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心の葛藤

更新が長らく止まってしまい、本当にすみません。


改めて、本日より不定期にはなりますが時々投稿をしていきたいと思います。

もしよろしければ読んでいただけたら幸いです。

 今日も目の前に新たな竹簡が積み上げられ、仕事が始まった。それを一瞥していつものように淡々と仕事をこなし始めてしばらくすると、前触れなく袁煕様が訪ねてきた。


「陳羣、頼みがあって来たんだが今は大丈夫か?」

「ええ、まだ取り掛かったばかりなので問題はないです。それにしても急に訪ねるなど何か問題でもあったのですか?」

「いや、そういうことではない。少し頼みたいことがあってな。と、その前に紹介しておきたい方がいるんだが入ってもらっても構わないか?」


 袁煕からそう聞かれ関係ない者に見られるとまずいものは置かれていないことを確認すると、問題ないと返事をした。それを聞いた袁煕様は、仕事場の外で待っていた人物を中へと招き入れた。


「こちらは治中従事として招いた田豫殿だ。まだこちらに着いたばかりで仕事のことなど分からないことも多いだろうから、しばらくは陳羣からいろいろと説明してもらいたいのだ。頼めるか?」

「分かりました、お受けいたします。私の方からここでの仕事について説明をいたしましょう」


 袁煕からの頼みをすぐさま受けた陳羣は、田豫の方へを向き直った。


「田豫殿、私は長史の陳羣と申します。どうかこれからよろしくお願いいたします。分からないこと等あればいつでも尋ねて下さって構いませんのでいつでも来て下さい」

「これはご丁寧に。私はこのたび治中従事に就くことになりました田豫と申します。来たばかりで迷惑を掛けることもあるかと思いますが、これからよろしくお願いいたします」


 そうして双方が簡単に挨拶し終わると、それを見ていた袁煕が断りを入れてきた。


「悪いがそろそろ次へと行かせてもらうぞ。他にも田豫殿に顔を見せておきたい人はいるからな。それと田豫殿が本格的に仕事を始めるのはおそらく明後日あたりからだろうからそのつもりでな」

「分かりました、そのように考えておきます」


 陳羣がそう返したのを聞いた袁煕は、それに軽くうなずいてから田豫と共に次に向かう所へと去っていった。二人が去ったことを確認した陳羣は、とりあえず自分が取り掛かろうとしていた竹簡を手に取りいつものように仕事を始めた。











 袁煕と田豫が訪ねてきたこと以外は普段どうりに仕事を終えて帰ろうとすると、偶然にもちょうど仕事を終えて帰ろうとしていた荀彧と出会ったため相談に乗ってもらいたいことがあると言って話しかけた。


「田豫殿の事ですか?」

「はい。袁煕様から田豫殿に仕事の説明を頼まれたのですが、どの程度の情報ならば与えても大丈夫なのかを計りかねていまして」

「特に気にする必要もないと思いますよ。田豫殿を招いた目的は先日袁煕様から言われたとおりなので情報を知られることに問題はないでしょうから。この先袁煕様から情報について何か言われることがあれば、そのことだけ気にしておけば良いと思いますがね」


 そのように荀彧から言われた陳羣は、表情を変えないようにして考え込んだ。

 それを見た荀彧は、陳羣の表情にかすかに表れている苦々しさを見て陳羣が何を考えているかを予測したのか、苦笑しながら話しかけてきた。


「田豫殿に情報を渡すことがそれほど心配かな?私としては中々面白そうなことをしていると思って今後の経過を楽しみにしているのだが」


 そう声を掛けられた陳羣は、一瞬だけ驚いた表情を見せた後ですぐにそれを消して困ったような表情を見せながら言葉を返した。


「私も田豫殿が来た今になって意見を言うつもりはありません。しかし、どうしても今回のやり方が良い方法であるとは思えないのです。確かに上手くいけば大きく力をつけることができるでしょうが、失敗した場合の危険が大きすぎるために不安でならないのです」

「確かに危険は大きいでしょうね。しかしながら、袁煕様は袁紹殿から任命されてこの地へと来ているのです。そのため現時点で彼らと敵対すれば袁紹殿と敵対することに繋がるのですから、少なくとも今は表立って敵対することはないでしょう。その後も袁紹殿と曹操殿との間に戦が始まり、曹操殿が勝った場合にのみ敵対する可能性があると思えばどうでしょうか?そう考えると不安に思う気持ちを少しは紛らわすことができると思いますよ」

「そのように考えると多少は不安が紛れますが、どうしても最悪の場合の事も考えてしまうのです。これは私のさがなのでしょう。」


 そこまで陳羣が言うと、荀彧は少し考えて違う方法を提案してきた。


「それでは方法については一先ず置いておくことにして、袁煕様を信じることで今回の策を、ひいては田豫殿を信じるというのはどうかな?」


 それを聞いた陳羣は、感情の面ではその考え方で納得できると思った一方、理性の面では当然ながら納得できないといった葛藤にかられた。


「確かにこの考え方では策が失敗しないという根拠は持てないでしょう。しかし、それでも袁煕様を信じる方が下手に不十分な根拠を並べて少しだけ不安を紛らわすよりも良いかもしれませんよ?それに、昔のあなたが背負っていた重荷を下ろしてくれた袁煕様のことであれば心から信じることもできるでしょうしね」


 そこまで荀彧の言葉を聞いた陳羣は、やっと自分の中で納得することができたのか軽く笑顔を浮かべながら荀彧に礼を言った。


「そうですね、すでに動き出しているというのにいつまでも悩んでいても仕方がありません。今日は相談に乗って下さってありがとうございます、荀彧様の言葉でようやく私も心の整理をつけることができました。今後の田豫殿への対応でも、袁煕様から言われたように何も隠すことなく説明していくことにしようと思います」

「そうですか、とにかく迷いをなくすことができたのは良かったですね。あなたがわだかまりを抱えたままだとうまくいったはずの事でもうまくいかなくなる可能性があるのです。そのことを自覚して田豫殿には誠意を持った対応を頼みますよ。まあ、今のあなたであれば大丈夫でしょうが」

「お任せください。田豫殿に失礼の無いように対応いたしますので。それでは私はこのあたりで失礼します。今日は本当に相談に乗っていただきありがとうございました」

「何か悩みがあればまた相談に乗りますから気軽に尋ねてください。それでは私もそろそろ帰ることにするので、今日の所は失礼します」

「お気をつけてお帰り下さい」


 陳羣はそういうとしばらくの間、荀彧が立ち去って行くのを見送った。


 そして荀彧が見えなくなると、改めて田豫へどのように説明していこうかと考えながら自らも帰路についた。


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