9.2-09 世界樹9
『お姉様〜?一つ言いたいことがあるのですが、言っても良いですか〜?まぁ、ダメって言われても、言いますけどね〜』
世界樹の亀裂から内部に入ったところで、足(?)を止めて、不意にそんなことを口にしたマクロファージ——コルテックス。そんな彼女の言葉を、ワルツが眉を顰めながら待っていると、コルテックスはワルツにとって頭の痛い、こんなことを口にし始めた。
『実は〜……狩人様が禁断症状を起こして、死にそうになっています』
「……何の禁断症状を起こしたかのかは、敢えて言ってないのよね?」
『そりゃ〜……言わなくても明らかですからね〜』
と、どこか嬉しそうな様子で口にするコルテックス。どうやら、狩人は、ワルツに会えなくなって3日目で、寂しさのあまり死にそうになっているらしい。
「でも……帰るわけにも行かないしね?逆に狩人さんがこっちに来たら来たで、またすぐに帰んなきゃならないだろうし……」
『えぇ、そうですね〜。その通りだと思います。……なので考えました〜!狩人さんが、通い妻を脱却して、なおかつ職務を全うできる方法を〜……!』
「……もしかして、”どこで○ドア”でも使うつもり?っていうか、通い妻って何?」
『いえいえ〜。私の魔道具の”どこにでもドア”を使うわけではありませんよ〜?それでは早速やってみましょう。実はここに、さっきから狩人さんがスタンバイしています!』
「えっ……」
『あーあー、聞こえるか?ワルツ』
「狩人さん……いたんですね……」
『おぉ!すごいぞ!コルテックス!ワルツの声が聞こえてくる!』
『そりゃぁ、そういうモノですからね〜。でも、まだまだですよ〜?本番はこれからですから〜』
と、マクロファージの向こう側で、自身の隣にいるだろう狩人に対し、気合いの入った一言を口にするコルテックス。
その瞬間の事だった。
べちゃっ!
ワルツの前にいたマクロファージが、不意に2体に分裂したのである。
『さぁ、狩人さん!これでマクロファージの半分は、狩人さんのものです!ほら、お姉様が見えるでしょう?』
『おぉ、本当だ!ワルツ、元気そうだな!』
「え?あ、はい……」
『そこにあるキーボードの”w”を押すと前進しますよ〜?』
『だぶりゅー?あ、これか』ぽちっ
にゅるにゅるにゅる……
『おぉ!画面の中の景色が動いたぞ!』
「……何やってるんですか?」
マクロファージの向こう側で、どこか楽しそうな声を上げていた狩人に対し、そんな質問を投げかけるワルツ。
するとその問いかけに対し、狩人が嬉しそうな声色で返答した。
『私もよく分からないんだが、コルテックスがいつでもワルツに会えるようにと、色々と魔道具を準備してくれてな?この装置……何って言ったっけ?』
『魔動パソコンです。量子コンピュータの一種ですよ〜?』
『そうそう、それだ。そのパソコンとやらを使って操作できるマクロファージを貸してくれることになったんだよ。しっかしこれ、すごいな……。だけど……あれ?前進は良いとして、後退はどうするんだ?』
『キーボードの”s”を押せばバックしますよ〜?ちなみに、右に行く場合は”d”、左に行く場合は”a”です。視界はマウスの動きで操作して、マウスの左側のボタンを押せば攻撃できますよ?』
『ん?攻撃?』ぽちっ
「ちょっ?!」
ドゴォォォォォン!!
狩人がマウスのボタン(?)を押した瞬間、マクロファージの表面から勢いよく吹き出す火柱。それはホログラムの姿のワルツに直撃して、彼女の事を燃え上がらせた。とはいえ、それでワルツが傷つくようなことは無かったようだが。
「ちょっと、狩人さん!燃えたんですけど……」
『ご、ごめん!ワルツ……』
「まぁ、私は炎程度じゃ火傷したりしないので、別に良いですけど……今度から注意して下さいよ?ルシアとかに当たったら、大変なことになりますからね?」
『本当に済まない。最善の注意を払うことにするよ』
と、謝罪の言葉を口にする狩人。その際、ゴン、という音がどこからともなく聞こえてきたところから推測するに、どうやら狩人は謝罪のために頭を下げて、ヘッドフォンマイクか何かを机にぶつけたようだ。
「じゃぁ、世界樹の中の調査は、コルテックスと狩人さんと3人でやる感じですかね?」
『えぇ〜。狩人さんのマクロファージの操作訓練には、もってこいだと思いますし〜』
『頼むぞ?ワルツ。まだ操作の方法がよく分からなくてな。壁を登る方法とか、ジャンプする方法とか……』
「えっと……はい。じゃぁ、はぐれないように注意しながら行きましょうか?」
3人はそんな会話を交わすと……。
先が見えないほどに深く亀裂が入った世界樹の中へと、その足(?)を進めていった。




