表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/3387

4前-11 事後処理?

結局、ワルツ達は逃げることにした。

だが、直ぐには逃げなかった。

なぜか?


「ねぇ、カタリナが付けていたバングルって、預けたままだよね?」


「そうですね」


返事はカタリナではなく、アイテムボックスを管理しているテンポから帰ってきた。


「じゃぁ、返して貰いましょ」


ワルツはそう言うと、教会の中にいた者を全員、重力制御で捕まえて目の前に引きずりだした。

内、一般市民と思わしき者達には、教会の外に(重力制御で)ご足労願い、聖職者だけを目の前に並ばせる。

流石に王都の教会ということもあって、神父や修道女、そして巫女(?)が合わせて100人以上いた。


『ぎゃぁー!!』

『何をする、ぅわー!』

『あぁ、神よ・・・』


皆、口々に言いたいことを言っているが、中にはワルツのことを神と崇める者もいるようだ。

そんな者達の存在を意図的に無視して、ワルツは声を上げる。


「はーい、みんなちゅーもーく!」


最早声ではない、爆音である。

おそらく、王都中の住民が注目したことだろう。

尤も、壁に阻まれて見えないが。


その場に居た者達全員が耳を押さえた。

もちろん、仲間達も例外ではない。


あっ、拙い、とジャパニーズチョップスタイルで仲間に詫びを入れるワルツ。


(ごめん!)


すると、カタリナが耳を抑えたまま会釈した。

どうやら、通じたようだ。


「じゃぁ、」


ワルツが目の前の聖職者に告げる。


「私達の荷物がどこにあるか知ってる人、挙手!」


「何を言ってるんだ貴様!調子にグェ・・・」


顔がデコボコした男性が奇声を上げて地面の這いつくばった。

うるさい者はブラックアウトに限るわね、と反抗的な男性に対して7G程度の重力をかけた結果である。

ところで、男性は随分と酷い皮膚病を患っているようだ。

虫刺されだろうか。

なんとなく身に覚えのあるワルツ。


しばらく待っていると、


「・・・わ、私が持って・・・きます!」


(ども)りながら、フードを被った巫女が答えた。


『えっ・・・?!』


数名から、驚愕の声が上がった。

一体、何に驚いたというのか。

疑問に思って、周囲の様子を伺ってみたが、結局理由は分からなかった。


「うん、お願い」


ワルツが答えると、巫女は教会の中へと走っていった。




ところで、ワルツは人前に立って話す、というよりも人と話すことがあまり得意ではない。


目の前に聖職者を集めた。

そして、自分たちの荷物を取りに行かせることにも成功した。

後は待つだけだが・・・


「・・・」


皆、無言である。


(何か話さなきゃ・・・)


どうやら、ワルツは無言の空気に耐えられないらしい。


だが、目の前の人々は、言わば人質にも似た状況下にある。

そんな彼らとどんな会話をすればいいのか、ワルツには分からなかったのだ。

強盗なら、『金をだせ!』だろうか。

一瞬、言いかけたが、辛うじて思いとどまる。


戸惑いを悟らせないよう外見では凛々しい顔を浮かべたまま、ワルツは内心で冷や汗を掻いていた。


「付かぬことをお聞きしますが・・・」


と、高齢の男性が口を開いた。


「何でしょう?」


この無言の空気をどうにか出来るなら、誰とだって会話するわ!、と思いながら返事を返す。

もちろん、そんな素振りは見せない。


「貴女様は、女神様ではなかろうか?」


「ふぁ?」


思わず変な言葉が出てしまったワルツ。

老人の他にも、こちらに熱い視線を向けてくる者達がいる。


「い、いや、神さまではないわよ?」


「ですが、その白い髪とその眼の色は、正しく伝承通り・・・」


(・・・あ、なるほど・・・)


ワルツは二つの意味で納得した。


まず、姿をもとに戻すことを忘れていたことだ。

慌てて、元の姿に戻す。

尤も、今更ではあるが。


そして、仲間の方を振り向く。

すると、テンポ以外の皆がそれぞれ視線を合わせようとしない。

どうやら、知っていて言わなかったらしい。


(貴女達ぃぃぃぃ!!)


・・・とはいえ、何か害があったわけではない。

はぁ、と溜息を吐いて目の前の問題(老人)をどうにかすることにした。


「何度言われようとも、神さまの類ではないわよ?しがない錬金術士なんだから」


その言葉に納得したのか、しないのか。

老人は何故か深く頷いて後退していった。

ただ、どこか満足しているのが気になるところだ。


(っていうか、そもそも、私が神さまなら、なんで天使を遣って自分ことを攻撃しなきゃならないのよ!あ、神さまが2人以上居れば・・・って、そうじゃない!)


