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9.3-33 悪魔33

ゴゴゴゴゴ……


「……なーんだ。スケッチブックがあるなら、最初から出してくれればいいのに……」


「「「えっ?」」」


「あー、いま聞こえてなかったわね……」


 今なおシュバルが意気揚々とクランクを回していたために轟音を響かせていた巨大な送風装置。その側へとテレサたちはやってきて、身振り手振りのジェスチャーを使い、ワルツとの会話を試みようとしたようだが、やはりそれには限界があったらしく……。偶然ユリアが持ち合わせていた(?)スケッチブックに文字を書いて、それをワルツに見せて、コミュニケーションを取ることにしたようだ。どうやら彼女たちには、会話の間だけでもファンを止める、という選択肢は存在していなかったらしい。

 ただ……。それは何も、単に頭が回らなかっただけ、というわけではなかったようである。もしもファンを止めたなら、離れた場所で木を燃やしている剣士たちのところから煙が排出されなくなり、あまり見たくない類いの燻製ができあがってしまう可能性を否定できなかったのだ。

 それに気付いたワルツは、もう少しで止めそうになっていたクランクを、すんでの所で回し続け……。勢いが付いたところでシュバルと交代して、そして現在に至る、というわけである。

 やろうと思えば、ワルツお得意の読唇術を使ってテレサたちの口の動きを読み取り、そしてワルツ自身はパラメトリックスピーカーを使って皆に言葉を送れば、遠い場所から会話することも不可能ではなかったのだが……。短い時間の間では、さすがにそこまでは思いつかなかったようだ。


「(すまぬが、ワルツも、このスケブ(スケッチブック)に書いて、筆談してくれぬかの?回りがうるさくて聞こえないのじゃ)」


 ユリアから借りているというスケッチブックにそう書いて、それをワルツに見せながら、彼女にペンを渡そうとするテレサ。

 すると、それを見たワルツは、どういうわけか眉を顰めながらも、テレサからペンを受け取って、そこに自身の言葉を書き始めた。


「(別に、ここに書く言葉まで、”妾言葉”を使わなくたっていいんじゃないの?)」


「(”妾言葉”?ワルツが何を言っておるのか、妾にはよく分からぬのじゃ)」


「(それがテレサのアイデンティティーだ、っていうなら、別に良いけど。で、何?何か用?」


 と、大きな酒瓶を片手に持ってその場へとやってきたテレサたちが、いったい何をしにやってきたのか、確認するワルツ。そんな彼女には、テレサたちが、単に酒を飲み交わすためにやってきたようにしか思えなかったようだが、もちろんそんなことはなく——


「(木酢液が完成したのじゃ?それで、()()をどうするか、相談しようと思っての?)」


「(そういうことね。ようやく合点がいったわ)」


——ワルツは酒瓶の中身を知って、事情を把握したようだ。


「(何じゃと思っておったのじゃ?)」


「(飲酒のお誘い?)」


「(ふむ。ワルツがその気なら、妾も一肌脱ぐ覚g)」


「(はいはい。木酢液の作成、お疲れ様。で、これをどうするか——っていうか、何処にどうやって撒くかを相談しに来たのね?)」


「(うむ。その通りなのじゃ。まずは、手短に、王城の周辺にでも散布すればいいかの?)」


「(そうねぇ。今、木酢液を使ってやらなきゃならないことが2つあるわ?1つは、人命の確保。これには、街の人たちだけでなくて、王城の中で寝込んでるベガのことも含まれるわね。そしてもう1つが、世界樹の保護。もしも倒れちゃったりしたら、ここに住んでる人たちも無事では済まないと思うし。あ、どっちの優先順位が高いとかは無いわよ?どっちかがダメになったら、両方ともダメになると思うし)」


「(つまり、2手に分かれて行動するのかの?うち1班は町の中に散布する担当で、もう1班が世界樹に散布する担当なのじゃ)」


「(正確には3手ね。私やシュバルと、あと剣士たちもここから離れられないから)」


「(ふむ。ではどのようにして、班を分けたものかのう?)」


 スケッチブックにそう書いてから、後ろを振り向くテレサ。

 そこには、背中に翼を持った者たちが3人、持っていない物たちが自身を含め、これまた3人いて……。その上で作業場所を考えると、班分けの答えは自ずと見えてきたようだ。


 その結果、ひとり頷いた様子のテレサを見て、ワルツがスケッチブックに追記した。


「(決まったみたいね?)」


「(ユリア、マリー嬢、ダリア殿が世界樹へと行って、妾、ベア、イブ嬢が街に行く担当なのじゃ。本当は空から町に撒きたかったのじゃが、ワルツの手が空いておらぬと言うなら仕方ないのじゃ)」


「(すまないわね。何かあったらすぐに飛んでいくから、頼むわね?)」


「(任せておくのじゃ!あと、連絡だけは取れるようにしておいて欲しいのじゃ?ワルツに呼びかけても返事が無い、と剣士のやつが嘆いておったのじゃ)」


「(しかたないわね)」


「では行ってくるのじゃ!」


 と、最後の言葉だけは、スケッチブックには書かず、直接ワルツに向かって口にするテレサ。


 それから彼女たちは、ワルツとシュバルがいた場所から離ると……。会話が出来る程度に静かな場所まで移動してから、役割分担を確認し始めた。


 その内容自体には、誰一人として異論は出さなかったものの……。ただ1つだけ、変更が生じることになる。その原因は——空から降ってきた。


「お゛ね゛ぇ゛ぢゃん!!寝過ごしたっ!」


ズドォォォォォン!!


 先ほどまでカタリナと共に仮眠を取っていたはずのルシアである。


 そんなルシアは、姉を見つけるや否や、彼女の側に降りたって……。そして、身振り手振りで会話を始めたようである。

 その際、ワルツが、なんとも微妙そうな苦笑を浮かべていたのは、直前まで似たようなやり取りを誰かと交わしていたことを思い出したためか……。



同じ穴の狢とはこれいかに……。


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