静かな夜
この施設にもどうやら夜というものがあるようで、時間が過ぎていくにつれて『1-D』の電気も徐々に消えてきていた。
拓也たちは廊下などに出るよりここで夜を過ごすことにして、適当に寝られるような場所を探した。
「くっそ、いらねえことしやがって」
凌は少々イラつきながら先頭を歩く茜たちの後ろに続いた。
凌がイラついているのは、おそらく部屋が暗くなるにつれて室温が下がってきているせいだろう。
何故わざわざ『夜』を作るのかは理解できないが。
そのとき、拓也の横が急に明るくなった。
隣の功祐の顔がはっきりと見えるようになる。
「功祐?」
「ん、これ使えるな」
功祐は少し得意げに時計型通信機を持ち上げた。
光は通信機の側面の中央から出ているようだ。
功祐の腕から出るその光だけで、ずいぶん周りが見やすくなった。
「え、そんな機能があんのか!?」
凌は驚いて功祐の通信機を見つめる。
功祐は少し顔をしかめた。
「……使い方の説明があるだろ」
「……え?」
「読んでねえのかよ!」
「うぐっ……」
「へー、私も知らなかったなあ」
友莉も足を止めて自分の腕についている通信機を触りだした。
「……え、待てよ。これの機能とか使い方とか、きちんと理解してるやついねぇの?」
「「「……」」」
「……」
誰もがお互いの顔を見つめ合い、黙ってしまう。
「……明日、きちんと確認した方がいいな」
「……そ、そうね」
適当な平らな地面を見つけて拓也たちは体を休ませることにした。
だが、気温は思ったよりも下がってきたようだ。
体を動かしている間はあまり気にしていなかったが、おそらくこの建物の中には冷暖房が存在しないのだろう。
もしくは気温をわざわざ外と同じになるように調整しているかのどちらかだ。
何が言いたいのかというと、明らかに初めに建物へ向かわせられた時の外の温度より寒くなっているということで、この建物の中の気温は冬の夜と同じくらい寒いものだということだ。
それを服二枚で何とかしろというのは厳しいだろう。
「寝れるかこの野郎!!」
拓也は叫んだ。
「まあ、気持ちはわかるけど……」
明日香は拓也をなだめようとする。
しかしその体も小刻みに震えていた。
「火、起こせばいいじゃん」
そのとき、きょとんとした顔で功祐が言った。
「え……」
「火を起こすっつっても起こし方が……」
茜の言葉に功祐はニッと笑った。
「そこは任せとけって」