内心での葛藤(?)にげんなりするワルツ。

傍から見ると、『やれやれ、どうにか誤魔化せたか・・・』と溜息を吐いているように見えなくなかったが。


そんな彼女の態度に含みを感じたのか、余計に勘違いする人々が居たようだが、本人は気づいていなかった。


そこで、大事なことを思い出す。

天使のことだ。


「えっと、さっき私達と戦ってた天使っぽい人のこと知ってる人?」


すると、再び同じ老人が口を開いた。


「彼は、定期的にやってくる異端審問官です。彼らは普段、世界中を行脚しておるのですが、教会にやってきた時に、魔女裁判が開かれるのです。この教会に直接関係している者ではないので、儂共には彼の素性などは分からないですがのう」


「ちなみに、やってくる人は毎回同じなの?」


「いや、女性だったこともあったかのう」


(女性が魔女裁判をやる、ってどうなの?裁判は成り立つのかしら・・・)


ワルツの脳裏には、拷問器具を持った姉が、女王様のように他の者達を跪かせている光景が浮かんでいた。

まぁ、異世界なんだし何でもありよね、と考えを切り替えるワルツ。


・・・だが、やはり、次の話題が湧いてこないのだった。




結局、巫女が帰ってくるまでの間、無言の時間が続いた。


その間、ワルツは心の中で、


(ひつじが384匹、ひつじが385匹、ひつじが・・・)


と二足歩行する妙にダンディーな羊を思い浮かべながら、目の前の沈黙から逃避していたのだった。

傍から見ると、天使の話を聞いて思慮深く考えこんでいるように見えていたが・・・。


羊を512匹まで数えると、巫女が戻ってきた。


(切りが良い数字ね)


ロボットには分かりやすい数字だが、大半の人間にとっては半端な数字である。


それはさておき、何か袋のようなものを担いて走ってくる巫女を見て思うことがあった。


教会の中だから神父がいる、これは分かる。

修道女、これも分かる。


・・・だが、その中に、何故、赤と白の巫女服を着た女性が混ざっているのか。


(神の趣味かしら?)


そもそも、日本食と洋食が混在する世界である。

教会の中に巫女がいても、狛犬がいても、坊主がいても、おかしくはない。


(神父とお坊さんが同じ屋根の下に居る光景を見たくないけどね)


ワルツが、そんなことを考えていると、巫女が目の前までやってきた。


ところで、この巫女だけは、何故か白いフード(羽衣?)をかぶっている。

だが、顔を隠しているわけではないので、フードを被る意味は無いのではないだろうか。


間近で巫女の顔を見ると、自分よりも年下であることに気づく。


「これ・・・ですか?」


巫女の口の形と、声が一致していないことが吃っている原因のようだ。


まぁ、人には色々とあるものよねー、と気にした素振りを見せずに大人の対応をする。

そして、袋の中身を確認して、カタリナのバングルや、狩人のダガーが入っていることを確認した。


「うん、これでいいわ」


バングルが回収できたことに安堵する。

失っても作りなおせばいいが、見ず知らずの人にこのバングルが渡ってしまうと碌な事にはならないので、回収しておきたかったのだ。


「ありがとう」


「はいっ」


巫女はワルツの言葉に、頬を赤く染めた。

ワルツはそれに気づかなかったようだが。




ワルツは踵を返して、仲間達の方へ向かった。


「テンポ。これをお願い」


貰った袋ごと、テンポに渡す。


「分かりました」


最近、テンポとカタリナの口調が似てきているのか、一瞬、カタリナが答えたかと思ったワルツ。

声も似ているので、真似たら全く分からないのではないだろうか。


怪訝な顔をしていると、テンポから声が掛かる。


「何か?」


「いえ、なんでもないわ」


違いといえば、テンポの方がすこし冷たい感じがある位か。

まさか、似てるから口調を変えろ、などとは言えまい。


そんなことを考えていると、それは突然起こった。


ドゴォォォン!!


教会と王都を隔てる壁が突如として倒れたのだ。


「撃てぇ!!」


という掛け声と共に無数の魔法が飛んでくる。


どうやら、聖職者達とのやり取りに時間をかけすぎたらしい。

教会の周りを無数の騎士や衛兵、それに魔法使い達によって囲まれてしまったようだ。


「やっば、逃げましょう!」


()のように飛んできた魔法を、()のように重力制御で全て地面に落としながら、ワルツは仲間に呼びかけた。


「えぇと、どうします?飛んでいきます?歩いていきます?」


その言葉にワルツは考える。


5人いっぺんに、重力制御を使って飛ぶこともできるが、その姿を見られる可能性がある。

周りの人間が、ポンポンと空を飛んでいないところをみると、魔法では空を飛べないようなので、空を飛んで逃げるのは拙いだろう。


では、歩いて逃げることは可能だろうか。

相手は、屈強な騎士達。

こちらは女性ばかりで、10歳のルシアもいる。


(まず、ムリね)


