9.3-20 悪魔20
そして、それからまもなくして……。
『ふぅ〜。今日もいい汗を掻きました〜』
身体に汗腺があるとは思えないマクロファージ、もといコルテックスが、ひと仕事を終えたようである。とはいえ、施療院にやって来たすべての患者の治療を終えた、というわけではなく、彼女が治療したのは、その場にいた者たちだけで……。新しくやってきた者たちについては、施療院の施術師たちにまかせることにしたらしい。いつまでも治療を続けているとキリが無い、と判断したようだ。
なお、コルテックスたちがその場を離れた後、大病を簡単に治してしまうというスライム(?)の噂を聞きつけた市民たちが、町中から施療院へと大量に押しかけ、彼らに対応する施術師たちの本当の戦いが幕を上げるのだが……。まぁ、それはまた別の話。
『さて〜。それでは、中毒を起こしてる人を探しますかね〜』
マクロファージはそう口にすると、身体をぷるんと震わせながら、その場にいた施術師たちの人だかりを掻い潜って、ユキたちが患者の診察を続けていた場所まで移動した。コルテックスもそこで、診察に参加しようと考えたようだが——
「お疲れ様です。コルテックス様」ブスッ!
「あ゛あ゛っ?!」
「こちらの確認作業は、もうまもなく終わりそうです」トントントン
「あぁ……効くのぅ……」
『……えーと〜?お二人とも、なにをしているのですか〜?
——そこにいたユキと賢者が、何をしているのか理解できなかったらしく、コルテックスは思わずその内容を問いかけてしまった。何しろ、2人が診察をしているものだと思っていたら、何故か針治療をしていた(?)のである。それを見て戸惑ってしまっても無理はないだろう。
するとそれに対し、ユキでも賢者でもない、3人目の人物がこう答えた。
「あの……コルテックス様。私たちの代わりに診察していただきまして、ありがとうございました。ユキ様方は今、針を使って、患者さんに痛覚があるかを確かめているところです」
『えーと〜?あなたは確か〜……お酒屋さんの女主さんでしたよね〜?名前は〜……ランディーさん?』
「私の名前を覚えていていただき、光栄です」
「えぇ〜。お酒屋さんを営む方で、”ランディー”という名前なのですから、忘れる方が難しいですよ〜?」
「…………?」
コルテックスの言葉が理解できなかったのか、首を傾げるランディー。この世界にはまだ”ブランデー”と呼ばれる類いの蒸留酒が存在していないこともあり、彼女は自分の名前が、酒の名前(の英語発音)と似ていることを、知らなかったようである。
『それで〜……針を使って痛覚があるかを確認しているというのは、いったいどういうことですか〜?』
「えっと、ユキ様が殺虫……例のお薬の影響で中毒を起こしている方は、神経が麻痺している可能性が高いから、針で突いて、痛みが無ければ、中毒患者の可能性が高いのではないか、と仰られまして……」
『なるほどなるほど〜。ちゃんと精進しているようですね〜?楽しそうなことをしていると思ったのですが、遊んでいたわけではなかったようですね〜』
「それはもちろんです」
『では〜……まだ診ていない人は残っているでしょうか〜?私も試しに針で刺してみようと思いますので〜……』ジャキンッ!
そう言って、マクロファージの表面を変形させ、騎士が持つ巨大な槍の先端のような鋭利な突起を作り出すコルテックス。それで患者の腕を突いたりしたらどうなるかは、敢えて言うまでもないだろう。
それが容易に想像できたのか、ランディーは目を丸くして、慌て始めるのだが……。タイミング良く——
「ふぅ……。最後の確認が終わりました」
「こちらもちょうど、終わりましたよ?」
——賢者とユキが、中毒患者の確認作業を終えて、ランディーやコルテックスの所へとやってきたようだ。
『そうでしたか〜……。終わってしまったのですね〜。残念です』
「はい。あまりゆっくりと診察していると、患者さんの苦しみが続くだけでなくて、コルテックス様の手を患わせることになると思いまして、急いで刺して回りました!」
「おかげで、針治療のコツが掴めましたよ。帰ったらビクトールに刺してやろうかと思います(今の勇者に触れるのは……俺には無理だな……)」
『分かりました〜。少し残しておいていただいても良かったのですが、それなら仕方ありませんね〜』
コルテックスはそう言うと、頭から生えた槍のような突起を仕舞い……。患者たちの状況について問いかけた。
『それでどうなのですか〜?中毒を起こした人の数は〜?』
「こちらは5人でした」
「こっちは6人でしたね」
「私の方は4人でした」
『ランディー様も診察されていたのですね〜?しかし、15人もいたのですか〜。予想よりも随分と多いようですね〜』
コルテックスが、意外そうな様子で、そう口にすると……。それを聞いていたランディーが、首を傾げながら問いかける。
「あの……町中の至る所で、例のお薬が噴き出しているのですから、中毒を起こしている方は、むしろもっと多くてもおかしくないような気がするのですが……」
『ランディー様〜?数えていただいた患者さんの数というのは、何も、中毒を起こした人数、というだけの意味ではないのですよ〜?』
「えっ?」
『ランディー様は、中毒を起こした方々が何者なのかをご存知ですか〜?』
「……いえ。家の近くに古くから住んでいるお爺ちゃんやお婆ちゃんとしか……」
『ん〜……それでは、これ以上の説明は出来かねますね〜。彼らのプライバシーがありますので〜』
「はあ……」
そう言って、首を傾げ、納得出来なさそうな表情を浮かべるランディー。
それから彼女が、さらなる事情を問いかけようかどうかを悩んでいると……。事態が急に動き始めた。
ズドォォォォン!!
「「「『?!』」」」
突然、施療院全体が、大きな振動に襲われ、部屋の中が真っ白な煙に覆われたのだ。
「い、一体何が?!」
状況が掴めず、混乱するランディー。しかし彼女のその混乱は、まだ序の口に過ぎなかった。
なにしろ、白い煙が晴れたその向こう側から——
「……む?!いかん!元の姿に戻ってしもうた!」
——そう口にする巨大なドラゴンの姿が、突如として現れたのだから……。
んー……今のペースで、この章で書こうとしておることを、あと20話以内で書けるか……ものすごく自信が無いのじゃ。
まぁ、すべての話を無かったことにして、要点だけ書けば、2話くらいで書けるかも知れぬがの?
……いや、やはり無理かもしれぬ……。
じゃがまぁ、もうすこし内容の詰まった話を書きたいものじゃのう……。




