9.2-10 世界樹10
『おぉ!コルテックス!面白いなこれ!』ドゴォォォォォ
『やみつきになりますよね〜?でもハマりすぎると、寝る時間が削られていくので、注意して下さいね〜?』
「なんだろ……何か、こう、引っかかるんだけど……まぁいっか……」
マクロファージの向こう側で、妙に盛り上がっているコルテックスと狩人の2人。そんな2人の嬉しそうな声と、マクロファージたちのアグレッシブな動きを見て聞いて……。ワルツは思わず溜息を吐いてしまったようだ。どうやら彼女は、楽しげな声を上げる2人を前に、疎外感を感じていたらしい。
「それにしても、世界樹の中って……想像してたのとやっぱり違うわね?」
『さすがにこれは〜……虫食いじゃないと思いますよ〜?』
『あぁ……。最初はただ大きな樹かと思ってたんだが……確かにこんな木、たまにあるよなー』
3人が世界樹の中で見た光景。それは、数キロメートルに渡って、中身が詰まった世界樹の幹の姿——ではなかった。確かに内部は、ある程度の距離まで、中身が詰まっていたものの……。途中から大きな空洞が広がっていたのである。それも、直径5kmはあろうかという巨大な円形の空間が……。ようするに、世界樹の幹は、その内部にある大きな空間を覆う壁のような作りになっていたのである。なお、上の空間は、空まで完全に突き抜けているようだ。
そんな大空洞の中は、光るコケやキノコのために、夜でも薄緑色に輝いていた。そのせいもあって、狩人の目にも、マクロファージの眼(?)を介して、世界樹内部の空間が観察できていたようだ。
『ワルツ。知ってるか?この光るキノコ。一応食えるんだぞ?』
「えっ……」
『水っぽいだけで、あんまり美味しくないけどな』
「それ、正直、食べたくないですね……」
『狩人様〜?マクロファージちゃん2号を使えば、画面の中に見えるモノを回収することもできますよ〜?』
『ん?!本当か?!』
『気になる物体に近づいて、マウスの右ボタンを押して〜……出てきたメニューの中にある”採取”を選んで、またマウスのボタンを押して下さい。メニューの選択に使うボタンは、右でも左でもどちらでも良いですよ〜?』
『どれどれ?』カチッ
ブゥン……
『…………』ブゥン『おぉ!これ、無茶苦茶便利だな?』
『そうですよ〜?すっごく便利ですよ〜?』
「便利ですよ〜、じゃないでしょ、コルテックス。それ、ぶっちゃけ、犯罪に使い放題じゃない。まさかと思うけど、悪用してないわよね?」
『犯罪なんてしてないですよ〜?というか、そもそもからして、国家評議会議長に当てはめられる法律があるなら、見てみたいモノですね〜』
「……………」
『……いや、もちろん道徳行為に反するようなことなんてしてないですよ〜?やったとしても〜……ちょっと、エクレリアの戦車に爆弾を仕掛けたり、燃料タンクの中に砂糖を入れるくらいですね〜』
「テロ行為と、嫌がらせを同列に並べるって、どうかと思うんだけど……」
『いえいえ〜。そんなことはないですよ〜?両方とも、れっきとしたテロ行為です』
と、あたかもそれが当然と言わんばかりな様子で、そう口にするコルテックス。どうやら彼女は、マクロファージたちを使って、ミッドエデン本国に攻め入ろうとしていたエクレリアの戦車群を、嫌がらせに近いテロ行為で撃退しているようだ。おそらくは、敢えて嫌がらせに近い方法で攻撃しているのだろう。
「まぁ、いいけど。それじゃぁ、降りましょうか?」
そう言って、立っていた幹の亀裂の隙間から身体を乗り出し、ここまで壁を登ってきたときとは逆に、切り立った崖のような幹を、垂直に歩いて下っていこうとするワルツ。
すると、それを見た狩人が、どこか困った様子で声を上げた。
『ちょっと待ってくれワルツ。どうやって、マクロファージを使って、壁を降りるんだ?』
「どうすんの?コルテックス」
『簡単な話です、狩人様〜。私がするようにやってみて下さい』
コルテックスはそう口にすると——
『とう〜!』シュタッ!
——ミッドエデンの議長室にあるだろうキーボードの“w”キーを、迷うこと無く押し込んだのである。
ひゅぅぅぅぅ……
『……なるほど』
「もう、何でもありね……」
『じゃぁ、ワルツ。また下で会おうな!……とうっ!』シュタッ!
そして、コルテックスの後を追いかけて、自身も奈落の底へと身を投げるマクロファージ2号——もとい、狩人。
そんな彼女の後ろ姿に向かって——
「……間違って、リアルでも同じ事をしなきゃ良いんだけど……」
——と、ワルツが呟くのだが、その声が狩人たちに届くようなことは無く……。
ワルツも2人の後ろを追って、大空間の中へと身を投げたのであった。
時間的余裕がまったく無い、ここ最近なのじゃ。
自分が2、3人必要なのじゃ、と思ったとき、どうすれば良いのか……。
……分裂!ではなのじゃ?




