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4前-09 決着

自分の目の前の景色が真っ赤になっていくことに、カタリナは死を感じていた。


「(死ぬ瞬間って、痛くないのですね・・・)」


一体どこから出血したのだろう、と死ぬ間際だというのに、身体を(まさぐ)るカタリナ。

だが、身体のどこにも傷はなく出血はしていないようだ。


「?」


では、この血はどこから来たものなのか。

そんな疑問を浮かべていると、自分を取り押さえていた力が急に弱まるのを感じた。


「えっ?」


咄嗟に、自分の首元にあった刃を振り払い、天使から距離をとる。

そして振り返ると、天使の真っ白な服が、元の色が分からないほどに真っ赤に染まっていた。

原因は小さな杭だ。

天使の身体は、無数の杭のようなもので貫かれており、即死していても驚かないくらい傷だらけだった。


「・・・」


だが、天使は絶命していなかった。

苦悶の表情を浮かべているが、喉に刺さった杭のせいで声が発せられないのか、口をパクパクさせているだけで、声は聞こえない。

その他にも、手や足、太もも、肩、など、至る所に杭が刺さっており、身動きがとれなくなっているようだ。


そして・・・何もない場所から現れた金属質の腕が、天使の胴体を貫いていた。


天使は自分を貫いている腕を見て、困惑する。

どこからこんな物が現れたのか、と。


「ごめんねカタリナ。この天使だけは無事に帰すわけにはいかないの」


そんな声とともに、ワルツが天使の目の前に現れる。


カタリナは転移魔法かと思ったが、魔法を使った形跡は確認できなかった。

どうやら、ワルツの()()らしい。


では、どうやったのか?

ワルツは超重力を用いて、空間を歪ませ、実質の移動距離を短縮したのだ。

だが、どう頑張っても、ワルツにはそこまでが限界である。

空間を切り裂いて身体を転移させる方法があれば、そもそも、機動装甲の隠蔽に手間取ったりはしなかったので、この世界にも来ていなかっただろう。

ワルツもどれだけその能力に憧れたことか・・・。


それはさておき、ワルツはカタリナに告げた。


「貴方は、今まで助からなかった人も助けたいと言っていたけど、この天使に限っては、私が命を貰うわね」


『夢を叶えられない』というワルツのセリフに死を覚悟したカタリナだったが、どうやらカタリナを犠牲にして天使を倒すというわけではないようだ。

状況から判断したカタリナの早とちりだったらしい。


「(こんな天使なんて、どうなってもいいです)」


と思うカタリナ。


一方、その言葉を聞いた天使は、流石に命の危険を感じたのか、ワルツに向かって至近距離からのビームを発射した。


だが、


スッ・・・


そこには何もなかったかのように、ワルツを光線が貫通していく。

すると、クスッと笑うワルツ。


普段とは違い、黒い髪、黒い瞳で暗い格好だ。

その上、笑みを浮かべるワルツは、どう見ても魔に属する『何か』にしか見えなかった。

そんなワルツの姿に、鳥肌が立つカタリナ。


そしてワルツは、いよいよ余裕が無くなり脂汗をかき始めた天使に告げる。


「天使さん。魔女裁判くらいならここまでしなかったと思うけど・・・仲間に手を出すというのは頂けないわね」


そう言って、目を細めるワルツ。


「じゃぁ、おやすみなさい」


そう言うと、天使の足の先端から天使が闇に飲み込まれていくのだった。




ワルツは、目の前の天使を生きて返すわけにはいかなかった。

仲間達がこれから無事に生きて帰るためには、必要な条件である。

おそらく、天使を逃してしまうと、どこまでも追いかけられるだろう。


それも、相手が一体だけならまだいい。

だが、天使は『私達』と言っていた。

つまり、最低でも、もう一人以上は天使が存在することになる。

そんな天使達に追いかけられて、仲間たちは無事に生活を過ごせるだろうか。


魔女狩りに対応するためとはいえ、天使に喧嘩を売ってしまったことに後悔するワルツ。

故に、今、ワルツにできることは、当面の脅威となりうる目の前の(天使)を処理することだった。


「じゃぁ、おやすみなさい」


天使に別れを告げる。


そして、ワルツはブーストされた反重力リアクタの重力制御を駆使して、天使の身体を分解し始める。

いや、正しくは分解ではない。

質量をエネルギーに変換し始めたのだ。


つまり、天使を構成する物質を超重力で圧縮し、ブラックホール化した上で、吸い込ませたのだ。

その際、ガンマ線などの有害なエネルギーが周囲に漏れ出すおそれがあるので、先ほどのように、重力制御で惑星外に放出する。

この間、天使はディメンションアンカーを全身に埋め込まれているので、身動きは全くとれなかった。


(流石に、身体をエネルギーに変換したら、復活は出来ないでしょ?)


