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官職決定

 袁紹軍が鄴へと帰還した数日後、袁紹から新たな役職の任命があるということで、袁紹配下の主だった者たちが集められた。

 そうして集められた人々に袁紹から新たな官職が発表されていき、それぞれに喜びや落胆といったような思いを抱かせた。






 発表が終わってその場から離れた袁煕は、いそいで配下の者たちが集まっている場所へと向かった。


 しばらくして袁煕も配下たちの待つ場所へと到着し、八年前と比べて人数の増えた八人の配下たちと向かい合っていた。現在ここにいないのは、情報収集のために配下にした三十名程度の者たちである。その者たちは、情報収集のために各地へ散っていて、ここにはいない。それらの人々の代表として、田脩が参加しているだけである。


「皆の者、今日はよく集まってくれた」


 袁煕はまずそのように挨拶をしてから、先ほど行われた任命について報告した。


「さて、事前の通達の通りに先ほど私の父上から新たな官職が発表された。そこで、私は幽州刺史の職に就くようにと伝えられた」


 袁煕はまず初めに、自分たちにとって最も重要であろうことを伝えた。袁紹から幽州刺史にされたことによって、袁煕は袁紹の影響力が強くない土地で、ある程度自分のやりたいような統治をしていくことができるようになる。もちろん、ある程度は袁紹の方針に沿ったやり方はしなければならないだろう。それでも、細かい部分においては袁煕が自分のやり方をしていくことになり、自分の方法で領地を経営していくことになるのだ。


 このことを聞いた配下たちの反応は、様々である。

 荀彧と郭嘉の二人は、袁紹と会っていたからか当然のように受け止めている。また陳羣と杜襲、趙雲と田脩の四人は、多少驚いた様子を見せながらもしっかりと受け止めていた。その一方で尹牧と馮裕の二人は、やっと学問ばかりの日々から逃れられるとでも思ったのか、大いにほっとした様子を見せていた。


「ところで袁煕様、それ以外はどうなったのですか?」


 そうした中で、それぞれの反応を見ていた袁煕に対して荀彧が質問をした。


「そうだな、まずもう一つあった刺史の席である并州刺史には、袁家と血縁関係にある高幹が就いた。これも順当といえるだろうな。あとは監軍の位が無くなり、新たに三人の都督を置いてその三名に権力が分割された。そうして新たな都督となったのは郭図、淳于瓊じゅんうけい、逢紀の三人だ」


 袁煕がここまで言うと、荀彧、郭嘉、田脩、尹牧以外の者たちが疑問を感じたような反応をした。


「すみませんが袁煕様、そうすると沮授殿はどうなったのでしょうか?元々は沮授殿が監軍であったのに、三人の都督の中にすら含まれなていないようですが………。それに、このことを当然のように受け止めている者もいるようですし、もしや袁煕様が関わっているのですか?」


 疑問を感じた者たちの中から、代表して陳羣が袁煕に尋ねた。


「それについてもこれから話す。荀彧、郭嘉、田脩はすでに知っていたことだが、沮授が都督にもなっていない理由は、ここしばらく沮授の地位を下げるため郭嘉が動いていた結果だ。郭嘉に郭図や辛評へと近づいてもらい、こうなるように仕組んでおいたのだ。その結果、沮授は私とともに幽州へ行くことに決まったぞ」




 袁煕はそう言って、沮授が幽州へともに行くということを伝えた。それから袁煕は、沮授がともに行くことに驚いている何人かを無視して、それまで郭嘉がしてきた行動について説明をしていった。


 まず初めに、郭嘉には同郷という関係から郭図と辛評に近づいてもらった。そうしてある程度信頼を得られたところで、その二人の地位を高くするための助言をそれとなく伝えるようにしたのだ。その助言というのが、沮授の地位を下げさせることである。

 そのための具体的な方策としては、沮授に袁煕を助けさせるために幽州に行かせるというものであった。これを伝える前に、郭嘉は袁煕が幽州刺史となるであろうという話を郭図から聞き出していた。そこで、能力に不安のある袁煕を助けるための人材として、沮授が幽州に行くようにしてはどうかと話したのだ。

 ただし、元々は袁紹軍において重要な地位にあたる監軍であった沮授である。そう簡単には袁紹が手放したりはしないであろうことも予想できた。そこで、沮授には幽州で袁煕を助けるだけではなく、精強な騎馬隊を育成させるように進言してはどうか、ということを同時に伝えさせた。

 こうした背景には現在の袁紹軍の状況が関係していた。この時期、袁紹軍の主力は顔良がんりょう文醜ぶんしゅうであった。この少し前までは麴義がいたのだが、次第に自分の功績に驕るようになってしまい、数年前に袁紹によってその軍勢ごと滅ぼされてしまっていた。

