合成生物3
二人はしばらく動けずにいたが、少しして俊明が口を開いた。
「……拓也、あそこの建物まで行こう。ここにいても合成生物が来るだけだ」
「……はい」
悲鳴や怒号はまだやまなかった。
「……物陰に隠れながら行こう」
「はい……」
二人は周りを警戒しながら次の木の影へ走り込んだ。
*****
「チッ……」
少年は軽く舌打ちをした。
木の上に登り、周りに危険が潜んでいないか確認しながら建物の近くまで来ていた。
しかし、あと二十メートル程のところで合成生物が何かを嗅ぎ付けたのか、少年の登っている木の周りに近づいてきたのだ。
合成生物は一目見ると狼のようだったが、足が馬と同じものだった。
少年は合成生物が退くのを待とうと考えていたが、残り時間がわからないためどれだけ経ったのかすらわからずに苛ついていた。
そのとき、その合成生物のことなどお構いなしに一人の少女が少年の横を歩いて通りすぎた。
少女の長いストレートの髪の間から顔が見えた。
少女はどこを見ているのかわからない虚ろな瞳をしていた。
あれは、投げやりになった人間の顔だと少年は思った。
しかし、合成生物があの少女を襲っている間に少年は建物へたどり着くことができるだろう。
(……俺には関係無い)
そう思って少年は少女から目をそらした。
そして、合成生物が少女に気付きとびかかった。
……が、その合成生物の頭に木の枝が強く当たった。
少年は、自分の近くにあった少し太めの木の枝を合成生物に向かって投げたのだ。
合成生物が怯んだ一瞬のうちに少年は木から飛び降り、少女の腕を無理矢理引っ張った。
「走れ!!」
「ちょっ……離して! 私はここで死ぬんだから!!」
「だったら俺のいないところで死ねよ!」
少年は苛ついた様子で叫んだ。
少女はそれっきり何も言わずに少年に腕を引かれながら走った。
*****
俊明ば建物の方を見てうめいた。
「クソッ……」
建物の周りに、合成生物が五体と闇雲に建物へ走り込もうとする中学生の姿があった。
しかし、あっけなく合成生物に噛みつかれ悲鳴をあげながら食べられていく。
『後三分』
そんな中学生を嘲笑うかのようにどこからか白い部屋の中で聞いた男の声がした。