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4前-12 行方

時は昼過ぎ。


今日は、随分と長い一日だ。


捕まったと思ったら、脱走して、仲間と作戦会議をした後に、裁判。

拷問を回避し、天使と戦って倒し、荷物を取り返したら、騎士との戦闘。

町の人々を気絶させた後に治療して、魔女たちを開放し、教会を潰してから、空を飛んで逃げる。


どう考えても、半日のボリュームではない。

その上、一日はまだ終わっていないのだ。

故に、空を飛んでいる間くらいは、ゆっくりしてもいいのではないだろうか。




・・・だがワルツは、とあることで悩んでいた。


(ルシアがあまりにも強すぎる・・・)


バングルを付けていたとは言え、ルシアの魔法でサウスフォートレス2つ分はあるかという範囲の人間が一気に感電した。

それもワルツが「力を抑えて」と頼んだ上で、だ。

全力で魔法を行使したら、王都は間違いなく死の都と化していたことだろう。


(どうすればいいかしら・・・)


このまま、ルシアを野放しにしておくと、最悪、世界が崩壊しかねない。

それに、危険、という理由で命を狙われる危険もあった。


つまり、保護者として何らかの対策を取る必要に迫られていたのだ。


いったいルシアは、これまで(2ヶ月前まで)どのように生活をしてきたのだろうか。

ワルツはルシアに問いかけた。


「ねぇ、ルシア」


ルシアは、流れていく雲や地面に目を奪われていたようだが、(ワルツ)の呼びかけに直ぐに応じる。


「何?おねえちゃん」


「聞きづらいことを聞くかもしれないのだけど」


両親が亡くなってから2ヶ月弱しか経っていない。

故に、こうした話題を振るのは気の毒だったが、やむを得ないだろう。


「・・・お母さんかお父さんに、魔法を抑える方法を教えてもらわなかった?」


「・・・ううん」


ルシアは首を横に振る。

親の事を話題に出して、表情を変えないところを見ると、ワルツの杞憂のようだ。


「でも、魔法は出来るだけ使わないように、って言われてた」


そもそも、使わなければ問題にはならない。

その通りだ。

だが、能力を持った者が、死ぬまで魔法を使わずに生きていく事は現実的に可能なのだろうか。


ワルツは、カーゴコンテナに入ったチョーカーを思い出しながら、彼女の将来について悩むのだった。




超音速で飛ぶこと20分、アルクの村に到着した。


(徒歩で歩いても、意外に長距離を移動できるものね)


