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婚約

「私の婚約が決まったのですか!?」

「その通りだ。将来お前の妻となるのはこの冀州で代々高官として勤めている家柄にある甄逸の末娘になる。相手の甄家はこの冀州においてかなりの名家であるからそのとのつながりを持つことにもつながり、それは袁家による冀州の支配をより盤石なものにすることにもなるのだ。相手の娘はまだ十歳かそこらのようだからお前が実際に婚礼を挙げるのはまだ先になるだろうが、婚約については決まったこととして公にするからな」


 これからの行動についての話し合いを終えて家に帰った袁煕は、父から呼び出されると袁煕の婚約が決まったという話を伝えられていた。


「分かりました。そのように把握しておきます」

「ああ、それと公孫瓉との大規模な衝突がいよいよ起こりそうだということも頭に入れておけ。今年中におこることはないだろうが、遅くとも来年の夏が来る前には戦争となるだろう。そのせいで忙しくなるだろうからそのつもりでいるように。分かったな?」

「はい、戦争があると覚悟しておきます。それで、私は戦争に赴くのでしょうか?」

「何を言っている、そんなわけがないであろう。恐らく初めは向こうが我々の領地へと攻め込んでくるはずだ。そうであれば補給の心配をする必要が少ないのに文官であるお前が戦争に関わるはずもないだろうが。お前が戦争に行くことがあるとすれば、我らの軍が相手領内に長期にわたり攻め込むようになってからだということくらい自分で考えつけるようにならんか」

「考えが及ばず、申し訳ございません。それでは、話は以上でしょうか?」

「その通りだ。もう下がっても良いぞ」

「ではこれで失礼いたします」


 その言葉を最後に一礼すると、袁煕は袁紹の前から下がっていき先ほど言われた言葉の意味について考え出した。


(全く、まだ十六だって言うのにもう婚約か。それにしても、これからの方針について決めて帰ったばかりで疲れてた所を呼び出されたかと思えば、いきなり婚約の話とはな。まあこの家に生まれた以上は恋愛結婚なんか期待してなかったけど、まさか一度も会ったことのない相手と婚約することになるっていうのにはまだ違和感があるな。まあ今更どうすることもできないんだけどさ。それに相手が甄氏ってことはやっぱりあの甄氏のことで合ってるのかな?まあ、同じ人だとしたら実際に会えばわかるだろ。今はこれ以上気にしてもどうしようもないし、とりあえずこのことはもういいや。あとは公孫瓉との戦争についてだけど、袁煕ってその間にあった戦争に出てたのかな?まあさっきの言われようからすると、戦争に行ったとしても後方の物資の管理くらいのことしかさせてもらえそうにないけど。それより、領地の境なんかでは今も小競り合いが続いてるみたいだけど、それがついに大規模なせんそうに発展するのか。確か最終的に公孫瓉が滅んだのが七~八年後くらいだったはずだから、その時期までは公孫瓉との戦争が続くはずだし、この流れのままいけばいいんだけど………あっ、そういえば曹操って荀彧がいないけど大丈夫かな?確か官渡の戦いの数年前までは袁紹と同盟を結んでて、曹操が中原で動いててくれたから袁紹は河北の統一に集中できたんだったわ。こんな大事なこと今まで忘れてるとか、ほんと何やってたんだろ。………仕方ない、荀彧と話して曹操が今のままで大丈夫かどうかの確認をしておくか。問題がないならいいんだけど、このままだと危ないようなら誰か人材を紹介するみたいな方法についても考えといたほうがいいのか?荀彧に相談しないと分からないけど、一応考えてはおくか。)


 先ほど袁紹から聞かされたことから始まり曹操を助けるために何か動く必要があるかどうかについてまでを考え終えた袁煕は、その日は精神的に疲れていたためにさっさと食事を取って寝ようと思ったため、すぐに食事を取りに向かった。

 袁家の人は各々で仕事が終わる時間にばらつきがあるために、家族のだれかと食事をすることが最近少なくなっていた袁煕であったが、その日は偶然にも兄である袁譚と一緒になったため、そのまま二人で食事をすることになった。


