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4前-15 遭難?

次の日。


最近、晴ればかりなのだが、雨が降ることは無いのだろうか。

まぁ、朝は霧が出ているようなので、村の周囲の地面が干からびることは無いが、霧が出ないような場所では拙そうだ。

それとも、異世界特有の天候なのだろうか。


さて、前日は徹夜状態だったのが響いたのか、ルシア、カタリナ、狩人とも早めに寝てしまったのだが、それにつられたのか、テレサも早めに床についた。

尤も、ベッドが無いのでワルツ特製反重力ベッド(改)に寝てもらったのだが。


最初はテレサも驚いていたようだが、すぐに慣れて、ベッド(?)の上で思う存分跳ねていた。

ルシアも一緒に、だ。


彼女曰く、


『ベッドの上で跳ねても怒られぬとは、素敵じゃのう?一度やってみたかったんじゃ』


と言っていたので、王宮では側付きの侍女か誰かに注意されていたのかもしれない。


ところで、朝になって他の4人が起きたとき、反重力ベッドで寝ているテレサの姿を見て、どこか羨ましそうな顔をしていたのだが、どうしてだろうか。

その中には何故か寝るはずのないテンポも含まれていたのだが・・・。




まぁ、それはさておきだ。

メンバーが増えると生じる、恒例の朝食問題。


昨日の晩御飯は、アイテムボックスに入っていた残り物を処理する必要があったので、それを皆で頂いた。


実は、このアイテムボックス、中で時間が止まったり、真空だったりしないのか、食べ物を入れて放っておくと危険なことになるのだ。

一度、山菜を入れっぱなしにしたことがあったのだが、言葉で表現してはいけない腐り方をしていたことがあった。

壊れやすいアイテムの風化は無いようだが、食物の保存には適さないという何とも使い勝手の悪い一品なのだ。

なので、消()期限が来る前に食べ切らないと、勿体無いことになる。


と、いうわけで、ワルツ達の手元には食べ物が全く無かった。

いつものワルツパーティーだと、酒場の店主にご馳走になる・・・というのがパターンである。

尤も、ワルツは直前まで、酒場の店主に朝食をご馳走になるつもりであった。


・・・だが、狩人は言った。


「これもまた、修練の一つではないだろうか」


もちろん、狩りをして食料を調達するほうが、だ。

決して料理の方ではない。

狩人はワルツ達に料理を作らせることを既に諦めているのだから。


「・・・そうね、店主さんにも、いつまでもお世話になっているわけにもいかないし・・・」


そう、酒場の店主に頼まれた仕事は既に、旅に出た時を最後にやっていないのである。

このまま、店主に食事を頼るのは失礼なだけだろう。

まぁ、同じようにして借りている工房をどうするのか、という問題は別にあるのだが。


「なら、山菜を採ってくるね」


最初に口火を切ったのはルシアだ。


「えぇ、お願いするわ。カタリナも付いて行ってあげて」


「なら、妾も一緒に付いて行こうではないか」


「大丈夫?」


「うむ。初めてじゃが、協力させてもらうぞい」


何故かすごく不安になるワルツ。

何かあったら困るので、テレサにバングルを持たせることにした。


バングルをテンポのアイテムボックスから受け取り、テレサに渡す。


「ん?なんじゃこれは?」


「まぁ、お守りみたいなものよ。絶対に無くさないようにね」


「ふむ、分かったのじゃ」


すると、バングルを大事そうに腕に付けるテレサ。

ルシアもカタリナには、どこかダンジョンや迷宮に行くわけではないので、渡さなくてもいいだろう。


「じゃぁ、私は狩りだな」


「私も一緒に行ってきます。お姉さま、()の使用許可を」


「えぇ、いいわよ・・・っていうか、許可が無くてもいいわ。最悪、無理やり戻すことも出来るし・・・」


「承知しました」


というわけで、狩人とテンポは狩りに行くことになった。




こうして、皆、各々の()()に出かけていった。

・・・ワルツを除いて。


(さて、私は山に柴刈りに行くか、川に洗濯に行くか・・・)


もちろん、桃は流れてこない。

流れてきても無視するとワルツは決めているので、そう言った展開はあり得ない。


()刈りといえば、家の周りの雑草が気になるわね・・・ついでに、洗濯もしようかしら・・・)


