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ジャンルは戦記ですが、恐らく戦記と言える部分に到達するのはだいぶん先になってしまうかもしれません。
一話の文字数が少なく、更新不定期ですが、よろしくお願いします。
拓也と東が唸っていると、急に拓也の肩を誰かが掴んだ。
「ぎゃっ……」
「おおお!? ちょっ、叫ぶなよ」
拓也が悲鳴をあげそうになり、拓也の肩を掴んだ本人は肩から手を離し、拓也の口を塞いだ。
拓也は自分の口を塞いでいる男を見て何かモゴモゴと言った。
「落ち着けってー」
男子はそう言うと拓也の口から手を離した。
「いや、いきなり肩を掴まないでくださいよ……普通にあいつらかと思って……」
「わりぃ、わりぃ」
「拓也、知り合い?」
東の問いに拓也は頷いた。
「桑原俊明先輩。俺の部活の先輩だよ」
「まぁ、もう引退してっけど」
「あ、三年生ですか……」
「俊明先輩ならとっくに体育館に着いてるかと思ってました」
俊明は拓也の所属しているバスケットボール部のエースとして活躍していた。
中学のバスケの世界では結構名前が知れている実力者で、噂では高校にスカウトされて、推薦で行く高校が既に決まっているらしい。
拓也の言葉に俊明は形の整った顔で苦笑いする。
「あそこは誰かが内側から鍵を閉めちゃったの。先生が合鍵を取りに行ったけど、待ってる間にあいつらが来ちまったからバラバラに逃げてきたところ。で、逃げてたら、捕まってる生徒と黒スーツの奴を見つけて、ついでにお前らを見つけたってわけだ。お前ら、見る角度によってはそこ丸見えだぞ」
「えええ!?」
「もっと早く言ってくださいよ!!」
「いやー、わざとかなって」
「そんなわけあるか!!」
「でも、なんでお前らの方は体育館に来なかったんだ?」
「移動中にばったりと出くわして」
「……そりゃ、災難だったな」
俊明は少し間をあけてから再び口を開いた。
「で、ちょっとお前らも手伝ってくんない?」
「何をですか……?」
「あそこの生徒を助けるのをさ」
俊明はそう言うなり、ポケットからカッターナイフやらハサミやらを取り出した。
「ちょっと逃げてる途中に頂戴したんだ。俺が囮になるから、その間になるべく多くの生徒の縄をこれで切ってくれ」
「ええ!?」
「わざわざそこから動かなかったってことは、何か助ける方法でも考えてたんだろ。単純で分かりやすい方法じゃん」
「危険ですよ! あいつら、拳銃持ってるし……」
「あ、多分殺されはしないよ」
「どっからその根拠が……」
「ああー。そっか、お前馬鹿だもんなぁ」
俊明は馬鹿にしたように拓也の頭をポンポンと叩いた。
「んなっ……」
「いいか? じゃあ逆に聞くけど、何であいつら銃を持ってるのに生徒を撃たないんだ?」
「えっと……」
「多分、あいつらの目的は虐殺とかじゃなくて、俺ら生徒を捕まえるってことだ。つまり少なくとも捕まってもすぐに殺されることはないってこと」
「でも、東は撃たれかけてましたよ!」
「ええー? マジで!? じゃああれかな。ちょっと怪我させてでも捕まえたかったってことじゃない?」
俊明は自分の意見を曲げる気は無いようだ。
「知っての通り、俺、結構足速いからさ。そこんとこは気にしなくてもいいぜ?」
「……じゃあ、俺も行きますよ」
拓也は口を尖らせて言った。
「拓也……?」
「だってあいつら、二人いるし、どっちかが残る可能性のが高いじゃないですか」
「そりゃ……。そうだけど」
俊明は少し黙ってから頷いた。
「ま、いっかな。拓也も足速いし、邪魔にはなんねえしな。……と、いうことなので東君とやら、一人で大丈夫かい?」
「あ……。は、はいっ!」
「じゃあ拓也は俺が行った後、黒スーツの奴が残ってたら囮になってくれ」
「わかりました」
三人は僅か十メートル先を見つめた。