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4中-01 スライム料理?

4章が終わらない・・・まだ半分・・・?

随分と遅くなってしまった朝食を食べるために家に帰ってきたワルツ達を出迎えたのは、ガラス製の食器に入った透明なイクラのようなものだ。


これは何なのか?


スライムである。


スライムは見た目が透明なので、中には液体しか含まれていないように見えるが、実は内部に多くの器官が備わっている。

要は内臓だ。

ただ、目の前にある透明な粒々が細胞のどの部位なのかは定かでない。


見た目は、薄い水色をしており、わらび餅を小さくしたような感じである。

もっと、具体的な例を上げるなら、芳香剤や、除湿用の高分子ポリマーと瓜二つだ。


「狩人さん、これ、本当に食べれるんですか?」


現代世界の乾燥剤に付いた『たべないで』タグを思い出しながら、ワルツは狩人に聞いた。


「何を言ってるんだ?これが食べられずに、一体、何が食べれると?」


「・・・いえ、何でもないです」


狩人の剣幕に、ワルツは言葉を失う。

一方狩人は、そんなワルツの様子に気づく様子もなく、目の前の何かをうっとりとした表情で眺めているのだった。


(・・・マタタビじゃないわよね?)


狩人の姿が、マタタビを目の前にしたネコと完全に一致していた。

あるいは、依存性の強い成分でも含まれているのだろうか。


「まぁ、折角なので、いただきましょう」


見ているだけではしょうがない、とテンポが先を促した。


「そうだな。それじゃぁいただこう」


『いただきます』・・・とは言わないが、皆、胸の前で手を合わせてから(スプーン)を付ける。


「ちなみに、どうやって食べるんですか?」


「そうだな、パンにつけてもいいし、ミルクに混ぜてもいい。ご飯にかけて食べてもいいし、スープにも・・・まぁ合う。私はそのまま食べるのが好きだが」


(パンやミルクなら、ジャムっぽい味なんでしょうけど、スープやご飯にも、って・・・)


ワルツには想像できなかった。

まぁ、食べてみれば分かるでしょ、と早速口にしてみた。


「・・・えっ?」


口に入れた瞬間のワルツの反応である。

同様に、味を知らなかったルシアやテンポなども同じ反応をしている。


無味無臭。

全く味がしない。


一方、狩人やカタリナの様子を見ると、美味しそうに食べている。

となると、ワルツの味覚センサーが故障したのだろうか。

だが、ルシアやテンポも怪訝な顔をしているので、どうやらそういうわけではないらしい。


ワルツ、ルシア、テンポが何とも煮え切らない表情を浮かべていると、狩人はニヤッっと笑って、()()の言葉を口にした。


「鳥の串焼き」


何の脈絡もない、ただの言葉。

だが、その言葉がワルツの聴覚センサーに届いた瞬間、口の中で劇的な変化が起こる。


(・・・!?)


まずは、味だ。

かつて地球にある自宅で食べた、姉特製の串焼きの味が突如として蘇ってくる。

次に、香りだ。

串に塗られた甘ダレが炭火によって焦がされたような、食欲を(そそ)る香りがワルツの鼻孔(臭気センサー)を突き抜けた。


「何、これ・・・」


そう呟いたのはルシアだ。

目の前の透明な食材(?)から生じる味や匂いとは思えないのか、ワルツと同様に混乱している。


「・・・魔物の味がする」


テンポも同じ反応を見せている。

だが、ワルツが食べているものとは違うらしい。


一体どういうことなのか。

狩人が種明かしをする。


「スライムを食べる時に、何か食べたいものを思い浮かべると、その食べ物の味と匂いがしてくるんだ。だが、食べたことのないものを想像しても、普通は無味無臭のままだけどな」


(つまり、記憶にある食材の味や匂いを再現するっていうことね)


ここでヘルチェリーなどと口にしたら、トンデモナイことが起こりそうね、と思うワルツ。

もちろん、余計な事は言わない。

だが、思ったことは口にしておく。


「・・・スライムを食べている間は、絶対に口を開いちゃいけないっていうルール、あるでしょ?」


「よく知ってるな?」


「例えばここで・・・いや、やめておきましょう」


すると、カタリナの顔色が悪くなる。

何か想像したのだろうか・・・。


「ごめんね。カタリナ」


「いえ、大丈夫です」


どうやら軽傷で済んだらしい。


(あれ?もしかして、この粒を完全に砕いて、料理に仕込んだら・・・)


