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9.2-12 世界樹12

 世界樹の表面に作られた階段。勇者たちはそこを登っていたわけだが……。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「(さて、どうしたものでしょうか……)」


 早速、リアが、息を切らし始めたようである。やはり、数ヶ月にわたって寝たきりだった彼女にとって、今回のような急激な運動は、無理に近いものだったらしい。


「大丈夫ですか?リア」


 と、口にしながら、隣を歩いていたリアに対し、心配そうな視線を向けつつ、問いかける勇者。

 そんな彼は、いつの間にか、普段のメイド服の姿に戻っていて……。一行の先頭を歩きながら、”黒い虫”を見つけ次第、退治していたようである。”黒い虫”がこの国に災いをもたらす害虫だと知ってからというもの、彼は虫たちを退治するようにしているようだ。


「はい……大丈夫……です……」


「無理だと思ったら、早めに言って下さいね?」


「もう無理です……」


「えっ……」


「冗談です……」


 息を切らしながら階段を登っていたリア。そんな彼女は、端から見ると、とても”大丈夫”には見えなかったが……。どうやら、冗談を言える程度には、余裕が残っていたようだ。


「……分かりました。でも本当に無理はしないで下さいよ?」


「はい……」


 リアは勇者の問いかけに対し、そう短く返答すると、それからただ黙々と足を動かし続けた。


 そんなやり取りを交わす2人の後ろを、ユキと賢者が歩いていて……。彼女たちも、勇者たちと似たような会話を交わしていたようである。


「賢者さん。無理そうなら言って下さいね?」


「……それ、冗談で言っているんですよね?」


「えっ?いえ、冗談ではないですよ?」


「えっ?あ、はい……(私は……そんなに()()()見えるんだろうか……)」


 ユキの言葉を受けて、何となく憤りのようなものを感じていた様子の賢者。どうやらユキは、ダンスの練習中に何度も昏倒していた賢者のことを、か弱い存在だと捉えていたようである。なお、賢者は非力、というわけではない。


 そんな賢者に対し、ユキが問いかける。


「……賢者さん?リアさんに、身体強化の魔法を掛けてあげた方が良いのではないですか?」


「私もそうは思うのですが……身体強化の魔法は、筋肉に対して良い影響は与えないので、病み上がりの者に使うべきではありません。本当に限界を迎えて、どうしても動けなくなったときに使おうかと考えています」


「今はまだそのときではない、と?」


「はい。本当にダメになったときは、レオから指示があるはずです。それまで、私たちにできることは、ただ見守ることだけですよ。まぁ、心配する必要は無いでしょう。私たち以上に、レオが、リアのことを心配しているはずですから」


 そう言って、先頭で虫退治をしつつも、何度も後ろを振り返って、リアのことを気に掛けている様子の勇者の姿に対し、細めた視線を向ける賢者。

 彼のその言葉を聞いていたユキの方も、その言葉に異論は無かったらしく……。彼女もリアのことを後ろからそっと見守ることにしたようだ。


 そんな彼女に対し、賢者がおもむろに問いかけた。


「そういえば、ユキさん。リアは完治したんですか?」


「完治……いえ。カタリナ様からは、そのようには聞き及んではおりません。少し前にようやくリアさんの意識が戻って、すごい早さで身体を動かせるまでに回復して……。そのくらいしかボクも知りませんよ?」


「そうですか……。ん?でもそうなると……リアは例の症状を、今も抱えたままということですか?」


「魔力が漏れていることですね?魔力漏れは、カタリナ様でもどうにもならなかったようです。なので、カタリナ様は、リアさんの体内から抜けていく魔力の量よりも、生成される魔力の量が多くなるように処置を行って、リアさんの身体の中に魔力が留まるようにしたようです。まぁ、ボクにも詳しい事は、よく分かりませんけれどね」


 と、カタリナやテンポから聞いたと思しき話を賢者に説明するユキ。

 

 すると、それを聞いた賢者が、どういうわけか眉を顰め始めたので……。それに気づいたユキは、事情を問いかけた。


「……どうかされたのですか?賢者様?」


「先ほどワルツ様やカタリナが……”黒い虫たち”は、魔力に反応して、魔力を吸いに来ると言っていたような気がするのですが……」


 ベガの力の源たるバラの花。それが放つ魔力を目当てに、黒い虫たちが群がってきているという話を、賢者は先ほどワルツたちに聞いたことを思い出していた。黒い虫たちが、魔力を目当てに群がるというのなら、つまり、魔力が身体から漏れ出ているリアは、虫たちにとって格好の獲物なのではないか、というわけである。世界樹の樹を登るにつれて、加速度的に数を増やしていた虫たちの姿を見て、賢者は段々と心配になってきたらしい。


 そんな彼の言葉を聞いて——


「あ……なるほど……」


——と、ユキが関心したような反応を見せた、その瞬間だった。


ドゴォォォォォン!!


 階段真横にあった世界樹の幹が、突然爆ぜたのである。

 そして、そこから——


ぷぅ〜ん……

カサカサカサ……


——大量の虫たちが現れた。

 どうやら、世界樹の幹の中に潜んでいた虫たちが、幹の近くまでやってきたリアの魔力に気づいて、一気に飛び出てきたようだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 1043/1836 ・上手いですね。勇者ちゃんの後にあのセリフは草。 ・漏れるよりも多く生成するというパワー系、好きです。 [気になる点] カサカサは余計じゃぁぁぁぁぁっ!! [一言…
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