9.3-15 悪魔15
その日、ライスの町は、3度目の混乱に見舞われていた。
1つ目は、世界樹が傷ついたことによるもので……。先の通り、町の人々が世界樹の悲惨な姿を見た結果、生じた混乱である。
2つ目は、黒い虫たちが、焦げ臭い煙と共に、町のいたる場所から現れたことが引き金だった。これについても、先に述べた通りである。
そして3つ目は——
「うっ……!」
「かはっ……!」
「く、くるしっ……!」
バタバタバタ……
——ごく少数ではあるものの、街の中で人々が倒れ始めたことが原因だった。
◇
休憩から戻ってきた勇者とリアが、そこで悶え苦しむ虫たちの様子を観察していた場所のすぐ近くに——
「他の人たちは大丈夫でしょうか?」
——先ほどの水竜たちのことが忘れられなかったのか、町の人々のことを心配しているユキの姿があった。元魔王である彼女のその心配は、もしかすると250年の間に患った職業病(?)のようなものなのかもしれない。
その問いかけに対し、彼女の隣でポテンティアが飛び去っていった空を見上げていた賢者が、首を振りながらこう返答した。
「おそらく、それは大丈夫でしょう。水竜様方のように、人に化けてるドラゴンが、そう沢山いるはずはないですからね」
「それなら良いのですが……。最近、ボクの知り合いに、ドラゴンの方が、ものすごく増えて、もう少しで3桁に届きそうなほどいるのですが……それは、ただの偶然ですよね……」
「…………」
「…………」
「……念のため、ワルツ様やコルテックス様に、水竜様方の件を報告しておきましょう」
「……そうですね」
町の中に、他にも人に化けているドラゴンたちがいないとは言い切れなかったので……。賢者たちは、水竜たちに降りかかった出来事を、ワルツたちに報告することにしたようである。周囲にいた虫たちが、文字通りに”虫の息”な状態だったことも、2人に報告のための時間的余裕を与える一因になったようだ。
「まずは……ワルツ様に報告しましょう」
「ボクも、その方が良いと思います。コルテックス様は、ミッドエデンにいますから、いつでもすぐにやって来られるとは……いえ。来るかも知れないですね……」
「……えぇ、ユキさんの言いたいことは分かりますよ。コルテックス様、魔道具で、転移魔法を使い放題ですからね……」
そう言って苦笑を浮かべながら、着ていた赤いローブの懐に手を入れる賢者。彼はそこから、再び銀色の板のような見た目の無線機を取り出すと、その向こう側へと言葉を投げた。
「ワルツ様?今、少し、よろしいでしょうか?」
賢者が話しかけた相手は、彼らの直前の会話通り、そこからから数百メートルほど離れた場所で、剣士たちと共に作業をしているはずのワルツだった。彼女の所へは直接行けないほど距離が離れていたわけはなかったものの、便利な道具がある以上、賢者にはそれを使わない手はなかったようだ。
しかし——
「……あれ?おかしいですね……。ワルツ様からの返事がありません(まさか俺……無線機の使い方、間違えたか?)」
——どういうわけか、賢者が呼びかけても、ワルツからの返答はかえってこなかった。
「珍しいですね……。ワルツ様が返事をしないなんて……」
「もしかすると、作業が忙しいのかも知れません。仕方ない……先にコルテックス様に報告しましょう」
そう言って、賢者は再び無線機へと話しかけようとするのだが……。
しかし、どういうわけか、彼が話しかけるよりも先に——
『呼びましたか〜?』
——コルテックスの方から返事が飛んできた。
「……いえ。ワルツ様のことは呼びましたが、コルテックス様の方は、まだこれからです」
『そうですかそうですか〜』
「…………」
『…………』
「……もしかして、私が呼び掛けるのを待ってます?」
『忙しいので、早く要件を伝えて下さい。あと、ユキ様の前だからといって、締まりのないイヤらしい顔つきになるのはどうかと思いますよ〜?賢者様〜?』
「…………?!」
コルテックスとの会話の呼吸(?)が合わない上、思いも寄らない指摘が飛んできたことで、思わず顔を押さえてしまう賢者。その様子を見る限り、どうやら彼は、心のどこかに、自身の顔が緩んでいる自覚があったようだ。
しかし、彼は、すぐに元の表情へと戻ると……。先ほどの出来事を、コルテックスに対して説明し始めた。
「……先ほどこちらにポテンティアを呼び寄せた際の出来事についての報告したいのですが、お時間はよろしいですか?」
『そのくらいなら大丈夫ですよ〜?なになに〜?水竜ちゃんたちがお姉様の殺虫剤のせいで死にそうになったのですか〜?かわいそうに〜。お姉様、もう、死刑でいいですね〜』
「……見ていらっしゃったのですね?」
『一応、マクロファージちゃんが、そっちの光景を見せてくれていますからね〜?ほら、ユキ様の頭の上ですよ〜?』ぷるんっ
「……はっ!いつの間に?!」
「……では、町の人々が水竜様方のような状況になっているかもしれない、という懸念についても伝わっている、という認識でよろしいでしょうか?」
『えぇ、伝わっていますよ〜?ただ、さすがに、町の中の人々が無事かどうかまでは、調べていませんけれどね〜。そこで、お2人には頼みたいことがあります』
そう口にして、無線機とマクロファージの両方の向こう側で、居直った様子のコルテックス。
その雰囲気を感じ取った賢者とユキは、コルテックスが言わんとしていた言葉を予測していたようである。そして実際、コルテックスは、ほぼその通りの言葉を口にするのだが……。2人が予想したものと完全に同じ、というわけでもなかったようだ。
『マクロファージちゃんを連れて、ライスの町にある病院へと向かって下さい。もしかしたら、病院という名前ではないかも知れませんが〜……まぁ、呼び方については良いでしょう』
「「病院……」」
『もしも町の中で倒れている人がいるとしても、それはおそらく、ごく少数のはずです。ということは、彼らのことを誰かが病院へと連れて行くはずなので、最初からそこに行けば、殺虫剤で倒れた人たちをわざわざ探さなくても、向こうから勝手にやってくる、というわけですよ〜?その後のことは良いですよね〜?ユキ様〜?』
「えっ?あ、はい。頑張ります!」
と、頭の上にいたマクロファージへと、焦り気味に返答するユキ。彼女はカタリナの弟子ではあるものの……。治療行為を行えるかどうかは、不明である。とはいえ、拒否権は無さそうだが。
その後、2人は、勇者たちと交代して、その場を離れ……。自分たちの休憩を返上して、町にある病院(?)へと向かったのであった。
何処にゴールがあるのかは分からぬが、とにかく書き方を改善したい……。
そんなことを考えておる今日この頃なのじゃ。
変わりたいのう……。