空から見る限り、久しぶりに戻ってきたアルクの村には、どこかの騎士団が殺到していたり、協会の関係者が居座ったりしている様子はなかった。


ワルツは、誰にも見られないように、村の近くに着陸する。


着陸すると、ムワッとした熱気がワルツ達を包んできた。

どうやら、王都から500kmも離れていれば、気候もだいぶ違うようだ。




そこから歩くこと5分。

ようやく工房に到着した。


「ワルツ!ルシア!」


ワルツがルシアと手を繋いで歩いていると、狩人が抱きついてきた。

・・・主人と離れ離れになっていた犬のようだが、狩人は猫である。


「いきなり転移させられたから、驚いたぞ!」


「・・・ごめんさい、相談してなかったですね」


「次からは先に言ってくれよな」


あまり、多数の人々に顔を見られるのは拙いと思い、つい(ルシアに頼んで)強制的に転移させてしまったのだ。

狩人の指摘も致し方無いだろう。


「ところで、狩人さん。女性達は無事ですか?」


「あぁ。でも、まさか2()1()人も送られてくとは思わなかったよ」


「・・・?まぁ、他に手段が無かったので」


「そうか。でも、これからどうするんだ?」


とりあえず、安全な場所まで転移させたはいいが、どうするか。


「うーん、とりあえずは、住む場所の確保ね」


ワルツは迷うことなく、工房の向かいにある建物へと足を踏み入れるのだった。




「すみませーん!」


酒場の中で大声を上げる。

もちろん、人のレベルとしての大きさだ。


「開店は夕方から・・・って、嬢ちゃんか。久しぶりだな。というか、もう旅から帰ってきたのか?」


「えぇ、まだ旅をしてる最中ですが、一度戻ってきました」


「そうか・・・転移魔法か何かか・・・いや、余計な詮索はしないでおこう」


いつもながら、話の分かる酒場の店主ね、と感心するワルツ。

そして早速、本題を口にする。


「実は・・・村人が最大で21人増えてもいいですか?」


「・・・はあ?」


普段から酔っぱらいの相手をしている店主にも、流石にワルツが何を言っているのか分からなかったようだ。

寝言は何とやら、だろうか。

遅れて理解した店主の脳裏を26人分の食事が駆けて行ったのか、顔色が優れない。


「まぁ、簡単に言うと、事情があって(かくま)って欲しい人達がいるんです」


そう言って、魔女狩りの被害にあった女性達のことを説明していく。


一通り説明し終わると、黙って聞いていた酒場の店主が口を開いた。


「そうか・・・いいだろう。好きなだけ村に滞在していってもいいぜ。まぁ、働いては貰うがな」


ニィっと笑顔を見せる店主。

そしてワルツも予想していなかった発言をする。


「実はな、俺の婆ちゃんも魔女狩りの被害にあったんだ」


と、昔のことを説明する店主。


要約するとこうだ。

今のベルツ伯爵の元では行われていないが、先代の伯爵の元では普通に魔女狩りが行われていたのだという。

その頃、まだ幼かった酒場の店主は先々代の店主である祖母(当時の村長)が大好きだった、つまりはお婆ちゃんっ子だったらしい。

だが店主がまだ9歳の頃、祖母は異端審問官に連れて行かれ、そのまま帰ってこなかったのだとか。


「まぁ、昔のことだ。もう忘れちまったがな」


ガッハッハ、と辛気臭い空気を一掃する店主。

だが、目が多少潤んでいるのは気のせいか。


「そう、ですか。ありがとうございます」


「おう!気にするな!」


気にするな、それはどういう意味だったのだろう。

店主の言葉が耳に残るワルツだった。




こうして、工房に戻ってきた。

とはいえ、家の中ではなく、工房の庭だ。


そこには2()0()人の女性達がいた。

牢屋から開放されたからなのか、一様に顔が明るい。


だが一方で、ワルツの顔は優れなかった。


(やっぱり、20・・・きっと、狩人さんが数え間違えたのね)


と方付ける。

そうでなければ、幽霊か何かだろうか。

分からないことは悩んでいても仕方がない、と頭の中の雑念を払い、女性たちに向かって声を上げた。


「皆さん!聞いて下さい!」


その声に一斉に皆の視線がワルツの方を向く。

中でも、ワルツと同じ牢に居た2名の女性が、満面の笑みを浮かべていた。

そんな2人に、同じように笑みを送り返すワルツ。


そして、言葉を続ける。


「とりあえず、皆さん、お疲れ様でした。本当は、直ぐにでも元居た場所にお返ししたいのですが・・・皆さんの身の安全を考えると、(ほとぼ)りが冷めるまではこの村でジッとしていた方がいいのではないかと思うのですが・・・」


急に歯切れの悪くなるワルツ。


「・・・それは、どのくらいの期間でしょうか?」


20代前半くらいの女性が疑問の声を上げた。


「そうですね。とりあえず5年というところでしょうか」


「5年・・・」


本当は、知人にすら顔を忘れられるレベルになるまで、10年やそれ以上の時間を隠れて過ごすべきである。

だが、捉えられた彼女達の中には、まだ若い年頃の女性も多くいた。

さすがに、そんな彼女達を小さな村の中に十年以上も閉じ込めておくというのは、酷な話ではないだろうか。


故に、短くもなく長くもない5年という時間を提示したのだ。


だが、人にとっては思いの外、長い時間である。

ワルツ自身もそれを十分に承知していた。


「もちろん、直ちに戻っていただいても構いません。ですが、二度と捕まる可能性が無い人だけにしてください。次、捕まっても、助けることは出来ないので」


その言葉に深く考えこむ女性達。


「あと、手紙を出してもらっても結構です。でも、この村の名前と、場所は伏せるようにして下さい」


考え込んでいた女性の半数が、その言葉に安堵したようだ。


「では、まず直ちに帰りたい人は・・・」


と、ワルツは目の前の女性達を希望別に分けていった。


まず、直ちに帰りたい者。

これは4人いた。

恋人を待たせていたり、家に小さな子どもを待たせている者達である。

尤も、子どもを待たせている女性に関しては、相談の上、アルクの村に子どもを連れてくる事になった。

移動にはルシアの転移魔法を活用することになるだろう。


問題は、恋人を待たせている女性だ。

彼女達には次の商隊に便乗して元の村や町に返ってもらうことにした。

そもそも、引き止めたとしても、彼女達をここに繋ぎ止める物は何もないのだ。

大人しく村にいるより、勝手に抜け出す可能性の方が高いだろう。

要は、恋は盲目、というやつである。

ならば、多少の危険はあるかも知れないが、早々に返ってもらった方が彼女達のためではないだろうか。


・・・ワルツにとっては、彼女達が失恋した時に、その理由の矛先を自分の方に向けられるのが嫌なだけだったが。

もちろん、リア充爆発しろ!、とは思っていない・・・はずだ。


というわけで、旅路の準備と路銀の提供はするものの、この村から離れた時点で保護の対象外とすることになった。


次は、5年後にこの村から旅立つの者達である。

これには8人の女性が願い出たが、親や兄弟、独り立ちした子どものことなど、家族の心配をしている者が多いようだ。

彼女らに関しては、酒場の店主(村長)と相談の上、ホームステイという形で、村に滞在してもらうことになった。


そして最後は、この村に永住したいという者達だ。

残りの8人がこれに該当するのだが、そこには、ワルツと相部屋(牢屋)だった2人と、狩人がヘルチェリーの汁(まみ)れにした老女も含まれていた。


「貴女達、本当にいいの?」


8人に確認を取るワルツ。


「はい、私は戻る家も両親も既に無いので構いません」


「私もです」


といった様子で、皆、故郷に未練は無いらしい。


「そう・・・」


村への永住を決めた8人には、空いている家が割り当てられた。

もちろん、1人1軒ではなく、3人で1軒である。


内、2名はワルツ達の工房に住みたいと言い出したのだが、誰、と言わなくてもいいだろう。

結局、寝る場所がないなどの理由で断ったのだが、偶然、隣の家が開いていたこともあって、そこに済むことになったようだ。

彼女達だけ2人で1軒だが、人数的に割り切れないのでやむを得ないだろう。


これからはワルツにもご近所付き合いが必要になりそうだ。


こうして、村の人口が急増したのであった。

随分と女性の人口が高い村であるが。




だが、このことが、村の運命を大きく変えていくとは、誰も思わなかった。

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