ある意味、拷問のようなことができる・・・と思いかけて、ワルツは全く逆の発想をした。


「・・・これ、私達の料理に入れたら味が良くなるんじゃない?」


『?!?!』


一瞬、ルシアとカタリナの表情が『その考えは無かった!』とばかりに明るくなった。

例え、味が悪くとも、スライムによって補正すれば、食べれるレベルになるのではないか、というわけである。


・・・だが、直後に真っ赤な顔をして、2人揃って口を抑えてトイレへと走っていった。

ヘルチェリー事件を思い出したらしい・・・。

知らず知らずのうちに、2人に対して拷問紛いのことをしてしまったようだ。




「・・・ごめんなさい」


戻ってきた2人にワルツは謝る。


「いえ、もう終わったことなので、次回から気をつけていただければ」


「スライムを食べるときは、気をつけないとダメだよ」


「はい・・・。今後、気をつけます」


どうやら、味の()()()()()()()食材にこの3人が関わるとメシマズになるようだ。


ところで、ワルツは先程から気になっていることがあった。

・・・だが、失敗を繰り返さないために、直ぐには口を開かない。

周りの人間がスライムを食べていないタイミングを見計らい、言う。


「テレサ?食べないの?」


先程からテレサが手を付けない。

どうしたのだろうか。


「うむ、実は、こうした席でのマナーがよく分からなくてのう・・・」


・・・ワルツの逆だったようだ。

マナーで縛られた食事が続くと、マナーがあって当たり前のように感じてしまうのだろうか。


「そうね・・・恐らく、今のあなたには『いつも通りに食べたらいい』という言葉を掛けるべきではないのでしょうね」


「おや、お主。今の妾の心でも読んだのか?」


そう言って、どこか安堵の表情を浮かべるテレサ。


「いえ、ふと昔のことを思い出してね・・・」


ワルツは遠い目をしながら、狩人の両親(伯爵夫妻)との会食を思い出していた。


「じゃぁ、私が食べ方を教えてあげる」


自分なら、こう教えて欲しかった、という方法を実践する。


「ええと、今食べようとしている食材(スライム)は、食べ方に癖があるから、全部聞いてから食べるようにしてね?」


「うむ」


「まず、スプーンを持ちます」


「ほう」


「食材を(すく)います」


「ふむ」


「食べます」


「・・・それだけか?」


「後は聞いてたと思うけど、食べたいものを想像しながら食べて。それで終わりよ。他に細かいルールなんて無いわ」


「ふむ、簡単じゃな。てっきり、スプーンを持つ角度や置く角度、食べる順番やタイミング、量、咀嚼する回数などなど、色々なマナーがあると思っていたのじゃ」


「うん、そういう食事会には絶対に参加したくはないわね」


「妾も最初はそうじゃったが、慣れてしまえばどうってことはないのじゃ」


・・・と、方向は違えど、同じ悩みを持つ同士、会話が弾むのだった。


その後、テレサもスライムの食べ方に慣れたのか、狩人のようにうっとりしながら食事をしていた。

たまにパンに挟んだり、時には山菜と一緒に食べたり。

一体、何を想像しながら食べているのだろうか。

まぁ、それは皆に言えることなのだが。

ワルツは疑問に思ったが、下手なことを言うとまた問題が起こりそうなので余計なことが言えず、結局、何を想像していたのかという疑問を解消することは出来なかった。


スライム料理(?)の欠点は、食事の場から会話を奪ってしまうことだろうか。




さて、食事が終わった後のことである。


山菜を取りに行って帰ってきてから、ルシアの様子がどうもおかしい。

いや、帰ってくる前、森の中で彷徨っていた時から顔色は優れなかった。

今は、リビングの椅子に深く座って、じっとしている。


「ルシアちゃん?」


カタリナがルシアに声を掛ける。

と、同時に、ルシアの額に手を当てた。


「んー、ちょっと熱っぽいかな」


「でも、大丈夫だよ?」


見た目とは裏腹に、本人は大丈夫だと言い張るが・・・。


「・・・無理はせずに、今日はベッドで寝ていましょう?」


「うん・・・」


魔女狩りの被害にあった女性の家族を迎えに行くという仕事があるので、無理をしていたのかもしれない。

だが、迎えに行っている最中に天使と遭遇するなど、不測の事態が起こっては大変だ。


という訳で、カタリナからのドクターストップがかかるのだった。




この判断が、事態を最小限に食い止めることになるのだが、それを予想できたのはカタリナくらいだろうか。


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