いえ。ダンスの練習でお願いします。もしかすると、また近々、ちゃんとしたダンス会が行われるかも知れませんから、そのときに皆さんのことを驚かせるとしましょう」


「……はい」


 そして、その場でゆっくりとしたステップを踏み始める勇者とリア。


 その際、勇者は、少しだけ、周りの兵士たちの視線が気になっていたようである。つい半日前まで、ここには戦場が広がっていて、そこでは何名かの兵士たちが戦死していたので、少々不謹慎ではないか、と思ったらしい。

 しかしそれでも彼がダンスを踊ったのは、それが掛け替えのないリアの願いだったから、あるいはそのステップに何か特別な意味があったためか……。



「リアの要望を1つ聞きますので、遠慮無く言って下さい。あ、でも、"世界の半分が欲しい"とか、腐れ勇者みたいなことは出来ないので、私に叶えられる範囲で言って下さいね?」


「……カタリナが……憎い……!」


〜完〜


……もちろん撃退されて終了なのじゃ。

というか、本当にリア殿がそんなことを言ったら、勇者殿はどうするつもりだったのかのう?

どう考えても、良い展開にはならない気しかしないのじゃ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 1097/1862 ・レオちゃんとリアちゃん可愛い。 [気になる点] ・あれ? 妾さんって、マントル突き抜ける程度の質量じゃ……(たぶん人違い) ・この辺、文章の塊がデカい気がする。 …
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