 そうして一つの軍勢がなくなったことで、袁紹軍は多少なりとも弱体化をしていた。河北を統一したことによって兵の数は多かったのだが、質が下がってしまっていたのだ。

 そこで少しでもその状況を改善するための方法として、沮授に新しく精強な騎馬隊を育てさせようということである。そうやって沮授を幽州へと行かせる策を郭図や辛評に伝えて、沮授が袁煕の手の中に入るようにあらかじめ準備しておいたのだ。


 ただし、沮授が幽州へと行くことになった理由はそれだけではない。

 それ以外の理由は、沮授が曹操との対立の回避を進言して袁紹から疎まれていたこと、同時期に逢紀からも沮授に権力が集まりすぎているとの進言があったことなども挙げられる。

 そう言った理由も重なったことで、袁紹は沮授を幽州へと行かせることを決めたのだ。




「と、そうした経緯から沮授も幽州へと行くことになった。あと、騎馬隊を実際に率いるための武官として張郃も幽州へ一緒に行く。このことも知っておいてくれ」


 そうやって、幽州へともに行く人物がもう一人いるということが伝えられた。


 ここで張郃が幽州へ行くことになった理由は、沮授が育成する騎馬隊の指揮官として十分な能力を備えていたためである。また、その時点では袁紹軍の中でそれほど重要ではなかったこともある。そうしたことに加えて、郭図や辛評、逢紀といった人と疎遠であったことも理由であった。郭嘉から郭図や辛評に策を伝えた際に、必要な武官として名を挙げても二人に不都合がなかった。その上沮授と張郃は両方とも元は韓馥の配下であったため付き合いが長く、とくに仲が悪いというような事情もない。そのような面からもふさわしいであろう人選だとして、教えていたのだ。郭図と辛評がその策を袁紹に伝えた時にも立場や能力からして妥当な人選だと考えられたらしく、張郃の幽州行きも決まったのだ。


「張郃が幽州へ行くことになった理由はこんなところだ。多少は賭けの部分もあったがな。まあ、結果としては成功したし、今回はこれで良しとしよう」

「おめでとうございます、袁煕様。これで沮授殿と張郃殿を手元に置くことができましたね。ですが、田豊殿はどうするのですか?当初は彼も配下に加えることを考えられていたと聞いておりますが」


 袁煕が張郃についての経緯を話すと、再び陳羣から質問が来た。

 それに対して袁煕が答える前に、荀彧がその問いに返答した。


「それについてもすでに決めてありますよ。田豊殿は性格からして、いずれ失脚するであろうことが考えられます。そのため彼については時を待ち、一度失脚などをした後に配下に加えようと思うのです」

「そうなのですか、袁煕様?この荀彧殿の言は正しいのでしょうか?」

「ああ、その通りだ。したがって幽州には、ここにいる九人と沮授と張郃、あとは趙雲が鍛えている義勇兵たちと共に向かうことになる。とりあえずはそのつもりで準備をして、出立に向けて備えてくれ」


 そのように陳羣からの問いに答えた袁煕は、この先の幽州行きに備えるように配下の者たちに伝えた。

 その後も軽く話をしたのち、ばらばらに帰って行った。




 それから家に帰った袁煕は、妻である甄氏に軽く挨拶をしていた。


「お帰りなさいませ、旦那様。今日も一日お疲れ様でした」

「ああ、ただいま。今日はちょっと話があるからまとまった時間を作ってほしいんだけど、いつ頃なら大丈夫かな?」

「時間ですか。そうですね………夕飯の後にはとれると思いますけど、その時でもかまいませんか?」

「ああ、その時でいいよ。じゃあそういうことで頼むよ」


 袁煕がそう言うと、甄氏はその場から立ち去って袁煕の母の看病へと戻って行った。




 時間がたち夕食の後になると、袁煕から甄氏に幽州へ行くことが伝えられた。


「そういうわけだから、私はもうすぐ幽州へと行くんだ。その時に、お前にも一緒に幽州へとついて来てほしいと思ってる。大丈夫かな?」

「幽州ですか………そう言ってくれるのは嬉しいです。ですが、そうした場合にはお義母様の看病はどうするのですか?今のように私が看病することもできなくなりますから、誰かに頼まねばなりませんよ?」

「分かっているよ。そのことについてはちゃんと考えてるから心配しなくていい。だから、お前の気持ちを聞かせてくれないかな?」


 そう言われた甄氏は、少し考えさせてほしいと言ってそこから離れた。

 一人残された袁煕は、甄氏が一緒に来てくれるか不安に思いながら、これまでのことを後悔していた。


(どうだろう、一緒に来てくれるかな?できれば一緒に来てもらって、微妙な関係になってたのを修復したいけど………。はぁ、婚礼の直後はうまくいきそうだったのに、どうしてこうなったんだか。