 そうして雑談しながら食事を進めていると、袁煕の婚約のことが話題になった。


「そういえばお前に婚約が決まったそうだな。まずはおめでとう、と言っておこう」

「ありがとうございます、兄上。しかし婚約が決まったとは言え、まだまだそれを実感することはできそうにないですね」

「今はまだ仕方なかろう。それについては時間で解決するしかないだろうし、あまり気にしない方がいいと思うぞ」

「確かに………。それもそうですね、今はそのことについて深く考えないようにします」


 袁煕はそう言って婚約について考えることをやめて、新たな話題へと話を移した。




 そうして二人で話を続けていると、不意に袁家の召使の一人が新しい飲み物を持ってきてくれた。


 するといきなりその時に話をしていた袁譚が話すのをやめて、そのまま召使が部屋を出ていくまで話を再開せずに黙っていた。


 向かいからそれを見ていた袁煕は、その様子に対して苦笑しながら袁譚に尋ねた。


「兄上、いまだに親しくない人と話すことが苦手なのですか?」

「………ああ、いまだに直せていない。ちゃんとした場などでは問題ないが、私的な状況の時にはいまだにうまく話せんのだ」

「できるだけ早く直した方がいいと思いますよ」

「私も分かっている。分かってはいるのだが………」


 そう言って黙り込む袁譚を見ていた袁煕は、肩を落とす袁譚に対してどうすることもできなかった。


(はぁ、兄上にこれさえなければ後継者争いはすんなり行ってたかもしれないって何度思ってきたか。これがあるせいで仲良くない袁紹軍の幹部の数が増えてるってことを理解してるのかね?人の意見を聞こうとするのはいいんだけど、人見知りでそれじゃあ親しい人の言葉しか聞かないってことになるだけだろうに。それだから後継者問題が出てくるんだし、そうしたら今度は逆に兄上の方も疎遠になっている幹部や弟に対して疑り深くなっていくもんだから、より溝が深くなっていく悪循環に陥ってるんだよな。結局は兄上に人見知りを直してもらうのが一番だったんだけど、父上が弟を溺愛してることからすでに和解できる可能性は零に等しくなってるし。今更直して何か変わることがあるか分からないけど、直せたらこの先少しは楽になりそうではあるからどうにかしてあげたいけど………)


 そう考えながら袁譚を見た袁煕ではあったのだが、いまだに落ち込んでいる姿を見て期待はできそうにないと考えにならざるを得なかった。




 その後は何とか袁譚を元気を戻させたのだが、それ以上話を続ていけるような雰囲気ではなくなっていたために、食事を終えるとそのまま休むために寝室へと向かった。その日はいろいろとあって精神的に疲れていたが、最後に微妙な空気で会話を終えたためになかなか寝付けなかった。

 それでもしばらく横になっているとやっと疲れの方が上回ってくれたのか、袁煕はようやく眠りにつくことができた。






 そのようなことがあってしばらくした後、荀彧に曹操の状況について尋ねて、その情勢が危ないようなら人材を紹介するなりして助けた方がいいのではないかと相談した。

 ところが荀彧によるとすでに曹操の下には何人かの優秀な人材がいるため、中原の抑えとしては問題ないだろうと言われてしまった。


 荀彧の話によると、曹操は独自に荀彧の知り合いの何人かにも声をかけて呼び寄せようとしているようだ。そのため人材は十分に集まっており、こちらから助けなくても大丈夫であろうとの言葉をくれたことで、このことについても安心することができた。

 ちなみに曹操の下に集まった人の中にどのような人物がいるのか聞いてみると、有名どころでは曹操の参謀として活躍した程昱などがいるようだ。


 とにかくこれで荀彧がいないために曹操が中原での争いに敗れ、袁紹の河北統一に支障をきたすという懸念はほとんど払拭されただろうと思った袁煕は、自分のするべき仕事に集中することができた。


 また、この時に自身の婚約のことについて話し、全く実感がないということを荀彧にこぼしたりもしたのだが、荀彧に至っては四歳のころにはすでに婚約が決まっていたと返されると、さすがに絶句してしまった。

 そのことで何か思うところがなかったか尋ねたが、昔からそういうものだと割り切っていたようで時間によって慣れるのが一番いいとの助言までもらうことができた。











 その後は特に語るようなことはなく年が明けていき、袁紹の勢力は長い間終わることがないであろう公孫瓉との戦いの日々へと向かって進んでいった。



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