9.3-06 悪魔6
「……完成したわね」
「……すまん、ワルツ。一つ、聞いていいか?」
「ん?何?剣士」
「俺、まだ、ほとんど作業が終わってないんだが……いつの間に完成したんだ?」
「それは……アレよ、アレ。こっちの作業が全部終わって暇になったから、残ってた作業を私が進めた、っていうのが半分と……ほら、貴方の鎧、超高性能だから……」
『うん!すっごい頑張ったよ?……ビクトールさんの後ろでね?』
そう言って、剣士の鎧から伸ばした触手のようなものを、嬉しそうに左右へと振るエネルギアmk1。それに応じるように、シュバルも触手を揺らしていたのは、友達を見つけたと思ったからなのか、あるいは対抗心を燃やしていたからか……。
そんな中、あまり活躍の機会がなかったもう一人のエネルギアが、残念そうに口を開いた。
《……僕もmk1みたいに、沢山マイクロマシンがあれば、協力できたと思うんだけどなー》
「残念に思うのは俺も一緒さ?mk2。俺たちは俺たちができる方法で、頑張ろうな?」
《うん》
と、残念な割には嬉しそうな声色で返答するエネルギアmk2。そんな彼女はその言葉と共に、鑿の形から元の妖精の姿へと戻り、直前まで自身を握っていた剣士の指へと笑顔のまま抱きついたようである。
『なんだろう……頑張ったんだけど、なんか悔しい?』
「うん。それは多分、気のせいよ?きっと。で……これからなんだけど……」
ワルツはそう口にすると、つい今しがたできたばかりの、窓のない大きな建物のような装置を見上げながら、続けざまにこう言った。
「この装置の中で木を燃やすわよ?」
「でも、ワルツ。それだと、装置ごと全部燃えるんじゃないか?」
「そりゃ、大きな火柱が上がるくらい木を大量に燃やせば、燃えるでしょうね?でも、家の中で薪のストーブを焚いただけで火事になるかしら?それと一緒よ?」
「ということは……あまり量は燃やさないってことだな?それなのに、この大きな世界樹全体に、煙が行き渡るのか?それに、そもそもからして、どうやって樹の中に煙を送り込むんだ?ただ燃やしても、送り込めないだろ?」
そう言いながら、まるで壁のようにしてそびえ立っていた世界樹を見上げる剣士。そこには直径8キロメートルにも及ぶ、大きな大樹の姿があって……。剣士には、その内部にある虫食い全体に、まんべんなく煙が充満するとは思えなかったようである。
しかし……。
装置を設計したワルツの方としては、すでに検討済みの内容だったようだ。
「その辺は抜かりないわ?そのためのギミックも、あの大きな装置の中に、ちゃーんと仕込んでおいたから」
「いつの間に……」
「いつの間って?そりゃ、貴方が1個目の枘を切ってる間によ?」
「かなり前じゃねぇか……」
「あのギミック——“送風機”については説明してなかったから……。まぁ、あんまり深く考えない事ね。細かいことを気にしない性格なんでしょ?ハゲるわよ?」
「…………はぁ」
と、疲れたように溜息を吐く剣士。いや、実際、彼は、昨日からエネルギアたちに振り回されているので、疲れているのだろう。
しかし彼は、すぐにその表情を改めると……。ワルツに対して、自身の役割を確認した。
「じゃぁ、あの中で木を燃やしてくればいいのか?」
「剣士がやるの?」
「……マズいのか?」
「いえ、問題は無いけど……点火するために、火魔法とか使えるのかな、って思って」
「それなら問題はない。……だろ?エネルギア」
《えっと……レーザーを撃てば良いの?》
『違うよ、mk2。榴弾か焼夷弾を撃ち込めば良いんでしょ?ビクトールさん』
「多分、それ、両方とも違うと思うな……」
「まぁ……剣士が言いたいことは分かったわ。エネルギアたちに火を付けて貰う、ってわけね?でも、点火するのは内部の焚き火だけにしてよね?設備全体が燃えたり、破壊されたりしたら、また作るの面倒くさいんだから」
そう言って剣士たち3人に対し、ジト目を向けるワルツ。
それから彼女は、今度は自分の役割について話し始めた。
「それじゃぁ、私とシュバルは、殺虫剤の設置と、”送風機”の準備に取りかかるわ?危ないかも知れないから、剣士たちは、呼ぶまで、こっちに来ちゃダメよ?特に、”送風機”には絶対に近づかないこと。良い?絶対よ?ミンチになっても知らないんだからね?」
「……フラグってやつか?」
「わりと冗談抜きに本気で」
「分かった。絶対に近づかないように注意するよ。じゃぁ、エネルギアたち。あの装置の中で木材の櫓を組むから、また手伝ってくれ」
《愚問だね!》
『ビクトールさんが頼むなら、何でもするよ?あ、でも、無理なことは無理だからね?』
「あぁ。間違っても、そんな無理なことはさせないさ」
剣士とエネルギアたちは、そんなやり取りを交わしながら、その場を立ち去り……。鎧から生えた大量の触手を使って、そこにあった木材を引きずりながら、大きな装置の中へと姿を消した。
「それじゃぁ、シュバル。私たちも行きましょうか?」
「…………」にゅるっ!
ワルツの問いかけに対し、嬉しそうな様子で、首を上下に振るシュバル。
こうして。
ワルツとシュバルは、自分たちの持ち場へと足を向けたのである。
シュバルの名前は、考えれば考えるほど、良い名前じゃと思うのじゃ。
元の意味としては、フランス語で、"馬"なのじゃ。
そう、"馬"なのじゃ。
"うま"なのじゃ。
"UMA"なのじゃ……。
そこまで考えたつもりはなかったのじゃがのう……。
考えればもっと、何か色々な意味が湧いて出てきそうな気がする今日この頃なのじゃ。




