4前-14 忠誠
王女を仲間にするか。
簡単には決められることではないだろう。
ただでさえ、誘拐の罪を負っているというのに、その上、危険な目に合わせるなど以っての外だ。
このパーティーは、今、旅をしながら皆の実力を付けている真っ最中なのである。
もしも、命を落すようなことがあったら、誘拐罪だけでは済まない。
まぁ、既に殺人罪が適応されている可能性もあるのだが。
「ねぇ、本当にこのパーティーに参加したいの?」
「うむ。絶対に参加するのじゃ!」
どうやら、テレサの意思は固いようだ。
だが、テレサと共に旅をするとなると、一体、どれだけのリスクを追わなくてはならなくなるのか。
なら、とワルツはテレサに質問する。
「もしも、騎士団に追われるようなことになったらどうするの?」
「何を言っておるんじゃ、お主?蹴散らせば良かろう」
「うん、そうよね。そう言うと思った」
そもそも、テレサとワルツ達との考えには、大きな隔たりがあるようだ。
テレサをこのパーティーに入れるかどうかを考える前に、まずこのパーティーの基本的なスタンスを理解してもらうべきだろう。
「あのね、私達は、この世界に出来るだけ干渉しないことにしてるの」
「それにしては、魔女狩りで捕まったり、天使を倒したりしていたのではないか?」
「あれは、不可抗力よ。まさか、いきなり捕まるとは思ってなかったの。天使についても、一度目を付けられちゃったから、倒さざるを得なかったわけだし・・・」
(そういえば、私って、天使を殺したことになるのかしら・・・)
今更なことを思うワルツ。
(まぁいっか。倒さないと、仲間がやられていたんだから)
小心者なのに、大きいことは気にしないようだ。
「ふむ、なるほど。では、何故、世界に干渉しないように行動しておるのじゃ?」
「それは・・・」
自分が居世界から来たガーディアンだから、とはこの段階では言えないだろう。
故に、
「いつでも世界を滅ぼせるから、とだけ言っておくわ」
と答えた。
要は、自分たちの力を巡って争いが起きるから、それを避けるために隠遁している、というニュアンスだ。
「確かに、お主らなら、そうかも知れぬな」
だが、力だけが理由ではない。
「後は・・・そうね・・・」
テレサに開示できる情報を考えていくワルツ。
「・・・テンポかしら?」
「呼びましたか?お姉さま」
テンポが前にやってくる。
「彼女は、ホムンクルスよ?」
「ん?どういうことじゃ?」
同様に、狩人も怪訝な表情を見せる。
「だから、人造人間。私達が作った、ね」
「おい、ちょっと待ってくれ。どういうことだ?」
(そういえば、テンポの事を狩人さんにに教えてなかったわ)
初対面の時、本人たちが勝手に名乗り合っていたので、つい紹介のタイミングを逃してしまったのだった。
「ごめんなさい、狩人さん。すっかり忘れてたけど、実はテンポは、私とルシアとカタリナの3人で作ったホムンクルスなの」
「ホムンクルスって、あの多くの人々を犠牲にして作るっていうやつじゃないよな・・・」
狩人が青ざめる。
「もちろん、違うわよ。誰も犠牲になんてなってないわ」
「・・・だよな。ワルツ達だもん、そのくらい造作も無いよな」
どうやら、安心できたようだ。
「つまり、私達の持っている技術や知識を誰かに渡すわけにいかないの」
尤も、ニューロチップの設計図と半導体生産設備が無いと、頭脳は作れないのだが。
「なるほどのう・・・」
テレサは、テンポをしげしげと観察し、感嘆しているようだ。
「じゃから、人間になりたいだの、子どもが欲しいだのと言っておったのか」
「んー、まぁそういうこと」
どうやらテンポとわるつの会話に合点がいったようだ。
そして、ニヤリと笑みを浮かべるテレサ。
「やはり、お主らは興味深いな。」
余計に興味を持ったようだ。
「そういうわけで、変に人々と繋がりを持つのは避けたいの。もちろん、不用意な戦闘もね。分かってくれる?」
「うむ。相分かった」
「じゃぁ、最初に戻るんだけど、もしも騎士団が来たらどうするの?」
再び同じ問いかけをするワルツ。
すると、
「ならば、妾の変身魔法の出番じゃな」
「変身魔法?」
ワルツにとって初耳の魔法だ。
まぁ、狐だし普通よね、とワルツは思っていたのだが。
「見ているが良い」
テレサは何かを唱え始めた。
すると、突如としてテレサが光りに包まれる。
ドロン、といかないところは、やはり魔法だからか。
しばらくして、光が収まる。
変身が終わったようだ。
そして、彼女は告げる。
「魔法少女テレサ=アップルフォール、なのじゃ!」
キラッ!
