9.3-09 悪魔9
《し、死ぬかと思った……》
『mk2?さっき、吸い込まれても大丈夫、とか言ってなかったっけ?』
《うん……。でも、やっぱ無理……》
「2人して、いったい何の話してるのよ……」
血相を変えてやってきた剣士たちから、送風機を止めるように言われ、それに大人しく従ったワルツ。すると、ファンが設置されていたダクトの中から、エネルギアmk2が、グッタリとした様子で這い出てきた。やはり彼女は、剣士たちの予想通り、ファンに巻き込まれていたようだ。
這い出てきたmk2は、疲れたような表情を浮かべながら、開口一番に冒頭のような発言を口にしたわけだが……。そんな彼女に対して、剣士には何か言いたいことがあったらしく、彼は少々怒り気味に、こう口にした。
「mk2!あれほど巻き込まれないように注意しろって、言ったじゃないか。mk1と一緒に心配してたんだぞ?」
装置の中で、剣士が口にした忠告。それを完全に無視する形になったエネルギアmk2に対し、剣士は憤りを隠せなかったようである。
対して、mk2の方も、それはよく分かっていたようで……。彼女は一切の言い訳を口にすること無く——
《ごめんなさい……》しゅん
——と、素直に謝罪した。
「もう、急にいなくなるとか、やめてくれよ?」
《うん……。もう、ビクトールさんから離れない……》
そう言って、どさくさに紛れ、剣士の腕に抱きつくエネルギアmk2。
するとその様子を見ていたmk1が、頬を膨らませながら、抗議の声を上げる。
『ちょっと、mk2!ビクトールさんに抱きつくとか、反省してる内に入らないんじゃない?』ぷんすか
《でも、僕、あの部屋の中で作業してて、何かに掴まってなかったら、また、風に流されて行っちゃうよ?mk1と違って、身体、大きくないし……》
『そりゃそうかも知れないけど……掴むものって、ビクトールさん以外に、何かあるでしょ?』
《例えば?》
『えっとー……んとー……』
mk2に例を聞かれ、必死になって頭を悩ませて考えるmk1。装置の中で何か掴まる物が無いかを考えた彼女は、燃えさかる櫓や、燃料の木材以外に、まともに掴めるモノは思い付けなかったらしく、言葉の続きが中々出てこなかったようだ。
それを見て、mk2は——
《無いなら、やっぱり、ビクトールさんにしがみつくしか無いよね?》にやっ
——と、したり顔を浮かべながらそう口にするのだが……。
そのやり取りを聞いていた剣士には、何か考えがあったらしく、mk2に対して、こう口にした。
「……mk2?お前が俺にくっつきたいのは分かってる。だけど、それじゃぁ、ただの甘やかしになるから……今日1日は、mk1にくっついて行動するんだ」
それを聞いた途端——
《『え゛っ……』》
——と、口にして固まる2人の少女(?)たち。剣士のその言葉には、mk2はもちろんのこと、巻き込まれる形になったmk1の方も納得がいかない様子である。
そんな2人の反応を見た剣士は、険しい表情を浮かべて、自身の考えを口にした。
「いいか?2人とも。お前たちは、年上も年下もない姉妹だ。お互いが姉であって、妹でもある。だから、どっちかが苦しんでるときは、もう片方が支える、っていうのが通りじゃないか?今回、罰を受けて苦しむことになるのはmk2だが……mk1は、それを親身になって、支えてやってほしい」
『うん……。ビクトールさんがそう言うなら……』
「それとな?mk1。よく考えて欲しい。お前がもしもmk2のことを見てなかったら、どうなるだろうな?」
『僕がmk2のことを見てなかったら?んとー……mk2の事だから、すぐにまたビクトールさんに……あ゛っ?!』
《…………!》びくぅ
『絶対に目を離さないんだから!』
そう言って、近くを飛んでいた妖精のような姉妹のことを——
ガシッ!
——と両手で捕まえるmk1。その様子は、新しいおもちゃを手にした子ども、といった様子である。とはいえ、そこに、好奇心は無かったようだが。
一方のmk2は、というと——
《ビクトールさん、何てことを言うの?!》うるっ
——mk1の手の中で、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。彼女にとっては、剣士に裏切られたように感じられていたのかも知れない。
それを察してか、剣士が言葉を追加する。
「mk2?さっきも言ったが、今日1日は、その状態で反省して貰うぞ?」
《うぅ……》
「まぁ、離ればなれになるわけじゃないんだから、そんなに落ち込むなよ。……ただし。mk1がどこかに行かなければ、の話だけどな?」
《mk1!絶対に、ファンに吸い込まれたりしないでよ?!》
『mk2じゃないんだから、それは無いよ……』
そう言って、手の中にいた姉妹に向かって、呆れたような視線を向けるエネルギアmk1。
するとそんなとき。
その場に居合わせたワルツが、不意にこんなことを口にした。
「仲良くやり取りしてるところ、割り込むようで申し訳ないんだけど……何か、臭くない?」
「『《えっ……》』」
「…………」にゅる?
「なんというか……その……焦げ臭いっていうか……」
そう口にするワルツの言葉を聞いて、一斉に、先ほどまでいた、”竈”の方へと視線を向ける剣士たち。するとそこには、猛烈な勢いで、真っ黒な煙を吹き出している竈の姿が……。
どうやら、剣士たちが目を離した隙に、竈の中で燃えていた木材に火が回って、相当な火力で燃え始めていたようだ。




