9.3-32 悪魔32
そして……。
「ワルツはどこにおるのかのー…………いた!」きゅぴーん
剣士たちがいた場所から大きな装置を辿って世界樹の麓にやってきたテレサは、自身の本能と直感、その他諸々を駆使して、ワルツの所へと辿り着いた。
しかしそこでは——
「……む?あれは……何をしておるのじゃ?」
——と、テレサが思わず首を傾げてしまうような、不可解な状況が展開されていたようである。
一体、どんな状況が繰り広げられていたのか、というと——
ブォォォォォン!!
「あなた、頑張ればできるじゃない?シュバル」
「…………」にゅるにゅる!
ワルツと黒い不定形の物体シュバルが、大きな装置の側面から伸びたクランクを、猛烈な勢いで回していたのである。それも、かなりの轟音を上げながら……。
より具体的に言うなら、まるで自転車のペダルのように、一方方向にしか回らないクランクを、ワルツとシュバルが2人で交代交代で回していたようだ。ワルツはその手(?)を使って、そしてシュバルは全身を使って……。
特にシュバルの場合は、自身の身体を紐のようにしてクランクへと巻き付け、それを一気に引っ張ることで、まるでコマのようにクランクを回していたようだ。その結果、装置の内部にあった木製のタービンがすさまじい勢いで回っていた、と言うわけである。なおクランクに備え付けられていたワンウェイクラッチ(一方方向にしか力が加わらない装置)は、シュバルが手伝えるようにとワルツが追加で作った物のようだ。
「ふむ……。この音から察するに、ダクトの中には、二重反転プロペラを使った送風機でも入っておるのかのう?あれだけ勢いよく回しておったら、うるさすぎて、妾たちが無線機で呼びかけても反応しなくて当然かも知れぬ……」
と、再びクランクに身体を巻き付け始めたシュバルの様子や、轟音を響かせていたダクトのような装置を眺めながら、そんな推測を呟くテレサ。
それから彼女は何を思ったのか、ワルツの方に向かって、その手を大きく振り始めた。激しくクランクを回していたワルツたちの側へと近づくことは危険だと思ったらしく、離れた場所からジェスチャーで会話を試みるつもりらしい。
「(ワルツー!妾なのじゃー!)」ブンブン
それに対し——
「ん?うわっ……テレサじゃん……」
——と、テレサがやってきたことにすぐに気づいたものの、心底嫌そうな表情を浮かべて、視線を逸らそうかと悩んだ様子のワルツ。
対してテレサの方は、ワルツのそんな反応に気付いていないのか、離れた場所から再びジェスチャーを送り始める。ただし、木酢液の詰まった酒瓶を手にしながら……。
「(木酢液を作ってきたのじゃ?ほれ、こんな感じでの?)」
というニュアンスのジェスチャーを、酒瓶を持ち上げながら送るテレサ。
それを見たワルツは——
「テレサ……何やってるのかしら?新手の踊り?」
——何故テレサがこっちに来て直接会話しないのか疑問に思いながらも、テレサのジェスチャーの分析を始めた。
「なになに?”酒を作ってきたのじゃ?ほれ、これじゃ。一緒に飲まぬか?”ですって?テレサ……お互いにお酒飲めないこと分かってるはずなのに、何考えているのかしら?」
そう解釈したワルツは——
「(今、飲んでる暇は無いわよ。見りゃ分かるでしょ?)」
——と、返答を送るのだが……。
するとそれを見たテレサは、こんな解釈をしたようだ。
「む?……”今、飲んでる?見りゃ分かるでしょ?”……ワルツたちは何を飲んだのじゃ?木酢液かの?いや、まさかのう……」
ワルツが何かを飲んだジェスチャーを見たテレサは、話の流れ(?)的に、木酢液を飲んだのだと推測したようである。それも、シュバルと共に……。
「(それ、すごく危険なのじゃ。シュバルに目があるかどうかは分からぬが……目が見えなくなっても知らぬのじゃ?)」
「”それなら良いのじゃ。シュバルと仲良くやるのじゃぞ?”。は?(貴女、何考えてるの?)」
「妾が何を考えておるか?……もちろんいつもワルツの事で頭がいっぱいなのじゃ?」ぽっ
「……正直、気持ち悪いわね……」
「うぐっ?!」
前半こそ、うまく会話できていなかったものの、後半は流れるように意思疎通が出来ていた様子のワルツとテレサ。というよりも、ある特定のやり取りだけは、円滑に交わせる、と表現すべきか……。
それからも、2人のジェスチャーは続いていくのだが、2人が正しい意味での意思疎通が図れていたかどうかは不明である。その際、テレサの後ろからはベアトリクスたちが付いてきていたのだが……。彼女たちは、共通して、同じ事を考えていたようだ。
すなわち——どうして2人とも近づいて、直接会話しないのか、と……。