というわけで、ワルツは家で家事(炊事を除く)をすることにした。

働く自宅警備員、といったところか。


ちなみに、ワルツが皆と一緒に行かなかったことには理由がある。

一言で言うなら、修練の邪魔になる、ということだ。

ワルツが一緒に行ったなら、重力制御(チート)を使って、一瞬で作業が終わってしまうのだから。


その代わり、芝刈りも洗濯も、そのチート(重力制御)によって、一瞬で終わった。




1時間ほど経過して、狩人達が帰ってきた時、彼女達は自分の眼を疑った。


所々、蔦が這って、土やホコリで汚れていた壁は真っ白く輝き、嵐や突風などで傷んでいた屋根も見違えるように綺麗になっている。

家を取り囲むようにして立っていた杭も、まるで挿したばかりの新品のような風合いをしており、雑草ばかりだった家の庭は、色とりどりの花々が咲き誇る庭園のような佇まいになっていた。


・・・正にプロの犯行であった。

というより、才能の無駄遣いか。

ガーディアンなどやらずに、メイドロボでもやっていたほうがいいのではないか、というレベルの手際の良さである。

もちろん、ワルツの話だ。


「うわっ・・・ワルツ達の家が、何か見違えるようだ・・・」


家の様子を見た狩人の感想である。


「流石ですね、お姉さま」


「ふん、もっと褒めなさい」


図に乗るワルツ。


「・・・で、今日はどんな得物を?」


図に乗ったままだと碌なことが起きないので、コンマ数秒で元のテンションに戻った。


「・・・今日はこいつだな」


ワルツの行動を不審に思いつつも、狩人は手に持った袋から得物を取り出した。


実に瑞々しい得物だ。

むしろ水々しい。


(これは・・・)


「スライム・・・」


「そう、これが美味いんだよな」


ベチャァっと、キッチンのまな板の上に置く狩人。

スライムの核には針のようなものが刺さっていた。

狩人の狩道具だろうか。


「私は食べたこと無いんですが、これって食べれるんですか?」


「何?食べたことがないだと?あぁ・・・」


狩人は仰々しく頭を押さえた。


「これを食べたことが無いとか、人生をどれだけ無駄に生きてきたと言うんだ・・・」


NEET(自宅警備員)人生を思い出しながら、やっぱり私の人生って無駄だったのかしら・・・、と一瞬考えてしまうワルツ。

だが、直ぐに復帰する。


「・・・そこまで言われると料理が楽しみですね」


「えぇ、私も楽しみです」


テンポも同意する。


「あぁ、任せてくれ」


こうして、狩人はスライムの調理にとりかかった。




ところで、だ。


ルシア達が帰ってこない。

普段なら、数十分で帰ってくるのだが、2時間経っても帰ってくる気配がない。

生体反応センサによると、3人共、ここから1km程度離れた場所で行ったり来たりを繰り返している。

何かあったのだろうか。


「狩人さん、テンポ。他の皆が遅いから、ちょっと様子を見てくるわ」


「うん?そうだな、そういえば遅いな」


「一人で大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫よ。今のところ、3人とも何かと戦ってる雰囲気は無いから」


ということで、様子を見に行くことになったワルツ。

と、ここで天使との戦いで身につけた(思いついた)移動法を試すことにする。


即ち、空間歪曲による瞬間移動である。

あまり長距離にわたって移動すると直ぐにガス欠になるが、1km程度なら問題ないだろう。


工房の庭に出て、目的地点を定める。

3人の近くに出ると何が起こるか分からないので、少し離れた位置に出ることにした。


(じゃぁ、いくわよ)


すると、みるみるうちにワルツの前の空間が歪んでいく。

2秒後には、目標地点がワルツの一歩先に見えた。

そして、足を踏み出す。

到着だ。


(転移ってこんな気分なのね・・・)


