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*1*

「……である、ということがわかり、ここは……」

 授業中、一人の少年は窓側の席から三階の外を眺めた。

 少年はあくびをしながらぼんやりとしていた。

 そのとき、正門に一台の大きなコンテナを乗せたトラックが停まった。

 少年の教室から正門までは距離があり、視力に自信のある少年でも誰かまでは認識できなかった。

 しかし、黒い服に身を包んでいるのはかろうじて見える。その男は何か物を持っていた。

 それを正門のあるところに向ける。

 今は二時間目、正門は不審者が来ないように鍵を閉めていた。

 しかし、その男は自分の手に持っているもので、簡単に正門を開けてしまう。

 男が正門にそれを向けて数秒後、パァンッ! という音がかすかにきこえた。少年の他にも数人、反応してキョロキョロとまわりを見たが、空耳だと思ったのか、すぐに授業に集中し始めた。

 ……だが、これは空耳なんかではない。

 少年は確信していた。

 数分後、正門が開いた。鍵が壊されたようだ。

 そして、トラックの後ろのコンテナの中から十人ほど、黒いスーツに身を包んだ男達が出てくる。

 黒い服の男たちは全員同じものを片手に持っていた。

 それは、少年が初めて見た……拳銃であった。

 少しして、男たちとコンテナを積んだトラックが運動場まで入って来たところで教師が数人、男たちに近づいた。何か叫んでいる。

 不審者を止めようとでもしているのだろうか。

 しかし、パァン! パァン!! と銃声がいくつも運動場になり響いて教師達は真っ赤な液体を出しながら倒れた。それから教師達は一人も動かなくなった。

 (――!?)

 少年は一瞬目眩を感じた。

 教室の中の教師と生徒は驚き、騒がしくなった。

 運動場から教室までの距離ではうるさいほどに銃声が聞こえた。

 生徒たちの中には窓の外を見て泣き出す人も出てきた。

 この教室の全員が銃声に気がついたらしい。

 次々と何が起こっているのかを見ようと窓に近づく生徒が出た。

 そんな中、窓の外では黒い服の男達がそれぞれ別々の校舎へ向かって走っていった。

 少年たちの教室のある北校舎には二人走って来る。

 少年の心臓は自分でもうるさいと感じるほどバクバクとなり続ける。

 黒い男たちが北校舎一階に入ったところで、緊急放送がながれた。

 『全校生徒に連絡します。十個の大きい荷物が学校に届きました。運動場へ移動してください』

 そこで放送が途切れた。

 緊急放送は学校全体にながれる。

 つまり、トラックの停まっている運動場にも、黒い服の男たちのいると思われるそれぞれの校舎の廊下にも。

 この放送をしたところで少なくとも黒い服の男たちのうちの一人は必ず運動場へ向かうはずだ。

 放送をながした先生は、わざわざ避難場所の場所を教えてしまったということになる。

 ……しかし、体育館に向かう、というのはもともと嘘である。

 この放送が流れた時、少年たちが向かわなくてはいけないのは体育館だ。

 訓練でそういう話になっている。

 だが、少年たちは中学校生活の三年間の内にこの校内放送を聞くことなど、訓練以外ではないと思っていた。

 だからこそ、動揺した。

 教師も、生徒も。

 そんななかでも少年は落ち着いていた方だった。

 しかし、冷静にいられるほど落ち着いてなどはいない。

 少年たちが混乱していると教師は体育館へ行くよう、生徒達に指示した。

 教室にいた殆どの生徒が短時間で窓の外を見て状況を大体把握したみたいだ。

 そして一斉に三階の自分たちの教室の外へ走り出した。そのまま階段を下りていく。

 少年も他の生徒の後を追った。

 しかし、体育館に行くまでの危険性に少年は途中気がついてしまった。

 この北校舎は一階の教室がない。

 この校舎の一階は下駄箱とトイレだけだ。

 その一階の西側の廊下を進むと、体育館へつながる。

 一階に教室は少ないが二階と三階の教室が多いため、一階の下駄箱だけでたくさんの面積をとる。

 そのため、北校舎に入って一番西側と東側に階段があるのだ。

 黒い服の男は二人、普通に考えれば別々の階段を上るだろう。

 もしそうだとすれば……西側の階段を下りている少年たちにそのうちの一人と鉢合わせ可能性が高い。

 ……もちろん、相手が階段を上り終えてとっくに教室の中ってことだって考えられる。

 だが、二階だって慌てて逃げる人だっているはずで、黒い服の男もいきなり人がたくさん押し寄せてきたら上手く動けないはずだ。

 つまり、下にまだいるのではないだろうか。

 ――いや、今は上手く別のところへ行ってしまったのを願うしかない。

 少年は黒い服の男に鉢合わせないことを願った。

 しかし、二階に着いたところでピタッ……と前列の全員が動きを止めた。

 今の状況を知るため、少年は恐る恐る前列の方へ割り込んだ。

 鼓動が更にうるさくなった。

 足が震えて、背筋が急に冷たくなる。

 そこには一人、拳銃を持っている黒スーツを着ている男の姿があった。

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