合成生物
拓也はぺちぺちと頬を軽く叩かれ、目を覚ました。
「おおーい」
「ん……」
「起きろよー。何かヤバいぞ」
意識がはっきりしてくると、寝っ転がった拓也を覗きこむ俊明の顔があった。
「あれ、先輩?」
「お前、馬鹿だなぁ。俺に気をとられて後ろにいるやつに気がつかなかったなんて」
「……?」
今の状況をいまいち掴めなかったが、俊明の言葉で学校での出来事を拓也は一通り思い出した。
「おああああ!? ど、どこですかここ!!」
拓也は慌てて起き上がった。
俊明は肩をすくめた。
「わっかんね。俺も今気づいたから。銃の弾が腕かするし、しまいにゃ腹パンされるし、もう身体中痛いのなんのって」
「撃たれたんですよね!? 腕は……」
「かすっただけだって言ってるだろー」
俊明はハンカチを右の二の腕辺りに巻き付けていた。
「で、気づいたらこんな感じ」
拓也は周りを見回した。
白く広い天井があり、周りには他校の制服の男女で埋め尽くされている。
「状況がいまいち……」
「だから、俺もわかんねぇよ」
俊明は頭を掻いた。
周りは随分と騒がしかった。
そのとき、キーンというマイクの音が聞こえ、一瞬にして皆が黙った。
『全国の中学生諸君、初めまして』
低く、しっかりとした声が拓也たちのいる部屋に響いた。
『私が君たちをここに集めさせた者だ』
周りが少しざわついたが、すぐに再び男の声がして静かになった。
『君たちが見た、黒いスーツの男は私の造ったロボットだ。このロボットは周りにいる人間の大体の運動能力が読み取れるようになっている。……ここに君たちを連れて来たのは、君たちにある実験に参加してもらうためだ』
「実験……?」
『私は中学生の体力、精神がどこまで成長するものなのかを調べるためにこの実験を考えた。君たちには、『合成生物』から逃げてもらうことになる』
「合成生物って、なんだろ……」
「なんかくっついてるんだろ」
「……」
拓也の言葉に俊明が適当に返す。
『合成生物とは、二体以上の生き物を合成して一つの生き物としたものだ。『キメラ』と言った方が君たちには分かりやすいかな? ……この実験は中学生の体力、精神を調べる他に、合成生物がどれくらいの力を持つのかを調べる実験でもある』
「拓也、寝るなよ」
「もう無理です……」
理解ができなかったのか、拓也はうとうととし始めている。
『君たちにはまずはじめに、合成生物から逃げながらある目的地へ向かってもらう』
男の言葉がそこで途切れ、天井に何かが映し出された。
『これが、君たちのいる部屋の外だ』
緑の草原に木が所々あるだけの平地が広がっている。
そのすぐ先に、一つの建物が建っていた。
『建物が見えるだろう? ここを目指してくれればいい。距離で言うならば百メートルほどだ。制限時間は十分。それまでに中に入った者にだけ次の指示をしよう。では、検討を祈る』
そういうと天井の映像が消え、男の声も聞こえなくなった。
更に、いきなり周りが明るくなる。
驚いて周りを見ると、先程まであった筈の天井と壁がパタパタと人混みの横で折り畳まれていくところだった。
「なーるほど」
俊明は納得したように頷いた。
「だから黒スーツは拓也を追ってきたのか……」
「へっ?」
「いやぁ、黒スーツのやつはなんで拓也を追いかけることを優先したのかなって」
「先輩、ちょっと待ってください。……もしかして先輩、俺を囮にするつもりなかったってことですか?」
「そ、そうかもね……」
「先輩!?」
「まぁまぁ、落ち着いて。今はまずあっちにある建物に行くのが優先な」
俊明が人混みの奥の方を指差した。
そのとき、大きな悲鳴があがった。