力技で転移を実現したワルツ。

というより、転移なのだろうか・・・。


特に、衝撃波が起こったり、空間がねじ曲がった影響で不測の事態が発生したりはしなかったので、ワルツは今後の移動にこれを活用することに決めた。

・・・尤も、重力レンズの中に足を踏み入れるようなものなので、超重力に耐えられない普通の人間には無理な移動方法ではあるが。


さて、ルシア達は何をしているのか。

生体反応センサやレーダーで見る限り、同じ場所をぐるぐると回っている。

何をしているのか気になったので、ホログラムを消して近づくことにした。


50mほど鬱蒼とした森の中を歩いて行くと、ルシア達が見えてくる。

山菜のたっぷり詰まったかごを手に、何をするでもなくただ歩いているようだ。


だが、不自然に歩く方向が変わり、90度、180度・・・更には360度回転して、元の場所に戻ってきた。

一体どういうことなのだろうか。


ワルツはホログラムを表示して彼女達に近づいた。


「ねぇ、何してるの?」


「・・・!!お、お姉ちゃん!」


すると、ルシアがワルツに飛び込んできた。


「っと、どうしたの急に?」


「帰れなかった・・・」


泣き出すルシア。


「ええと、意味が分からないんだけど・・・」


「私達にも全く分からないんです。辺りには霧が立ち込めて、まるで別の森になったように・・・」


(霧?)


ワルツの眼から見る限り、霧など周りに出ていなかった。


しかも、森、とは言っても、300m四方程度しか無い小さなものである。

遭難しようが無いのだが・・・。


「うむ・・・どうやら妾が変身魔法を使った頃からおかしくなったのじゃ・・・」


と言ったテレサは、服が朝着ていた巫女服から、狩人のような冒険者の服装に変わっていた。


「うーん・・・」


(私には霧なんて見えないし、迷ってもいないんだけど・・・変身魔法を使ってからおかしくなった・・・?)