まず間違いなく、乱戦になって厄介なことになりそうだ。


じゃぁ・・・、とワルツは切り出した。


「ルシア!転移魔法で、私以外を工房に送れる?」


工房、即ち、アルクの村だ。

人が見ている前で、アルクの村とは口にしない。


「分かった!」


「ちょい待ち!」


ワルツがルシアを止める。


「テンポ!食べ物を出して!」


石や土を食べたとはいえ、最低限のエネルギーしか補給していない。

このまま重力制御などを行使し続けると、ガス欠を起す恐れがあった。


「どうぞ」


非常食である串焼き(テンタクルボアと山菜の葱鮪(ねぎま))を20本ほど貰い、すかさず、2本を平らげる。


「じゃぁ、お願い」


緊急事態なので食べながら話した。


すると、ルシアは転移魔法を発動した。

だが、バングルを付けている効果なのか、周りの余計なものまで一緒に転移させてしまったようだ。


「くっ、逃すか!転移防止結界!」


前に聞いたことのある結界がワルツ達を包んだ。

だが、転移をする気のないワルツ達にとっては、どうでもいいことである。

6本目の串焼きを頬張りながら、ルシアに魔法を頼む。


「殺さない程度に、雷魔法で痺れさせてあげて」


「はいっ!」


気合の入ったルシアの声とともに、雷撃が騎士達を襲った。

雷撃といっても、天から落ちてくるものではない。

地面から騎士達に上がっていくというべきか。

要は、地面に足を付けていると、感電するのである。


『あばばばば!!』


どうやら、豪快に感電したようだ。

騎士達から煙が上がっているようだが、死んでいないだろう。

・・・恐らく、だが。


ついでに、近くにいた聖職者たちも感電して気を失ったようだ。

というより、かなり広範囲の人々も巻き沿いを受けたようだ。


つまり、この場に立っている者はワルツとルシアの2人だけ、ということである。

13本目の串を食べていたワルツの手が思わず止まる。


(やりすぎたかしら・・・ルシアの魔力を甘く見ていたわ・・・)


ふと、ルシアの腕にあるバングルに目をやった。


ルシア自身も、やり過ぎたことを悟ったらしい。

引きつった表情を浮かべていた。


「・・・ルシア?一応、回復魔法もお願い」


「うん・・・」


すると、王都全体を包み込む大回復魔法が発動した。


「これでよしっ!あっ、あと、ついでにすごく小さな雷魔法をかけてもらえる?」


念のための、除細動である。

もし、心臓発作を起こした者がいたとしても、回復魔法の後なので効果はあるだろう。


ルシアが手をかざすと、ビクン!、と痙攣する人々。

そしてワルツは、心臓が止まっている者がいないかどうかを生体反応センサーとレーダーで確かめた。


(とりあえずは一安心ね)


どうやら、皆、生きているようだ。


(集団ヒステリーで気絶したことにならないかしら・・・あ、そういえば)


地下に捉えられた魔女達(?)を思い出したワルツ。

檻を超重力でひしゃげさせ、中の女性たちを超重力で救出する。


女性は全部で20名だ。

どうやら、ルシアの魔法は地下にまで影響を及ぼさないらしく、気絶していた女性はいないようだ。


『きゃぁぁぁ!!』


急に、自分の身に異変が起これば、皆、そんな反応をするわよね・・・、と思いながらも、ルシアに転移魔法を頼む。


「ルシア?彼女達を工房の庭に転移できる?」


「え?いいの?」


工房の存在を隠蔽したかったのではないのか、という問いだ。


「町の外に転移させる、っていうことも考えたんだけど、服や食料、武器も無しに逃されても大変でしょ?」


「・・・うん、分かった」


どうやら、ルシアも納得したようだ。

転移魔法を使って、女性達を工房に送った。


ワルツはここで最後の串焼きを頬張り、飲み込んだ。


「さてと、じゃぁ、最後の仕上げね」


教会の中に残っている人間が居ないかを確認する。

どうやら、居ないようだ。

すると、ワルツの目が一時的に赤く光った。

その瞬間、


ガシャバキグシャ・・・


という音を立てて、半壊していた教会そのものが直径3m程度の球体に圧縮された。

ここまでやれば、ワルツ達や逃がした女性たちに関する情報は残されていないだろう。

あとは、目撃証言だけだが・・・致し方あるまい。


これで、魔女狩りの件は一件落着だろうか。


「さて、逃げましょうか!」


こうして、ワルツ達は4分の1の人々が気絶した王都から逃げ出すのだった。

それも、空を飛んでだ。

最早、逃げ出すワルツ達を見ているものが誰もいなかったのだ。




ところで、飛びながら、ワルツは考えていた。

神父と修道女、巫女、そして僧侶。

一体、どう違うのかしら・・・、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