9.3-13 悪魔13
ズドォォォォン!!
「もう、キリが無いっ!」
「そうですね……(ユキさんのおかげで、時々途切れていますがね……)」
ある一時を境に、大量にやってくるようになった虫たちを、片っ端から退治していくユキと賢者。ユキはその場にあった岩や瓦礫などを投げ……。そして、賢者は天使モードに変わって、手の先端から無数のビームを発射していた。どうやら2人にとっては、その戦い方が、最も消耗の少ない戦闘方法だったようである。
そんなこんなで、2人は文句を言いながら(?)、虫たちの襲来に対応していたわけだが……。そんな折り、2人の所へと、助っ人たちが現れた。
「お待たせいたした」
自身の身長よりも長い槍を手にした水竜と——
「「「「「お待たせしました」」」」」
——彼女の後ろから付いてきた部下たち5人組である。
ユキは後ろから飛んできたその言葉に気付くと、その手に持っていた岩を——
ズドォォォォン!!
——と、虫たちに向かって軽々と投げつけてから……。水竜たちの方へと振り返って、こう口にした。
「もう良いのですか?まだ、休憩されていても構わなかったのですが……交代の時間は、もう少し先ですよね?」
「いえ、戦場を前に、いつまでも休憩するなど、戦士の名折れ。休息はもう十分にございます」
「そうですか……。これは失礼なことを言ってしまいました。お忘れ下さい」
「失礼など……そのようなことはございませぬ。これが儂らの生きる道にございますゆえ」
水竜はそう言うと、装備の確認をして、双頭槍を持ち直してから、手下のメイドたちに対し——
「さぁ、行くぞ!者どもよ!」
——そんな掛け声を向けた。
すると、その声に呼応して——
「「「「「はっ!」」」」」
——とメイドたちが返答するのだが……。
それから彼女たちが虫たちに向かって、魔法や武器で攻撃を加えようとした瞬間、突如として異変が生じる。
カサカサカサ……
ぷぅ〜ん……
と、その場を大行進していた虫たちが——
ガサッ……ガサガサガサッ!!
ボタボタボタッ!!
——と、これまでになかったような、乱雑な動きを見せ始めたのだ。
それはまるで、息が出来ずに悶えている、といった様子だった。地面をまっすぐに進んでいたはずの虫たちは、ジグザグに動き始め……。そして空を飛んでいた虫たちは、背中を下にして真っ逆さまに地面へと墜ち……。そこにいた虫たちは例外なく、皆が地面で苦しみ悶えているように見えていた。
そんな虫たちの姿を目の当たりにしたユキは——
「急にどうしたのでしょうか……」
——と、思わず、何かが起こるのではないか、と身構えてしまうのだが……。その隣にいた賢者の方は、なにやら思い当たる節があったらしく、冷静にこんな推測を口にした。
「おそらく……ワルツ様が散布している殺虫剤が、効果を出し始めたのではないでしょうか?……ほら、あの煙です。あの黒い煙の中に、殺虫剤の成分が含まれていたのでしょう」
と、先ほどユキと交わした会話の内容を思い出しながら、そう話す賢者。
実際、彼のその推測は、まさにその通りで……。虫たちが奇行を始めたのは、ワルツたちが世界樹の中へと送り込んでいた殺虫剤の成分が、効果を出し始めたからだった。それ自体は、ワルツたちが考えた通りの展開だったと言えるだろう。そう、ここまでは……。
だが……。
世の中というのは、思い通りにならないことに溢れていて……。早速、この場でも、誰も予期していなかった問題が生じることになる。
その始まりは、水竜の部下の一人が——
「…………っ!」
バタッ……
——と、急に倒れて、苦しみ始めた事だった。
「っ!アビス?!」
まだ戦ってもいないというのに、急に倒れてしまった手下の様子に気付き、彼女の名前を呼ぶ水竜。
しかし、異変は、それだけに留まらない。
バタバタバタバタッ……
他の4人の部下たちも、一斉に倒れてしまったのだ。
「ミア?!ヴィオール?!ディスケ?!プラキス?!皆、どうしたのだ?!」
その姿を見て、部下たち全員の名前を呼ぶ水竜。
そして彼女本人も——
「……ふぐっ?!く、くるしっ……」
バタッ……
——その場に崩れ落ちてしまう。
「「?!」」
その様子を見て、身構えるユキと賢者。2人は当初、水竜たちが、虫たちから何らかの攻撃を受けたのではないか、と考えたようだが……。しかしすぐに、そうではない、と賢者がその原因に気付く。
「攻撃ではない……?いや、まさか……ワルツ様が散布してる殺虫剤の影響か?!」
「いえ、でも……さっきからボクたちは息をしてますけれど、皆様のように苦しくなったりはしていないですよ?」
「しかし、それ以外に原因が……」
そんなやり取りをしながら、その場の光景に目をやる2人。そこでは、水竜たちの他に、大量の虫たちも苦しみ藻掻いて……。その状況は、一つの可能性を示唆していた。
「もしかして、ワルツ様が散布してる殺虫剤は……人間には効かないが、変身したドラゴンたちには効くのではないか?!」
と、水竜たちが、元々は人間ではなく、変身したシーサーペント(ただし部下たちの正体は不明)であることを思い出して、そんな考えに至る賢者。
もしも彼の推測が正しいとするなら——どうやらワルツたちが殺害しつつあったのは、虫たちだけではない、ということになりそうだ。
もしも異世界にアー○ジェットがあったなら……そんなネタを取り上げておる物語は無いかのう?
というのも、ピレスロイド系の殺虫剤というのは、哺乳類や鳥類に対しては、ほぼ無害なのじゃが、それ以外の虫や爬虫類、魚類に対しては、神経毒として働くゆえ、例えばドラゴンに対して○ースジェットを吹きかけると……後は分かるじゃろ?
人間にとっては、フグの肝を食べるようなものなのじゃ。
もしも異世界にア○スジェットが1本でもあれば、冒険者ギルドでSランクも夢ではないのじゃ!
火炎放射器としても使えるしのう?
……などという、しょうもないネタを考えた今日この頃なのじゃ。




