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冀州牧

 袁紹の出陣から一年と少しの時間が過ぎて、袁紹を除く家族で久々の団らんをしていると、そこへ諸侯連合軍解散という情報がもたらされた。

 理由としては、董卓も洛陽から長安ちょうあんへと逃げてしまい倒せていないというのに内部分裂を起こし、崩壊してしまったことが原因のようだ。結成から一年と少しという早さで笑うこともできないような結果とともに、その報告が届いた。それを聞いた袁煕は、表情を変えることなく呆れていた。


(はぁ、全く理解できないな。いくら史実通りの展開とはいえ、どうやっても今回の出陣に意義とか感じれないわ。いい大人たちが寄り集って何をやってたんだか。予想できてたこととはいっても実際に報告受けるとなんともいえないな気分になるな。ま、あいつがそれなりに役に立ちそうだってことが分かったことだけが収穫かな。)


 今回のことについて、少なくとも袁煕は報告が来る前から解散したことを知っていた。

 それというのも、この一年の間になんとか見込みのありそうな数名の者を配下として見つけることができ、その中の一人からの報告によって事前に知らされていたからである。


(とにかくこれからはもっと忙しくなりそうだな。確か連合軍が解散したあたりから本格的に群雄割拠の時代に入っていくはずだし、袁紹軍の配下もかなり増えていくんだったっけ。まあ配下にできるか分からないけど最初に誘おうと思う人は決めてるし、それまでは地味に勢力拡大と行きますか。それにしても、ここから一気に家族関係が冷めていきそうなのは結構つらいな。これまではそれほどひどくなかったけど、こういう時代になっちゃうとな。覚悟はしてたけど両親は弟を溺愛して弟もそれに甘えてるし、兄は兄で後継者のことが不安になって来たのか疑り深くなってるし。どうにかもう少しくらいそういう感情を隠してくれないのかね。)


 周囲の人々が情報によって慌ただしくなる中で、袁煕は一人そんなことをのんきに考えているのであった。











「お帰りなさいませ父上。連合軍の総大将という大役のお勤め、ご苦労様にございます」

「うむ、たんも健勝そうで何よりだな」

「お帰りなさいませ父上。無事のお帰り、おめでとうございます」

「ああ、煕も健やかそうで何よりである」

「お帰りなさいませ父上。久々にお会いでき尚は嬉しいです」

「私もあえてうれしいぞ、しょうよ。私が戦争に行っておった間にけがや病気などにならなんだか?元気に過ごしておっかのか?」

「はい、何も問題なく健やかに過ごしておりました」

「そうかそうか、それは重畳であるな。これからも体には気を付けるのだぞ」

「分かりました」


 父の率いていた軍が戻ってくると残留組であった者たちからの挨拶があり、最初に袁紹の三人の息子たちから挨拶が始まった。配下の者たちの目もあるため今は大げさではなかったが、父である袁紹は袁煕の弟の袁尚を溺愛していた。史実では、袁尚が病気であったために軍事行動を取りやめるといった暴挙を行うほどの親ばかぶりを発揮していたが、この世界においてもその片鱗を見せていたのだ。

 そのような光景から無事の帰還への挨拶が始まり、それが一段落すると次は今後の行動方針についての話し合いに移っていった。


「さて、董卓も洛陽から逃げ出し連合軍も解散した今、われらはこれからどのように動くべきであるか意見のある者は居らぬか?」

「恐れながら、私から申し上げたきことがございます」

「おう、逢紀ほうきか。いいぞ、申してみよ」


(逢紀か。あいつは許攸きょゆうと共に洛陽から逃げ出した時に父に従ってきて以来の最古参の配下だったっけ。父からの評価はかなり高いし実際それなりには使えるみたいだけど、かなり自己中でうざいんだよな。ま、現状では実績も能力もこの中で頭一つ抜けてるし今回はうまくいくと思うけど、できれば早めにいなくなってほしいかなぁ。あの父がいる限りどうせ無理だろうとは思うんだけどね。)


 話し合いの中で自分の世界に入ってしまっていた袁煕を置いて、話は先へと進んでいた。


「ありがとうございます。さて、連合軍が解散し諸侯はそれぞれに力をつけていこうとするでしょう。われらもそれに遅れぬように勢力を拡大させることが肝要であるかと思われます」

「確かにな。それで、勢力を拡大する方策はあるのか?」

「もちろんございます。現在は渤海ぼっかいしかありませんが、これから先を乗り切っていくにはもっと支配地を拡大させることが大切となります。この渤海は冀州の一郡であり、冀州は豊かであり人も多く物資も豊富にございます。そこで、まずはこの冀州を領地とすることを目指されてはいかがでしょうか?」

「冀州か。……しかし現在冀州における州牧は韓馥かんふく殿だ。われらが冀州を支配するためには彼を倒さねばならんぞ。それに現在は向こうの方が軍事力においても勝っている。それを踏まえたうえでの方策も考えておるのか?」

「もちろんでございます。韓馥殿はひどく臆病な性格であると聞き及んでおります。なれば、策を用いながら現在韓馥殿が置かれている状況が不利だと見せかけ、そこを突けば簡単に落とせるだろうと考えております」

「なるほどのう。よし、それでいくとしよう」

「分かりました。では仔細を詰めていきたいと存じます。まずは………」


 こうして袁紹の勢力は休む間もなく次の行動へと、つまりは冀州攻略に向けて動き出していった。

 袁紹は手始めに軍の強化から取り組んだ。当時はまだ韓馥の側についていた麴義きくぎを率いていた軍ごと取り込み、独自の勢力として存在していた張楊ちょうようの勢力を吸収し、匈奴の単于となっていた於夫羅おふらを味方につけたりしながら、勢力の拡大を図った。

 同時に、幽州ゆうしゅうで勢力を拡大させ次第に冀州にも進出しようとしていた公孫瓉こうそんさんをうまく使い、だんだんと韓馥の不安を煽っていくことに成功する。


 そして機が熟すのに合わせ、韓馥の所に高幹こうかん郭図かくと荀諶じゅんしん張導ちょうどうの四名を送り韓馥を説き伏せさせて、冀州牧の地位を袁紹へと譲ることを了承させた。


 ちなみに作戦を聞いていなかった袁煕であったが、何の役割もなかったために問題などは全く生じていない。


 とにもかくにも、こうして袁紹は冀州牧となることに成功し、まずは名において冀州の領主となることに成功した。

 また韓馥の配下であった人々の多くもそのまま袁紹の配下に組み入れられ、人材を獲得することもおおむねうまくいっていた。中には抵抗を示す者もいたが、その者達は最近袁紹に使えはじめてその才覚を表し始めていた田豊でんほうによって暗殺されてしまっていた。そのため州牧の交代による混乱もすぐに鎮めることができ、次第に実においても冀州の領主となることに成功していた。






 そのようにして支配者の交代によって上層部が慌ただしくしている中、袁煕はというと配下にしていた者から待ち望んでいた情報が届けられていた。そのため、現在袁紹の勢力の主だった者が集まっている冀州の州都であるぎょうを離れ、一路南へと向かっていた。


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