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拓也たちはこっそりと靴を履いて校舎の裏庭へ移動した。
「リアルなドロケイかよ……」
拓也と東はこっそりと校舎の影から十メートル程先にいる生徒たちの様子をうかがった。
二十人程の生徒たちは縄で腕を縛られ、座り込んでいる。
その生徒たちを見張るように黒スーツの男が二人立っている。
「よし、東。捨て身で行ってこい!」
「ふざけんなよ!!」
「やっぱり無理か……」
「当たり前だ!」
拓也は深くため息をついた。
どうすれば、捕まらずに生徒を逃がせるか。
残念ながら拓也は頭が回る方ではなく、成績も悪かった。
いい案が思いつかないまま数分が経過する。
「……東」
「何?」
「全然思いつかねえ……」
「俺もだよ……」
東もお手上げというように肩をすくめた。
更に考え込む二人は忍び寄る人影に気がつかなかった。
*****
少女は泣き腫らした目を擦って屋上のフェンスを掴んだ。
何故、私ばかりがこんな目にあうのだろうか。
死ねばいいのに。
小さく呟いてみる。
誰に対してかもわからない。
いや、今のはきっと自分に対しての言葉だ。
長く伸ばした髪が追い風に吹かれ、なびいた。
空を見上げる。
鬱陶しいくらいに綺麗な青空だ。
久しぶりに見た空すら心一つ動かず、けれども最初の一歩が踏み出せないから、しばらく空を睨んでいた。
何故かわからないけれど、また視界が歪み始めた。
涙が溢れる前に少女は目を擦った。
その涙が、空が眩しかったからなのか、悲しかったからなのか、やはりわからなかった。
そのとき、急に運動場に大勢の生徒が出てきた。
「!?」
今は授業中のはずだ。
少女はわざわざ授業を抜け出していたのだから。
どこからか、破裂音や悲鳴が聞こえてくる。
「……何?」
少女はただ運動場を見下ろした。
生徒たちは何かから逃げているようだ。
では、何から?
少女は生徒たちから目を離して生徒たちが出てきた方向を見る。
そこには、三人の黒い服を着た男が立っていた。
よく状況がつかめないが、とにかく少女にとって、都合の悪いものには違いない。
少女は唇をきつく噛み、フェンスを乗り越えようとした。
そのとき、コツンと後頭部に何かが軽くあたる。
「!?」
少女は驚いて後ろを振り返った。
少女の後頭部に当たったのが何か、すぐに理解できた。
「動くな。言う通り動け」
後ろには黒いスーツを着た男が立っていた。
少女の額には、銃口があてられている。
少女は少し眉を動かしただけで、まっすぐと黒スーツの男を見据えた。
そして微かに呟いた。
「そうしたら、私は死ねるの?」