9.2-07 世界樹7
そして皆が、それぞれの役割をこなすために、闇に包まれていた夜のライスの町や、世界樹の元へと繰り出した。
そんな中——
「(みんな行っちゃったわね……。私は……何をすれば良いんだろ……)」
——コルテックス経由で皆に指示を与えたワルツは、自分自身の役割について、頭を抱えていたようである。どうやら、彼女自身は、やることが決まっていなかったらしい。
そんな彼女に対し、同じ部屋の中に残っていた最後の人物(?)が問いかけた。
『お姉様は調査に行かないのですか〜?』
皆に指示を出した後で、しかし誰にもついて行かず、ワルツ同様、来賓室に残っていたマクロファージ——コルテックスである。彼女は世界樹の調査に前向きだったはずだが、何か理由があるのか、皆には付いて行かなかったようだ。
「そういえば、貴女もいたのよね。いやさ?私は何をすればいいかなって、すっごく悩んでるのよ……」
『なるほどなるほど〜……。つまりお姉様は、虎視眈々とサボる機会を狙っていた、というわけですね〜?人の風上にも置けませんね〜』
「サボるかどうかは別としても、人の風上になんて、間違っても立たないわよ……。そもそもからして、人間じゃないし……」
そう言って、溜息を吐いて、その場から立ち去ろうとするワルツ。そんな彼女は、本当にサボろうとしていたわけではなく、一人だけで行動するつもりでいたようだ。
すると、その様子を見たコルテックスが、不意にこんなことを口にした。
『どうです〜?お姉様〜。たまには一緒にお散歩など〜』
「急に散歩とか……気持ち悪いわね?何かヤバいことでもあったの?」
『いえ、簡単な話です。……私もどう行動して良いものかと考えあぐねていたのですよ〜。本当は、イブちゃんたちと一緒に行こうと思っていたのですが、ついつい行きそびれてしまいまして〜。それで、たまにはお姉様と一緒に調査に出かけるというのも良いかと思ったのですよ〜』
「やっぱり暇なのね?」
『いえいえ、暇ではないですよ〜?限られた時間をどうやって効率よく使うか、それを考えての結果だと捉えてもらえると助かります。ほら〜、今の時間は、本来、寝ているはずの時間ではないですか〜?』
「そういえば、貴女、寝るのよね……」
と、コルテックスが、元人間であるテレサを除いたホムンクルスたちの中で、唯一睡眠を必要とする存在だったことを思い出すワルツ。コルテックスを作った当初、ワルツはその原因を調査しようとしていたようだが、面倒になったのか、今では調査する気も失せていたようである。そのため、コルテックスが睡眠を必要とする原因は、未だ分かっていない。
『明日は今夜起きていた分の昼寝するとして〜……それでどうします〜?行きますか〜?行きませんか〜?それともサボりますか〜?』
「行くって……もしも一緒に行くっていうなら、どこに行くつもり?」
『そうですね〜。探検したいので、やはり、世界樹の中でしょうか〜?』
「世界樹の中ねぇ……。虫食いの跡しか無いと思うけど?」
『じゃぁ、世界樹の上ですかね〜?』
「それは……」
そこまで言って言葉を止め……。そして、納得するかのように、何度か頷くような素振りを見せるワルツ。どうやら彼女は、コルテックスの提案について、悪くない、と考えているようだ。
『……お姉様も興味が湧きましたか〜?あの世界樹の上に何があるのか、どこにつながっているのか、何があるのか〜……すっごく気になりますよね〜?』
「気にならない、っていうのは嘘ね。だけどさすがに、私たちだけで行くわけにはいかないでしょ。行くならルシアたちも連れて行きたいし……」
『では〜……やはり、世界樹の中の調査ですかね〜。先ほどのユリアの話を聞いた感じですと、世界樹の”根”には調査をしに行ったようですが、幹本体の調査はやっていない感じでしたし〜』
「……そうね。他の人たちのところに行っても、見てるだけで特にやること無さそうだし……じゃぁ、私たちは私たちで、世界樹本体の調査に行きましょうか。まぁ、多分、虫しかいないと思うけどね」
『では、世界樹に穴を開けて、中を観察してきましょう。ついでにトンネルを作って、迷宮化するというのも手かも知れませんよ〜?』
「それ、虫とやってること、同じじゃん……」
そう言いつつ、小さく溜息を吐くワルツ。そんな彼女の表情に、少しだけ嬉しそうな色が見えていたのは、コルテックスと共に行動することが嬉しかったのか、それとも世界樹の中に迷宮のような穴を開けることに前向きだったためか……。
ともあれ。
こうしてワルツとコルテックスは、亀裂の入った世界樹本体の調査へと向かうことになったのである。




