表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1035/3387

9.2-04 世界樹4

 テレサが話し終わった直後のこと。

 不意にユリアが——


「……あ!」


——と声を上げた。


「……何?”い”って言って欲しいの?」


「”い”?いえ、違いますけど……」


「あ、そう……うん。で、何?」


「そこで寝てるダリアから、さっきこんなものを貰ったんですよ」ブゥン


 そう言って、自身のアイテムボックスから、ゴマよりも小さな粒を手のひらの上に出すユリア。


「……種?」


「はい。虫除けの効果がある植物の種らしいです」


 と、ユリアが種の説明をすると……。それを聞いたテレサが、ユリアの言葉を補足する。


「おそらくじゃが、植物自体に虫除けの効果は無いのじゃ。そんなことをすれば、その花自体、虫を使った花粉の授受ができなくなるゆえ、淘汰されてしまうはずじゃからのう。じゃから、虫除けの効果があるのは、花自体ではなく、花のエキスの方なのじゃ?」


「確かに……言われてみれば、虫を避けちゃったら、花粉のやり取りができなくなっちゃいますよね……」


 といって、納得げな表情を浮かべるユリア。そのほかの者たちも、彼女と同じような表情を見せていたのは、皆が似たような事を考えた結果か。


「つまり……除虫菊のような植物ってことね?」


「除虫菊については知識としてしか教わっていませんし、花を直接見たことも無いですけど、ダリアの話を聞く限りおそらく似たようなものではないかと思います」


「ふーん……。まぁ、取りあえず貰っておくわ?」


 ワルツはそう言ってユリアの手のひらの上から植物の種を受け取ると——


「——カタリナ?」


——とだけ口にして、種をカタリナへと差し出した。

 すると、ワルツが何を言わんとしていたのかを察して、カタリナが確認する。


「これを育てれば良いんですね?」


「えぇ。ミッドエデンに戻ってピレトリン系の殺虫剤を取ってきても良いんだけど、ちょっとそれって、どうかと思うのよね。言ってしまえば、人の国に殺虫剤をバラ撒くようなものだし……。それを考えると、もしもやるなら、この国にあるモノだけで、どうにかすべきだと思わない?」


「……分かりました。では、この種、急いで育てちゃいますね?……ルシアちゃん?」


「うん、いいよ?マナを作れば良いんでしょ?」


「はい。お願いします」


 そう言って、自身の作業に協力的なルシアに対し、笑みを向けるカタリナ。


 その様子を見て、約1名が、納得できなさそうな表情を見せていたようである。


「おかしいのう……。どうしてルシア嬢は、妾とカタリナ殿とで、そんなに扱いが違うのじゃろうか……(妾とカタリナ殿とで、年齢は殆ど変わらぬのに……)」


「それはもちろん……テレサちゃんだからだよ?」


 そう言って、ニヤリとした笑みをテレサへと向けるルシア。

 それから彼女は、カタリナと共に、部屋の外へと出て行った。おそらくは、再びマナを作るべく、大きく開けた場所のあるこの城の鍛錬場へと向かったのだろう。


「さてと……。じゃぁ、次の話。テレサたちの方の木酢液の生産量は、最大でどんな感じなの?」


「そうじゃのう……5L/hくらいかの?」


「思ったより、多いわね……」


「大量生産するために、わざわざ乾留・蒸留システムを、ランディー殿の酒屋に作ったくらいじゃからのう」


「それ、ちょっと、やり過ぎなんじゃない?」じとぉ


「まぁ、酒屋じゃから良いのではなかろうかの?”ぶらんでー”の製造にも使えるのじゃ?」


「あんまり、技術をバラ撒くようなことしちゃ、ダメよ?”技術”も”力”も使いようを間違えると、自分の身を滅ぼすことになるんだから」


「うむ」


 ワルツのその指摘に対し、余計な事は言わず、ただ素直に頷くテレサ。どうやら彼女も、ワルツの懸念については、よく理解していたようだ。


「それじゃあ、木酢液は、作ろうと思えば、いつでも沢山作れる、って事ね。じゃぁ……王城全体に木酢液をバラ撒きましょうか?」


「それは構わぬが……この辺一帯が、すっごく臭くなりそうなのじゃ」


「背に腹はなんとやら、ってやつじゃない?それでベガが助かるなら、皆、御の字でしょ。ちなみに、木酢液が”虫”たちに効くのは確認したのよね?」


「うむ。じゃが、低い濃度では、あまり効果が無かったのじゃ。50%以上の濃度では、かなりの効果があったがの?」


「ふーん。じゃぁ、この王城周辺の人たちには、明日の朝辺り、スモーク臭まみれになって貰いましょうか?」


「明日の朝までに木酢液を大量生産せよ、と申すのじゃな?」


「えぇ。ルシアとカタリナが除虫菊を作っている間、テレサは園芸用木酢液を生産して、それができたら、空を飛べる者たちが、王城全体に木酢液を散布する、って感じで。それでルシアたちの方で除虫菊が完成したら、次はそれを使って虫退治ね?」


 と、まずは王城から虫を遠ざける事を優先的に考え、指示を出していくワルツ。


 そして彼女は、最後に、こう口にする。


「で、他の人たちは、亀裂の入った世界樹の被害状況の確認ね?リーダーについては、勇者のところは勇者で良いけど、それ以外は……コルテックスかしら?」


 そう言って天井に向かって声を投げるワルツ。

 すると直後——


『は〜い?お呼びになりましたか〜?』


ボトッ


——天井から透明な物体がしみ出すようにして落下してくるのだが……。そんなマクロファージが、カレー臭かったのはおそらく気のせいに違いない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 1035/1831 ・カレーいいよねカレー。 [気になる点] L/h の h って1時間って意味ですよね(確認) [一言] 今更ですが『マクロファージ』って元は白血球の一種ですよね。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