9.3-29 悪魔29
そしてテレサたちは、王城と世界樹との間に作られた、昨日までは無かったはずの大きな設備の前までやってくる。
そこには2人の美少女たち(?)を侍らせた(?)一人の青年の姿があって……。彼は何やら真っ黒になりながら、巨大な装置の中へと大量の木を運び込んでいたようだ。
そんな彼らが、何やら忙しそうに動き回っている様子を眺めながら、テレサの後ろを歩いていたローズマリーが、おもむろに口を開く。
「ん?ビクトールおじさんさんたち、何やってるです?」
それに対し、隣にいたイブが、悩ましげな様子で返答する。
「んー、町中で吹き出している煙と殺虫剤は、あの建物の中で作られて、世界樹の中に送られてると思うかもだから……つまり——」
「……建物の中でお魚さんをたくさん焼いてるです?」
「多分、近いかもだね……。だけど、お魚さんではないと思うかもだよ?イブが思うに……お花を燃やしてると思うかも!」
「えっ……お花さんですか?」
花を愛でるのではなく、燃やすとは何事か——と、思っていたかどうかは定かでないが、イブの言葉に対し、怪訝そうな表情を浮かべながら問いかけるローズマリー。そんな彼女の脳裏では、野営に使うようなバーベキューコンロの網の上で、ジューシーに焼かれる花の様子が、浮かび上がってきていたとかいなかったとか……。
そんなメルヘン(?)な想像をするローズマリーに対し、イブが知っていることを簡単に説明し始めた。
「あんねー、この前、ダリアさんが、虫を避ける効果のあるエキスが取れるお花がある、っていう話をしていたの、マリーちゃん覚えてる?」
「んー……はいです!」
「多分ねー、そのお花を、カタリナ様辺りが大量に作って、それをビクトールおじさんが焚いてるかもなんじゃないかな?」
「そうですか……。でも、そう考えると、やっぱりお花さんがかわいそうです……」
「今回ばかりは仕方ないかもじゃない?お花さんたちはね……イブたちや街の人たちを助けるために、犠牲になったかもなんだから……」
それぞれそう口にすると、2人揃って、剣士たちに対して、なんとも表現しがたい視線を向けるイブとローズマリー。その際、剣士が、手に持っていた木をその場に投げ捨て、急に物陰に隠れてから周囲を見渡し始めたのは、そんなイブたちの視線に、何らかの見えない力を感じ取ったためか……。
その結果、忙しそうに作業をしていた剣士と、彼の近くを付かず離れず付いて回っていたエネルギアたちは、やってきたテレサたちの存在に気付くことになる。
「あー、なんだ。テレサ様方か……。背中にヤバい殺気を感じたから、てっきり、敵かと思いましたよ。もしかして、モクサクエキとやらが出来た感じですか?」
「まぁの。これからワルツの所に行って、どうやって撒こうか相談してこようと思っておるのじゃ」
「そうですか……。だけど、それなら無線機で話しかけても良かったんじゃ……」
「……ふっ。すでに両手に花を抱えておるお主には分かるまい。妾たちのこの迸るワルツへと想いが……!」ゴゴゴゴゴ
「あー、そうですか(分かりません)。あ、でも、そういえば、さっき話しかけても、ワルツの方から返答、返ってこなかったですよ?」
と、剣士が口にした瞬間——
「お、お主?!」わなわな
——そう言って目を見開き、身体を震わせ、一歩二歩と後退するテレサ。そのほか、その場に居合わせたユリアも、彼女と似たような反応を見せていて……。2人とも剣士の言葉に、驚愕したような様子を見せていたようだ。
その理由が分からなかったのか、剣士が怪訝そうに質問する。
「ん?どうしたんですか?そんな犯罪者を見たような表情を浮かべて……」
「お主、いつからワルツのことを呼び捨てするようになった?!場合によっては打ち首か、島流しか、市中引き回しの刑なのじゃ!」ドンッ
「いや、実は今朝、ワルツ本人が、様付けで呼ばれるのはあまり好きじゃない、って話してたので……なぁ?エネルギア?」
『えっ?お姉ちゃん、そんなこと言ってたっけ?』
《言ってたような……言ってなかったような……》
「お前たち……」
自身の後ろ盾たちの記憶力に、大きな問題があることを察して、微妙そうな表情を浮かべる剣士。
とはいえ、彼のこと弁護する者がいなくとも、テレサたちの機嫌がそれ以上悪くなることは無かったようだ。
「そういえばお主の場合、既に2人も嫁がおるのじゃったの……。なら、妾たちの障害になり得ぬゆえ、別に良いかの……」
「はい?何の話です?」
「いや、何でもないのじゃ。しかし……ワルツに問いかけても返事が無いと?お主、もしや、嫌われたのではなかろうかの?」
「……多分、本当に嫌われていたら、今、生きてないと思いますね」
「ふむ……それもそうじゃのう。……む?ということは嫌われていない……?お主、やはり……!」ゴゴゴゴゴ
「……もう、作業に戻りますね?」
そう言って、深夜のテンション(?)のテレサに背を向けて、施設の中へと、エネルギアと共に戻っていく剣士。その様子はどこからどう見ても、テレサに付き合いきれなくなった、といった雰囲気である。
ただまぁ、テレサの瞳の炎は、そう簡単には消えなかったようだが。
「おのれ……!こうしておれぬ!ワルツの所に急いで行かねば!」
剣士を見送った後で、テレサはそう口にすると……。世界樹へと伸びる長い装置の横を通り、ワルツがいるだろう所へと向かって、道を急いだようだ。
そんな彼女は気付いていなかった。
「……テレサ。いつか絶対に振り向かせて見せますわ……!」ゴゴゴゴゴ
自身の後ろから、付かず離れず付いてくる、一人の人物のつぶやきに……。
ビクトール殿のう……。
どう書いたものか……。




