9.1-36 黒い虫36
それからメシエの挨拶が終わり、いよいよ本当の意味でのパーティーが始まった。
部屋の所々に配置された円卓の上には、所狭しとアルボローザ王国特有の料理が並べられていて……。皆でそれに舌鼓を打ちながら会話を楽しむ、という立食形式のパーティーだった。会場内には、オーケストラのように、様々な楽器を使って演奏する者たちがいて、優雅で落ち着いた雰囲気の曲を奏でていたようである。その曲に会わせて踊り始めた者がいたところを見ると、ダンスは誰かが仕切って始まるのではなく、勝手に始まるものだったようだ。尤も、アルボローザ側が、サクラとして用意した、執事とメイドである可能性は否定できないが。
そんな中で。メシエの紹介を受けた後、彼と共に壇上を降りた”施術師”は、早速、アルボローザの貴族たちに取り囲まれていたようである。おそらくは、アルボローザの者たちも、”施術師”に色々と聞きたいことがあったのだろう。すなわち——ベガの容態はどうなのか、と。
とはいえ。“施術師”が自らそれを口にすることはなかった。何しろ、彼の近くには、残った3人の四天王たちと、メシエが常に付き添って、彼らが上手い具合に立ち振る舞い、施術師へと誰も近づかないようエスコートしていたのである。おそらく、メシエとしては、施術師に余計な事を話して欲しくなかったのだろう。
……ただし。
その施術師本人の方は、なにやら、とある人物と会話をしたがっていたようだが。
「テレサちゃん……あの人、テレサちゃんのこと見てるよ?」
「いや、布で顔を覆っておるのじゃから、こっち見てる……っていうか妾を見てるとは限らぬじゃろ?」
「もう、テレサったら……。もっと自分に自信を持って下さいまし!」
「お主は、妾に一体何の自信を持てと申しておるのじゃ?というか、もしかしたら、お主らが見られてる可能性だってあるかもしれぬではないか?」
「それは……ねぇ?」
「えぇ……」
「「多分、無い(かなぁ)(ですわ)」」
「2人とも……最近、妙に仲が良いのう……」
まるで申し合わせたかのように、声を合わせて、自身のことを責め立ててくる(?)ルシアとベアトリクスに対し、テレサは色々と言いたかったことがあったようだが……。もはや諦めていたようで、彼女はそのまま何も言わずに、ただ深く溜息を吐いた。
ただ——
「……じゃが、確かに、こちらを向いておるのは、間違いなさそうじゃのう?」
「うん……話がしたいのかなぁ?」
「見た感じ、そんな雰囲気ですわよね……」
——誰のことを見ているのかは置いておくとしても、”施術師”がミッドエデンの者たちの方を意識していたのは、間違いなさそうだった。
その結果、3人(?)は悩み始める。
「どうする?こっちから行っちゃう?」
「そうですわね。せっかくの機会ですし……」
「……なら、妾は、ここで待っておるかのう」
「うん?何言ってるの?テレサちゃん。行くのはテレサちゃんだよ?」
「……は?」
「そうですわね。私たちのような有象無象が行っても、仕方ないと思いますし……」
「いや、お主。絶対、自分の事を、有象無象などとは思っておらぬじゃろ?っていうか、何故、妾が行かねばならぬのじゃ?」
「んー……いや別に、テレサちゃんが行く必要は無いと思うよ?まぁ、行きたくないなら、仕方ないよね……」
「そうですわね……」
「「…………」」じとぉ
「……お主ら。発言と表情が一致しておらぬのじゃ……」
まるで残念なモノを見るかのような視線を自身へと向けてくる2人を前に、眉を顰めるテレサ。
とはいえ、そこは一国の主(の一人)。
彼女は、小さく溜息を吐くと、2人に対してこう言った。
「しかたないのう……。では行ってくるのじゃ。じゃが……主らは、ミッドエデンの主を、そのまま見送る、というわけじゃな?まったく、躾のなっておらぬ”勇者候補”と”側室候補”じゃのう?主が行くというのに、それを後ろから見送るだけとは……恥ずかしいのう?」
「ぐっ……!」
「な、何を言っているのですの?テレサ。もちろん、私も行きますわよ?」
「ふむ。そういうところは嫌いではないのじゃ?ベアよ。……で?」
「もう、仕方ないなぁ……。じゃぁ、何かあったら、後ろから魔法を撃ってあげるから、ちゃんと避けてよね?避けなくても撃つから」
「……まぁよい。では、行くかの?」
そう言って、ミッドエデンの”勇者候補”と、”側室候補”(?)を連れて、まっすぐに施術師の方へと進んでいくテレサ。
そんな彼女たちが何者なのかを知らないアルボローザの者たちが、3人の所へフラフラと近づいてくるものの……。ルシアが展開している見えない”壁”から発せられていた魔力に気づいた途端、例外なく、皆が、後ずさっていったようだ。
それは、メシエや四天王たちも例外ではなかった。莫大な魔力を使い、重力の力場を操作し、しかし何と言うことはないという表情を浮かべながら、ルシアほか二名が自分たちに近づいてきたことに気づいて、彼らの表情は一斉に凍り付いてしまったようだ。
そんな彼らには、少女たち3人の事が、こう見えていたようだ。——目の前に、いつ爆発してもおかしくない爆弾のような存在が近づいてきた、と……。その恐怖は、ワルツが放つプレッシャーとは、また異なる種類の圧迫感だったに違いない。
そして、テレサたちは、その場からアルボローザの者たちを圧倒的な魔力で押しのけて、メシエたちの前に立ったのである。
もう少しで9.2章なのじゃ。
9.1章は諸事情により駄文が多かったのじゃが、9.2章では、急転直下な感じで行きたい……と思っておるが、結局、駄文で終わりそうな気しかしない今日この頃なのじゃ。
まぁ、試行錯誤はしてみようと思うがの。




