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9.2-01 世界樹1

 強制終了状態になったパーティー会場から、食事だけをちゃっかりと来賓室に持ち帰って、そこでこれからのことについて話し会おうとしていたミッドエデンの者たち。


 そんな中、およそ2名の者たちが、どこか心配そうな表情を、ワルツへと向けていたようである。


「……何?私の顔に、何か付いてる?」


 2人の視線と表情に気づいて、事情を問いかけるワルツ。

 すると、その2人——イブとローズマリーは、その表情のまま、それぞれ口を開いてこう言った。


「……ワルツ様?明日の朝になったら、次はボレアスに行くかもなんだよね?」


「ということは……あの大きな木のことは、放っておくですか?」


「……2人とも、世界樹のことが心配?」


「「うん……」」


 そう言って顔を伏せる2人。どうやら彼女たちは、アルボローザの者たちの粗暴な振る舞いに激怒したワルツが、世界樹のことを見捨てて、この地を離れようとしている、と懸念していたようだ。


「でもねぇ……ボレアスのことも放っておく訳にもいかないしね……。もしかしたら、大変な事になるかも知れないし……」


 アルボローザのことだけで無く、ボレアスの事についても忘れて欲しくなかったワルツが、そう口にすると——


「「?!」」


——イブとローズマリーは、眼を大きく見開いて、今にも泣きそうな表情を浮かべ始めた。ボレアスに向かえば世界樹がダメになり、世界樹にかまければボレアスで被害が広がってしまう……。そのどちらを選んでも、犠牲者が出てしまうのは確実で、それを選ぶことは、幼い2人には難しい話だったようだ。


「……ごめん。今の話は無しで……」


 その様子を見たワルツは、自身の言葉を訂正して、改めて言い直した。


「とりあえずだけど、ボレアス側の状況を確認して、大丈夫そうだったら、もう少しここに留まろうと思うのよ。それでいいかしら?」


「じゃぁ……」


「……まだいるですか?」


「確認して、大丈夫そうだったらね?」


 そう言ってその場にいたユリアに対し、視線を向けるワルツ。


 するとそこには、どういうわけか、従姉妹のダリアの後ろに回って彼女のことを羽交い締めにし、そして、その口に手を当てて、話ができないように拘束しているユリアの姿が……。


「……ユリアたち、何やってんの?」


「あ、すみません。ワルツ様にはまだ紹介していませんでしたが、この人、私の従姉妹のダリアと言います。この国にスパイとして潜り込んでいたんですけど、気づいたらここまで来ちゃってまして……」


「もがぁぁぁ?!」


「ふーん。何か忙しそうだから……じゃぁ私の方で、シルビアたちに連絡してみるわ?」


「……申し訳ありません。……もう!ダリアが余計な事しようとするから、こんなことになるのよ?」グググググ


「もがっ!もがっ!(ギブッ!ギブッ!)」ガクガク


 どうやらダリアは、ワルツの前に跪いて、挨拶をしようとしていたようである。しかし、その場で交わされていた話の内容の重要性を考えたユリアが、話を中断させないよう、ダリアを押さえ込んで彼女の挨拶を阻止しようとしていたらしい。ちなみに、ダリアはまもなくして、顔を青くし、痙攣を始めるのだが……。その理由については不明、とだけ言っておこう。


 そんな2人の事を横目に見ながら、ワルツは無線通信システムを起動すると、アルボローザ王国とボレアス帝国の国境沿いにある町、ウェスペル(夢魔族(むまぞく)たちの町)にいるシルビアたちに対し、電波を飛ばし始めた。


『聞こえるかしらー?シルビアとリサ?』


 するとまもなくして——


『よく聞こえております、ワルツ様。……ちょっ!新入りちゃん!今、私が会話してるでしょ!』


『私にも会話させて下さい!たまにはユリアお姉様の声が聞きたいんです!』


『いや、だから、先輩じゃ無くて、ワルツ様と会話してるんだって……』


——と、騒がしい2人の声が聞こえてくる。


『……話を聞く限りだと平和そうね。あれから何か変わったこととか無い?』


『そうですね……この町の東にあるザパトの町近郊で、エクレリアの者たちと、ボレアスの兵士たちとの間で大規模な戦闘が起こったようです。でも結局、”例の者たち”の活躍で、10分足らずで終わったみたいですけどね』


『……どっちが勝ったの?』


『愚問ですね』


『……そう。ザパトが負けたのね』


 そんなワルツの言葉を聞いて——


「「「『えっ……』」」」


——と、声が重なるその場の者たちと、電波の向こう側にいるシルビア。


 だが、どうやら、ワルツのその認識は勘違いだったようである。


『いえ、逆ですよ。分かってて言ってますよね?』


『……まぁ、半分ね』


『元々、”彼ら”が何者なのかを考えれば、負けるわけが無いではないですか』


『いや、”彼ら”の武器って、ただの剣じゃない?どう考えたって、銃とか戦車とかで武装してる相手に戦えるとは思えないんだけど……』


『そこは、色々工夫してるみたいですよ?落とし穴を作ってみたりとか、武器を鹵獲したりとか……』


『そう……』


 と、ボレアス全土にいるだろう”彼ら”のことを慮るワルツ。

 そんな彼女が何を言わんとしていたのか察したのか、シルビアが問いかけた。


『もしかして……こっちに来るのが遅れそうな感じですか?』


『えぇ。ちょっとこっちも大変なことになっててね……。もうしばらく、こっちに居ても大丈夫かしら?』


『あんまり放置しないで下さいよ?エクレリア側の者たちって、倒しても倒しても、何度でも蘇ってくるので、あっち側の戦力は一向に減らないんですから』


『えぇ。そんな長くは待たせないつもりよ?じゃぁ、戻る日が決まったら、また連絡するわ』


 そう言って、無線通信を終えるワルツ。


 そして彼女は目の前の者たちへと、再び視線を向け直すのだが……。そこでイブたち年少組が泣きそうな表情を浮かべたり、ユリアが崩れ落ちたりしていたのは、無線通信の会話がワルツの声しか聞こえなかったせいか——あるいはダリアが泡を吹いて倒れていたせいか……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 1032/1830 ・いつものグダグダで安心します。 [一言] 書いた後で見直してみると、自分小説が問題作のような気がしてならない(げっそり)
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