もしも変身魔法が精神魔法と錬成魔法の混合だとするなら、バングルを付けた状態での精神魔法側の効果はどうなるのだろうか。


「ちなみに、魔法を解除してみた?」


「いや、試してはおらん・・・。ほれっ!」


すると、変身魔法を解除するテレサ。

尤も、ワルツには服装が変わったようにしか見えていない。


「うわっ、急に晴れた!」


「ええと、何が起こったんですか?」


ルシアとカタリナが驚く。


「・・・テレサ。バングルを外してもう一度変身してもらえる?」


「よいぞ」


すると詠唱した後、変身するテレサ。

だが、何故かワルツと同じ格好をしていた。


「うわっ、お姉ちゃんが2人・・・」


「見分けがつかないですね・・・」


「・・・」


どうやら、2人にはテレサがワルツに見えているらしい。


「・・・で、霧は出てる?」


「ううん、出てないよ」


「・・・ごめんなさい。原因は私みたいです」


ワルツは素直に謝った。


「なんか、バングルを付けると、テレサの魔力が強化されすぎて、トンデモナイことになっちゃうみたい」


「そうじゃったか・・・」


まさか、お守りが逆効果になって、自分が皆の足を引っ張っていたことになるとは思わなかったのか消沈するテレサ。


「テレサのせいじゃないわよ」


「うん、テレサお姉ちゃんのせいじゃないよ」


「えぇ、その通りです」


皆からフォローを受ける。


「そうか。じゃが、すまぬなお主達。一応、謝っておくぞ」


構図的には、2人のワルツが謝っているといった感じだ。


「・・・これは、テレサにも修練の必要がありそうね」


バングルを使いこなす、という意味の修練は、メンバーの中で初めてだ。

問題は、バングルによってブーストが掛かった精神魔法は、普通の人間に厄介な影響を与えることだろうか。

だが、ワルツやテンポは、今のところ精神操作をされる様子が無いので彼女らと一緒なら安全に修練に励めるだろう。


「うむ、よろしく頼む」


こうして、テレサは自分の魔法を極めていくことになるのである。




ところで、カタリナやテンポには今もなお、ワルツが2人に見えているようだ。

なら、ちょうどいい機会、とばかりにワルツが口を開く。


「変身か・・・私もしちゃおっかな」


「ほう、主も変身できるのか?」


「例えばねぇ・・・」


ここには狐耳が3人いる。

ならば!、とワルツは狐耳+尻尾タキシードに姿を変えてみた。


「・・・・・・」


ルシアの反応である。

前と同じで、赤くなってフリーズしている。


「・・・・・・」


カタリナの反応である。

カタリナが赤くなってフリーズすると言うのは珍しいのではないだろうか。


「・・・・・・」


テレサの反応である。

テレサも赤くなってフリーズするとは、この姿に一体どういう意味があるのだろうか。


猫にマタタビみたいなものだろうか。


「・・・ねぇ、この格好に何かあるの?」


前に、ルシアに聞いた事を全員に聞く。


「何でもないもん・・・」


「いえ、何でもありません・・・」


「うむ、結婚して・・・」


「無理」


「ぐはっ・・・!!」


どうやら、彼女らには刺激が強いらしい。

と言うより、女性に見えていないのだろうか。


「じゃぁ、こっち」


そう言って、ワルツは狩人と同じ黒髪と猫耳+尻尾に姿を変えた。


「うーん・・・なんというか・・・」


「そうですね・・・なんか、こう・・・」


「どうしてそうなったのじゃ・・・」


皆、残念そうな顔をした。

つまり、狩人は残念、ということだろうか。


「じゃぁ・・・」


今度は石で出来たゴーレムっぽくなってみる。

内部が空洞で、そこにワルツがいる、という構図だ。

なので、ワルツ自身の顔や姿が変わったわけではない。


「どや?」


「うむ、そのくらいなら私にもできるぞ」


するとテレサも変身魔法を使ったようだ。

ルシアとカタリナが驚いている辺り、ゴーレムっぽく見えているのだろう。


尤も、ワルツからは元の巫女服に戻ったようにしか見えないが。


「じゃぁね・・・」


ワルツは元の姿に戻った。


白い髪と蒼い眼だが。


そして機動装甲の光学迷彩を解く。


「こんなのは?」


ワルツは薄く笑みを浮かべて、機動装甲の手を取った。




唖然としているテレサ達を他所に、ワルツは機動装甲と踊り始める。

曲はないが、鳥の鳴き声やせせらぎ、風の音を頼りにステップを踏む。

機動装甲もその巨体を感じさせず、人形(ひとがた)のワルツに追従するように身を流した。


木漏れ日の中で繰り広げられる一人と一体のワルツは、その存在だけで場を支配した。

だが、圧迫感や不自然さを感じさせるものではない。

元から、そこに有ることが当然であるかのような雰囲気が、彼女()を包んでいた。




しばらくして、テレサが気づくと舞は終わっていた。


「どう?真似できる?」


問いかけられたテレサは頭が真っ白だった。

唯一、分かったことは、真似などと言うレベルの話ではないということだけか。


「・・・お主・・・それは変身、ではなかろう」


「あちゃー、バレちゃったか」


するとワルツはホログラムの姿を消して機動装甲だけの姿になった。


「はじめましてミッドエデン王国第四王女テレサ=アップルフォール。私がワルツよ」


テレサの前に静かに鎮座する鉄の巨人、ワルツ。


「貴女のパーティーへの参加を許可するわ」


そう言って跪き、右手を差し出した。


「・・・うむ、よろしく頼むのじゃ!」


これまでの3人と同様に、落ち着いて返答したテレサ。

そして、ワルツの手を握ってくるのだった。


・・・もちろん、ワルツの手は握れるほど小さくはないので、指だけだが。


「お姉ちゃん!私にも踊りを教えて!」


ルシアが自分よりも圧倒的に背の高いワルツに向かって、声を上げた。


「えぇと、自分だけで踊るなら、タイミングとか気にしなくていいから踊れるんだけど、他の人と踊るのは難しいかも・・・」


「えーっ・・・」


残念そうなルシア。


「なに、ルシア嬢。妾が直接手ほどきを授けようぞ」


「本当?」


「うむ。王城で嫌というほど叩きこまれたからのう」


どうやら、ルシアとテレサの間に師弟関係が生じたらしい。


「・・・まぁ、頑張ってね。じゃぁ、帰りますか」


「そうですね、狩人さん達を随分待たせてしまったみたいなので」


こうしてワルツ達は工房への帰路に就くのだった。


鉄とは書いているが、鉄ではない機動装甲。

材質は・・・そのうち判明する。

たぶん。

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