手続き 2
大半の生徒が移動し始めた中、拓也たちはしばらく動かなかった。
説明がされるのが全員の手続きが終わったらと聞いていたこともあるが、とてもすぐに行動を起こせるような状態ではなかった。
結構時間がかかるようで、あまり列も進んでいないようだった。
「……拓也、ごめん」
ポツリと茜が呟いた。
「あたしの不注意で……」
「……茜、謝るくらいならきちんと生きないと。先輩の行いをさっきみたいに無駄にしちゃ、駄目だ」
「……わかったわ」
「拓也君もね」
友莉が不機嫌そうに拓也を見つめた。
目が少し潤んでいる。
「もう、あんな真似しないで。あんな風に私をおいて行ったまま帰って来なかったらって思って……」
「……ごめん」
拓也が謝ると友莉が小さく肩をすくめ、立ち上がった。
「じゃあ、並ぼうかな」
友莉が立ち上がったのを機に、二人も腰をあげた。
「じゃあ、俺こっちだから」
「うん。拓也と合流できるといいのだけれど……」
「そうだな」
「また、会えたらってことでー」
三人は小さく笑い合い、それぞれの列へ並んだ。
拓也が最後尾に並ぶと一つ前にいる男子の姿が見えた。
その少年の姿は周りから明らかに浮いていた。
制服ではなく、私服だったのだ。
「ん?」
少年は拓也の視線に気づいたのか、後ろを振り返った。
「あ、えっと……」
拓也が少し慌てると少年がニッと屈託のない笑みを浮かべた。
「ああ、別に怒ってるわけじゃねぇよ。どうせ、服の事だろ?」
「うっ……」
聞き返されると頷きづらくなり、拓也は言葉を詰まらせた。
少年はラフなシャツにジーンズを穿いていて、少し伸びている髪を一つに縛っていた。
「ちょっと事情があってさ、すげぇ目立ってるからどうにかしたいんだよなぁ」
確かに彼だけは五百人弱の人込みに紛れても見つけられるかもしれない。
それほど周りと浮いていた。
「ヨコヤマっていうんだな」
「え……?」
「ほら、名札。あ……もしかして変な読み方すんの?」
拓也は少年に名札を指さされ自分の名札を見つめた。
「あ、いや。ヨコヤマでいいよ」
「そっか。俺、轟凌っていうんだ。横山君、名前は?」
「拓也」
「そっか。いやぁ、この待ち時間暇だよな。一緒に暇つぶしでもしない?」
とても話しやすい少年だな、と拓也は感じた。
いつもなら自分も凌と同じような立場に立っているはずだが、俊明のこともあってか拓也はいつもの調子でさっきの二人にも接することができなかった。
だからこそ彼の存在が、拓也の気持ちを少しずつやわらげてくれた。