 ………やっぱり、荀彧たちに会う際にこそこそしすぎたかな?たとえ嫁でも配下のことは言わないように決めてたけど、そのせいで女遊びなんかを疑われたみたいだったし、先に言っておけば………。いや、やっぱりそれは駄目か。だけど、そのせいで今はお互いに微妙な雰囲気になっちゃってるしな。こんな時代だから側室なんかは普通のことでも、それをどこまで許せるかなんてその人次第だし。

 とにかく、一緒に幽州へ来てくれればこれまでの行動の説明もできて、仲直りのきっかけを掴めると思うんだけどな。まったく、あんなきれいな嫁がいるのに仲良くやれてないっていうのはつらいな。………ここはこっちから動いてみようかな。)


 袁煕はそう考えると、家のどこかにいるであろう甄氏を探しに行った。

 そうして袁煕がしばらく歩いていくと、家の庭が見渡せる部屋で考え込んでいる甄氏を見つけたため、声をかけた。


「どう、考えはまとまったかな?」

「いいえ、まだ決めていませんが。どうしたのですか?」

「いや、私が幽州へ一緒に行ってもらいたいと本気で思っていることを信じてもらいたくて、話をしに来ただけだよ。ということなんだけど、話をしてもいいかな?」

「そうですか………はっきりと言うと、これまで私たち夫婦の仲はあまり良くなかったですよね?しかもここ数年は、私はお義母様の看病が中心となっていて、夫婦で話をする機会も減っていました。そのような状況であったのに、どうして一緒に行こうと思ったのか私が疑問に思っていたことは確かです。ですから、あなたの話を聞かせてほしいですね」


 そう言われた袁煕は、甄氏の厳しい言葉が正論であったため苦笑するしかなかった。

 そうして一呼吸おいてから、一緒に行こうと考えた理由を話し始めた。


「そう思った理由は、まあ率直に言うと夫婦の関係を直すきっかけにしようと思ったから、かな。今みたいな雰囲気になったことについての引け目もあったし。」


 袁煕は甄氏の目を見てそう答えた。そう言うことに対する恥ずかしさもあったが、一緒に来てもらうためには真剣に伝えた方が良いだろうと考えての行動であった。

 甄氏は冷静で、思慮深い女性である。そのため、家庭では常に夫より一歩下がった位置にいて、自分から義母の看病をするなど、常に周りに気を配っている。そのせいで袁煕の行動が不審に思われたのでもあるが、一人の妻として見たら文句のつけようがないほどの妻であった。

 甄氏は素晴らしい美貌を持つだけでなく、そのように人格の面でも良い人であった。そのため袁煕は、気持ちを正直に伝えることが最も適切な方法だろうと考えたのだ。


 その袁煕の言葉を聞いた甄氏は最初は驚いていたが、すぐにそれが本当かどうか探るように袁煕を観察しだした。

 甄氏から見た袁煕は普段は良い夫であるのだが、時々不審な行動をしているため、信頼することはできないという印象を抱いていた。だからこそ袁煕の言葉を疑問に思ったのであるが、その時の袁煕は心からその言葉を言っている様にしか見えなかった。


 甄氏はそれを見て、改めてどうするか考え始めた。






 甄氏は考え始めてしばらくすると、ようやく口を開いた。


「決めました、私も一緒に行くことにします。そして、できるのなら私たち夫婦の関係をもう一度やり直すことができるように、挑戦してみましょう」

「………そうか、ありがとう。改めて、これからよろしくな」


 甄氏から承諾の返事を聞いた袁煕は、腹の底からしぼり出したような声で、そう告げた。その一方で、心の中では非常に安心していた。

(ほんとに良かった。とにかく鄴から離れておいてくれないと、歴史の通りに曹家へ連れてかれるかもって心配することになるし。とりあえずこれでその心配はなくせたと思うから、今はこれで十分かな。)


 袁煕がそう考えて気を抜いていると、甄氏が今後の予定について尋ねてきた。


「こちらこそよろしくお願いしますね。それに、そうと決まれば準備が必要ですし、これから忙しくなりそうですね。………そうそう、幽州へ行くのはいつごろになるんでしょう?」

「ああ、私たちが出発するのは半月後くらいだと思う。それまでは、必要な物の準備や今までの後片付けなんかで慌ただしくなると思うが、よろしく頼む」

「任せてください、ちゃんと準備しておきますから。それと、お義母様の看病のことは任せても構わないのですよね?」

「本当に大丈夫だから。ちゃんと手配しておくから心配しなくて良いよ」


 そうして夫婦そろって幽州に行くことが決まると、出発までにしておかなければならないことについての話を始めた。短期間に多くのことをしなければならないことで夫婦間の会話が必然的に増加し、出立前の時点からだんだんと以前よりも二人の距離が縮まっていった。






 こうして甄氏も幽州へ行くことが決まってから数日後、今度は沮授と張郃の二人を今後の行動について話をするためと称して呼び出した。

 袁煕はその話し合いへと備えると、荀彧と田脩と共に二人が来るのを待っていた。


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