だが、ワルツの反応は薄い。
「・・・ただ、メイド服を着ただけじゃない」
そう、スカートが短いものの、どう見てもメイド服だった。
一応、ステッキのようなものは持ってはいたが・・・。
見様によっては、魔法少女・・・なのだろうか。
悩むところである。
ところで、ルシアが妙に目を輝かせていたのが気になるところだ。
王女の厨二病が伝染しないことを祈ろう。
「それに、服装は変わっても、他の部分は変わってないわよね?」
『えっ?』
テンポを除く、全員から声が上がった。
「えっ?変わってるの?」
「私には、メイド服を着たテレサ様にしか見えませんが・・・」
どうやら、テンポにも変わってないように見えるらしい。
「・・・誰、この人って言うくらい変わってるけど、お姉ちゃんには見えないの?」
と言ったのはルシアだ。
どうやら、普通の人間には変身しているようにみえるらしい。
(認識を変更する効果でも持っているのかしら・・・)
認識に関して言うなら、ワルツ・テンポと普通の人間の違いは、脳と眼である。
どうやら、変身魔法はこのどちらかか、精神、あるいは、存在するなら魂に働きかけるもののようだ。
まさか、全て、ということは無いだろう。
(ということは、ガーディアンに精神魔法の効果は無いと考えてもいいわね)
何れにしても、ワルツは、この魔法を自身の記憶にある『精神魔法』と捉えることにした。
尤も、物語の世界の話から引っ張ってきた知識でしか無いのだが。
だが、変身魔法が精神魔法だとするなら、服が変わって見えているのは一体どういうことだろうか。
「ねぇ、テレサ。服を触らせてもらってもいい?」
「構わぬが・・・」
ワルツはテレサのメイド服を触ってみた。
結果、普通に触れた。
ということは、服は実体らしい。
「服も、変身魔法で変えたの?」
「もちろんじゃ」
すると、巫女服がメイド服に変わったということになる。
つまり、錬成に類する魔法の効果も含まれているのかもしれない。
(つまり、複数の魔法を組み合わせると、より高度な魔法に昇華できるということになるのかしら・・・)
水魔法と雷魔法と火魔法を組み合わせたら面白そうね、などと不穏な事を考えるワルツだった。
さて、話を戻す。
どうやら変身魔法は、ガーディアンには効果はないが、普通の人間にとっては効果があるようだ。
(つまりは、王女が私達に同行しても、問題は無いってことね)
もちろん、怪我をしなければ、の話ではあるが。
それは狩人も同じことである。
「色々な問題が無くなったことはよく分かったわ」
ルシアにポーズを決めていたテレサに声を掛けた。
何故か、狩人も羨ましそうに見ていたのだが、彼女の年齢で厨二発病は拙いだろう。
「理解してくれて助かるぞ」
あと、残すはワルツの正体を教えるか、否かだが・・・。
やはり、時期尚早だろうか。
ルシアの時は致し方なく、だった。
カタリナの時は、既に姿を見られていた。
狩人の時は、1ヶ月とはいえ、彼女のことを理解できる時間と機会があった。
テンポの場合は言わずものがなである。
だが、ここで正体を明かしておかなければ、この先の行動が制限されてしまう。
どうするべきか。
悩んだ挙句、ワルツは条件を提示することにした。
「テレサ。仲間になることを認めてもいいわ。でも、出会って間もないから、一つ条件を付けてもいいかしら?」
「うむ。仕方あるまい。で、その条件とは何じゃ?」
「申し訳ないのだけど、貴女が裏切らない、という証拠を見せてほしいの。もちろん、貴女が思う方法で構わないわ」
失礼を承知でワルツは聞いた。
「ふむ。確かに、お主らの仲間になるなら、それは必要なことじゃろう」
すると、ワルツに近づいてきて、テレサは跪いた。
「・・・こういったことは、妾としてはされる側じゃから、なんと誓いの言葉を言っていいのか分からん。じゃが、妾が今思っている言葉を口にするなら・・・」
そういって、跪いて顔を伏せたまま、王女は言った。
「身も心も、御心のままに」
そう言って、ワルツの手を取り、手の甲にキスをした。
突然のことに、手を引っ込めそうになるワルツだったが、王女の行為を阻害するというのも失礼に当たるか、と思い、そのままにする。
「いや、別に、そこまでしなくても良かったのに・・・」
だが、テレサにそれ以外の行動があっただろうか。
証拠を見せろ、と言ってテレサがとれる行動など、これくらいしか無いのである。
よく考えずに、そんな発言をしたワルツが悪いのだ。
ワルツが内心で、自分の発言に後悔し、『分かったわ』と返そうと思っていると、テレサがもう一言付け加えた。
「結婚してくだ・・・」
「無理」
言い終わる前に返答する。
「何故じゃ、どうしてじゃ・・・」
泣きそうになるテレサ。
「ねぇ、この国では同性結婚を認めてるの?」
「いいえ、それはないと思います」
カタリナが返答する。
(あれかしら、特殊な性癖の持ち主・・・)
理解不可能である。
故に、ワルツは思考を停止した。
「まぁ、貴女の気持ちはよく分かったわ」
色んな意味で、だ。
ワルツが言うと、テレサは機嫌を直した。
「うむ、ではこれからよろしく頼む」
こうして、テレサがワルツパーティーに参加することになった。
あとは、ワルツの正体を明かすだけなのだが、家の中に機動装甲の本体は入れないので、後日ということにした。
まぁ、掌くらいなら入れるのだが、それだけ見せても仕方がないだろう。
ワルツがどうやって家の中に入っているのか・・・。
その事実が語られるのは、最後から2つ前の章・・・の予定。