昔映画で見た、バラバラに分解しても復活してくる敵キャラクターを思い出しながら、ワルツは力を行使する。


足、手、胴体、首と消えていく天使。

終いには、頭を消すところまで来たのだが・・・。


肺や声帯が失われているというのに、言葉を発する天使。

口が言葉を紡ぐように動く。


『私が死んでも、残りの者が・・・』


カタリナは脳内に直接語りかけてくる天使に、眉を潜めた。

所謂、死に際の捨て台詞だろうか。


だが、


「えっ?今、何か言った?」


ガーディアンであるワルツには聞こえなかったようだ。


ワルツの反応を見た天使が、『えっ?』という驚愕の表情を浮かべて、それから闇に飲まれ消えていった。

どうやら、悔いが残りそうである。




こうして、ワルツパーティーVS天使の戦いは終わった。


だが、ワルツを始めとしてメンバーたちには大問題が残っていた。


「か、カタリナ!テンポを・・・テンポをお願い!」


天使を倒して安堵しているのかと思いきや、切羽詰まった状況でテンポを診るようにカタリナに告げるワルツ。

確かにテンポは重症を負ったが、そこはホムンクルスである。

簡単には死なないので、そこまで急ぐ必要はないのだが・・・。


カタリナがワルツに問いかける。


「何かありました?」


この頃にはワルツの髪色も、元の金色に戻っており、先程までの妖艶な雰囲気は全く残っていなかった。


カタリナの質問に対してワルツが口を開く。


「う・・・うぅ・・・も、もうダメ・・・」


地面に膝を付けるワルツ。

その振る舞いに、まさか・・・、と思うカタリナ。


「お花摘みですか?」


「ち、ちがう・・・わ」


では、何なのか。

すると、


ぐぅぅぅぅぅ・・・


ワルツから轟音が鳴り響く。

ジェットエンジン?

反重力リアクター?

荷電粒子砲?

いや、違う。


腹の虫、だ。


「もうだめ、我慢できない!・・・ごめん、カタリナ、後は頼むわっ!」


すると、地面に転がっていた石や土を食べ始めた。


「えっ?!ちょっ!ワルツさん!」


まさかの展開に動揺するカタリナ。


そして、


「うっ・・・!!」


腹を抑えて地面に(うずくま)った。

どうやら、あまりの空腹に耐え切れなかったらしい。


ワルツは体内に縮退炉を内蔵している。

縮退炉の燃料、それは質量を持った何か、である。

質量を持っていたら、とりあえず何でもエネルギーに変換できるのだ。


そして、ワルツは天使との戦闘で大量のエネルギーを使っていた。

つまり、ワルツ体内に蓄積されていた食事(質量)を全て使い果たしてしまったのである。


体内の質量の備蓄が無くなるとどうなるのか?

それは至って簡単で、全機関が停止する。

人で言うなら、餓死だ。


つまり、機能のブーストは一歩間違えると、ワルツ自身の停止にも繋がるのである。


もちろん、外部からのエネルギー供給があれば息を吹き返すことも可能であるが、停止したワルツを再起動させるほどのエネルギーはこの世界には無いと言えるだろう。

なので、ガス欠状態に陥ったワルツは、何でもいいから食べる必要があったのだ。


だが、食物ではない物を口にするとどうなるのか。

エネルギーの供給としては、土でも石でも食べ物でも何でもいいのだが、食べ物以外を食べるとペナルティが発生する。

一言で言うなら、腹を壊したような腹痛に襲われるのである。


だが今回は、そんなことに構っていられるほど余裕が無かったのだ。

結果として、ワルツは地面に転がっているものを片っ端から口にし、そして腹痛に(もだ)えているというわけである。


「だ、大丈夫ですか?!」


カタリナは、突如として奇行に走ったワルツに声をかけた。


「だ・・・い・・・じょ・・・う・・・・・・ぶ」


どうやら大丈夫ではなさそうだ。

だが、本人が言っているのだ、問題はないだろう。


カタリナはそう判断して、テンポの修復に向かうのだった。




ちなみに、この世界に来た当初、ワルツはアミノ酸やタンパク質の組成を調べていたが、それは、食べ物として身体が認識できるかどうかを確かめていたのである。

食事の度に腹痛でダウンするなど、ワルツには耐えられなかったのだ。

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