レモンキャンディ
これはイチゴキャンディの続編です。
これを読む前にイチゴキャンディを読んでくださった方が、より楽しめるかと思います。
あの時、俺は見た。
日の傾いて、影が長くのびる。
その影の先で。
勉強ばっかして、どうせプライドの高い奴らの集まる、最低な学校。
そこに転校する事になった哀れな俺の目の前で、その学校の生徒が、小さな子供たちとサッカーをしているのを。
その後、公園の掃除をし出したのを。
「ねぇ!そこの君!」
女がこちらの視線に気づき手招きする。
帰ろうかとも思ったが、なんとなく女の方に足をむけた。
「なに?」
「一緒にやる?」
「何を」
「掃除とサッカー。」
何を考えてるんだこいつ。
俺なんか誘う必要無いのに。
…馬鹿みたい。
「……やんない。」
「あそ。残念!」
「……じゃ、俺はこれで。」
「あ、君。これあげるよ、レモンキャンディ。」
でも、そう言って笑った女の顔が、頭から離れなかった。
学校を見学する日。
校長の配慮で、夏休みの補習中の学校を見させてくれる事になった。に興味の無い俺は、1人で大丈夫だと言って、案内の先生を振り払い、学校内を探索した。
そして屋上を見つけた。
空はキレイに青くて、雲がゆっくり流れてた。
太陽の傾きで出来た影に身をうずめて、俺はしばらく寝ていたんだと思う。
気付けば、影は無くなっていた。
真上にある太陽をかるく睨むと、暑くなった屋上を後にする。
階段をゆっくりと降りるていると、下からパタパタと足音がした。
俺は見つからないように、そっと下を伺った。
あの人だ。
後ろ姿を追って教室の前まできた。
鍵つけっぱなしだし…。
口角が上がるのがわかる。
おもむろに伸ばした手を鍵にかけ、机の中を漁るあの人を横目に抜き取った。
それから逃げた。
見える距離を保って、ずっと逃げた。
あの屋上へ行こう。
そう、ふと思った。
屋上につくと、俺は身を隠した。
どこから飛んできたのか、シーツがふわふわと舞っていた。
そのシーツがフェンスを越えた時、あの人が来た。
「おおおお落ちた!」
俺は腹を抱えて笑った。
今もまだ食い入るように見る彼女に声をかけた。
レモンキャンディのお返しに、イチゴキャンディを添えて。
「れん?」
ゆっくりと目を開ければ、そこにしぐれ先輩が覗き込むようにして立っていた。
「おね〜さん、パンツ見えるよ。」パッとスカートを抑えて俺を睨む先輩に声を殺して笑いながら、俺は体を起こした。
「で、何かよう?」
「何かようって…、れんが呼んだんでしょ。」
「そうだっけ?」
先輩は俺の横に腰掛けた。
放課後の中庭は人も少なく、クラブの声しか聞こえなかった。
「昔を思い出してた。」
「昔?」
「俺とおね〜さんの出会い。」
「屋上の?」
俺はただ首を振った。
この人忘れてんだよね。
レモンキャンディをくれた日を。
「ねぇ!そこの君!一緒にやる?掃除とサッカー。」
俺は先輩に言われたセリフを思い出しながら、教えてあげた。
ハッと、先輩が息を飲んだのがわかった。
「レモンキャンディ。」
俺はさらに続けた。
「わかった?」
「あ…。あん時の…。」
「普通わかるでしょ。」
ため息をついたら、先輩はにっこり笑った。
「れん、変わったね。」
俺が、変わった?
ここ何ヶ月で身長がそんな伸びたわけでもないし、顔も変わってないけど。
俺は怪訝な目を先輩にむける。
「出会った時は、つまんなそうな目してた。屋上の時はわくわくしてたし、今はすごく楽しそうな目してる。明るくなったね。」
それはたぶん、先輩が俺を変えたんだね。
相変わらずこの学校を好きにはなれないけど、それでも来れて良かったと思ってる。
それは先輩のおかげだから。
「おね〜さん、俺、あんたのこと好きみたい。」
「…しぐれとお呼び。」
ふんぞりかえった先輩を見て笑いながら、抱きしめて耳元で呟く。
「しぐれ、好きだよ。」
「それ、反則だよ…。」
顔を真っ赤にしてるしぐれを見て、また笑いがこみ上げる。
なんて面白い人なんだろう。
なんて可愛い人なんだろう。
「私だって好きだよ、れんのこと。」
「うん、知ってる。」
「自惚れないでよっ」
俺の腕の中で暴れるしぐれにキスをすれば、顔が茹で蛸のように赤く染まった。
「よ、呼び捨て禁止だからね!先輩ってつけなさい。」
「ヤダ。」
「ヤダじゃないっ」
「じゃぁ、レモンキャンディをくれたらね。」
「そ、そんなの持ってるわけないじゃない…。」
「しぐれ。」
「何?」
顔だけを動かして、俺のほうを向いたしぐれを見つめた。
「屋上の時、俺を幽霊だと思ったって本当?」
ギクッ
って口に出して言う人初めて見た。
しぐれはあからさまに目をそらした。「そんな事誰から聞いたのよ!」
夕陽先輩から。
だけどそんな事どうだっていい。
「しぐれ酷い。最低。だから罰として、キスして良い?」
しぐれはまた顔を赤くした。
「無理ムリむり!」
「レモンキャンディをくれたら、やめてあげる。」
「だから無いってばぁー…。」
逃げようとするしぐれの顎を持ち上げてキスを落とす。
「ごちそうさま。」
日が傾いて影がのびる。
出会った時を思い出しながら、口の中でレモンキャンディを転がした。
「俺、レモンキャンディの方が好き。」
「私はイチゴキャンディの方が好き。」
イチゴキャンディを口の中で転がしてしぐれが言った。
甘いキャンディに結ばれた恋ってのも、これからが甘くなりそうで良いんじゃない?
俺はしぐれの横で密かに笑った。
イチゴキャンディの続編でした。
どうしようか悩んで、悩んで…
悩んだ結果がこんな感じになりました。
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