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9.3-24 悪魔24

 そして、再び視点は、ユキたちの所へと戻る。


 施療院の中にいた老人の患者の一人が、急にドラゴンの姿へと変わり、そして建物の中に挟まってしまった彼のことを、コルテックスが外へと引っ張り出した後で……。

 コルテックス、ユキ、賢者、それに偶然居合わせたランディーの4人は、麻痺して動けない大きなドラゴンの下に台車を挟み込んで、彼のことを引っ張って歩いていた。そこには、他の14人の中毒患者たちが乗った馬車も連なっていて……。皆で揃って、ある場所へと向かっていたようだ。なお、その列を先頭で牽引しているのは、4人でも馬でもなく、ユキ1人である。


 施療院を出る際、14人の患者たちは、変身したドラゴンの姿を見て、最初は驚いていたものの……。すぐに落ち着きを取り戻して、コルテックスたちの同行の呼びかけに対し、特に嫌がることもなく同意したようである。どうやら皆、詳しく説明せずとも、ある程度の事情を汲んでいたようだ。

 あるいはこう考えたのだろう。——次は自分の番かもしれない、と。


 というわけで——


「うわー……皆さん、こちらを見てますよ?人々の視線に晒されることには慣れているつもりですが……こう奇異の目ばかりだと、さすがに恥ずかしいものがありますね……」


「そうですね。ですが、それほど気にする必要は無いでしょう。きっと皆さん、ドラゴンの方が気になっているはずですから」


「なら良いのですが……」


——そんなやり取りを、自身と一緒に先頭を歩いていた賢者と交わしながら、入り組んだ町の中を進んでいくユキ。彼女たちが街の中を通過していく際、それを見た人々は、まず最初にドラゴンへと目を向けて固まるものの……。まるで二度見をするかのように、すぐにユキへと視線を向け直していたようである。それも、何か信じがたいものを見た、といった様子で……。

 

 ただし。大人しく運ばれていたドラゴンの方は、賢者と同じく、自分に視線が集中しているものだと思っていたようだ。


「恥ずかしいのう、恥ずかしいのう……。このままじゃと、新しい趣味に目覚めてしまいそうじゃ……」ぽっ


「(は?何言ってるんだ?このドラゴン……)」


「もうしばらくの辛抱です。我慢して下さい」


 そう言いながら、苦笑を浮かべて、黙々とドラゴンたちを引っ張っていくユキ。


 そんな彼女たちの目的地は、入り組んだ道の先に繋がる施設——王城だった。身体が自由に動かないものの、生命に異常をきたす恐れがある、というわけでもなかったので、ミッドエデンには帰らず、王城にいるカタリナに治療して貰おう、という話になったのである。最悪の事態——例えば、誰かが危篤状態に陥るような展開になったなら、すぐにコルテックスの魔道具を使って、無理矢理にミッドエデンへと飛ぶ手筈になっていたようだが、ドラゴンと患者たち14とコルテックスがミッドエデンに転移するために使う魔力は、転移用の魔道具のストックだけでは足りなかったらしく……。真っ当に考えるなら、カタリナと一緒にいるルシアか誰かに魔力的な補助を頼まなければ、一度に15人(?)を転移させることは難しかったらしい。まぁ、本当に最悪の場合は、ルシア以外にもあてが無いわけではなかったようだが。


先生(カタリナ)、起きてますかね?」


「どうでしょうね……。でも、思い出す限り、カタリナが寝ている姿を今まで一度も見たことが無いので……おそらく起きているのではないでしょうか?カタリナ、働き者ですからね……」


「賢者さん、随分と先生のことを持ち上げますね?」


「えっ?いや……仲間として信頼しているだけですよ。命を預けられる相手というのは、どこにでもいるものではないですから」


 と、ユキの指摘に対し、かすかに慌てながら、そう返答する賢者。


 するとユキは、意味ありげに目を細めながら、彼に対してこう言った。


「ふーん。では、ボクのことはまだ信頼していない、って事ですね?」


「え゛っ……」


「だって賢者さん、ボクのことを持ち上げて言ったところ、まだ見たことないですし……」


「い、いや、そんなことは……」


「じゃぁ、ボクのこと、持ち上げて言ってみて下さい」


「えっ……いや……あの……」


 ユキから飛んできた急な無茶ぶり……。それは賢者を混乱させるのに十分な破壊力(?)を持っていたようである。その際、賢者の脳裏に一番最初に浮かんできたのは、社交ダンスの練習の光景で……。そして二番目に浮かんできたのは、世界樹の上にあった展望台から落下してきたユキの姿だったようだ。


「……ユキさん、すごく強いと思います……」


「それ、女性に向ける言葉ではないと思います……。まぁ、冗談ですけれど」


 そう言って、小さく笑みを見せるユキ。どうやら彼女は、賢者のことを、最初から困らせるつもりで話していたようだ。


 対して賢者もそのことには気付いていたらしく——


「(……高嶺の花か。色々な意味で、な……)」


——彼は何やら複雑そうな表情を浮かべていたようである。

 ただ、その際、彼の目尻に皺が寄っていたのは、何も彼の年齢だけが原因ではなさそうだ。



賢者とは何なのじゃろう……(哲学)。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1086/1853 ・あぁ~最後の一文いいですね~。 ・高嶺の花(物理) [気になる点] 賢者……これは哲学ですわ~。 科学者がみんな賢いとは限らないように、アホ賢者がいてもいいじゃ…
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