9.3-03 悪魔3
シュバル注意、なのじゃ!
まぁ、注意するほどのことでもないがの。
テンション高めのシュバルを抱っこしながら、世界樹の近くへと向かったワルツ。
彼女が向かったその先には、虫退治を続けていたエネルギアたちの姿があって……。ワルツとシュバルのことを見た彼女たちは、その手を休めると、開口一番に、こんな言葉を口にした。
《『……しょくしゅ装備?』》
「……どうして、シュバルを持ってるだけで、そうなるのよ……。っていうか何?触手装備って……」
「…………」ブンブン!
エネルギアたちに装備扱い(?)されて怒っているのか、それとも逆に喜んでいるのか……。身体を激しく波打たせながら、頭と思しき部分を、ブンブンと振り回すシュバル。
すると。
その場に居合わせて、そのやり取りを見聞きしていた剣士が、妹たち(?)に対して忠告する。
「こら、エネルギアたち。シュバルは物じゃないんだから、装備なんて言い方したら失礼だぞ?それに、”触手装備”って言うのは、賢者が考えた空想上の装備だから、本当にあるわけじゃないからな?」
「ちょっと剣士。貴方たち、エネルギア2人に、何を教えてるのよ……」
と言いながら、いかがわしいモノを見るかのような視線を、剣士に対して向けるワルツ。
すると剣士は、首を振りながら、ワルツの追求に対し、こう答えた。
「いや、そんな変な話ではないんだが、前に賢者が考えた作り話で、勇者が装備する最強の防具は何か、ってネタがあったんだ。そのとき出てきた装備の一つが触手装備で……。それを聞いていたエネルギアたちが、俺の鎧に化けたときに、面白半分で、それを再現するんだ」
『ちなみに、こんな感じだよ?』
少女の姿をしたエネルギアmk1はそう口にすると、マイクロマシンでできたその身体の形を崩して、剣士に取り付き……。そして——
ウネウネ……
——触手装備、というよりも、まるでイソギンチャク装備とも言うべき見た目の鎧(?)へと、その形を変えた。
「うわぁ……(気持ち悪い……)」
「……ワルツが何を思ってるかはなんとなく分かる。だけどな?エネルギアのこの形態、意外と強いんだぞ?」
『うん!見ててよ?』
剣士に取り付いた触手はそう口にしてから、近くにいた虫たちを——
シュバババババ……!
ブチブチブチブチ……!
——その何本あるか分からない触手(?)を器用に使い、その先端で潰し始めた。
「……こんな感じで、俺が攻撃しなくても、エネルギアが勝手に攻撃してくれるんだ。もちろん、エネルギアは、装備なんかじゃないが……もしもこれが装備だったら、世界のどこを探しても、こんな高性能な防具、無いだろうな……」にやり
「そりゃ無いでしょうね……(むしろ、あったら、いの一番で、私が潰してるわよ……)」
そう言って、なんとも表現しがたい、複雑な表情を浮かべるワルツ。
するとそんなとき。
高速で虫たちを蹂躙していたエネルギアmk1の姿を見たシュバルが、ワルツの腕の中で、何やら不穏な動きを見せ始める。
具体的には——
にゅっ……
——と、身体から3本ほどの触手を伸ばすと——
シュババババッ!!
——それを使い、虫たちのことを、目にも留まらぬ速さで攻撃し始めたのである。そう、まるで、エネルギアmk1のことを真似るかのように……。
ただ、彼は、エネルギアmk1と大きく違い——
「ちょっ……シュバル?!それ、ばっちいから食べちゃダメよ?!」
——虫たちを潰さずに、生きたまま体内へと吸収していたようである。
「…………」にゅる?
「ほら、吐き出して?あとでカタリナにおやつをもらえなくても、知らないわよ?」
と、ワルツがそう口にした瞬間——
「…………」にゅるっ?!
——シュバルは何を思ったのか、身体をまるでウニのようにトゲトゲとした形状に変形させると——
ドドドドドッ!!
——と、まるで機関銃のような速度で、体内に取り込んだ虫たちを吐き出し始めた。
一方。
その様子を見ていたエネルギアたちは、揃ってこんなことを口にする。
『なるほどー……。虫を使って、虫を攻撃するっていうのは、斬新な発想だねー』
《mk1も真似てみたら?》
『んー……でも、ちょっと難しいかな。多分だけど……掴んだときに、力の加減ができなくて潰しちゃいそう?』
《じゃぁ、僕が代わりにやってみる?》にやり
「いやちょっと待て、お前たち。真似なくて良いし、それに、そもそもからして触手装備の話はもうやめ——」
『……なんかmk2に負けたくないから、やってみる!』
ブチブチブチッ……
「ちょっ……」
ブチブチブチッ……
「まずっ……」
エネルギアmk1が虫たちを捕まえようとすると、彼女の事前の言葉通り、少なくない数の虫たちが潰れてしまい……。結果、彼女を装備していた(?)剣士は、その体液まみれになってしまう。
すると、その臭いに反応して——
カサカサカサ……
ぷ〜ん……
——という音と共に、剣士に群がる大量の虫たち。
その結果、剣士とエネルギアmk1は、大量の虫たちに囲まれることになり……。触手装備と言うよりも、虫装備のような見た目になってしまったようだ。
そんな彼らに対し、少し離れた場所から生暖かい視線を向けていたワルツと妖精の姿をしたエネルギアmk2は、こんなやり取りを交わし始める。
「……無残ね」
《ここに来るまで、世界樹の根の中を歩いてきたときも、大体あんな感じだったから……あんまり気にしなくて良いと思うよ?》
「まぁ、そりゃそうでしょうね……」
《ところで、お姉ちゃんたちは、ここに何しに来たの?》
「もちろん、虫退治よ?カタリナに殺虫剤を作ってもったから、その辺にバラ撒きに行こうかと思って」
《ふーん。手伝う?》
「そうねぇ……。人手があった方が良いから、せっかくだし、手伝ってもらおうかしら?」
《うん。わかった》
「じゃぁ、さっそくだけど……」
と、エネルギアmk2に対し、手伝いの内容を説明し始めるワルツ。
ただし……。
ワルツは詳しい説明を始める前に、剣士たちから虫の山を引き剥がしたようである。何しろ、エネルギアmk2にしても、mk1にしても、どちらか一方が剣士と共に行動している状態で、もう片方が別行動をすることなど、まずありえないことなのだから……。
シュバルの特徴が特徴ゆえ、シュバルが関係する話は、大体こんな感じの話になる——かもしれぬのじゃ?




