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手続き

 扉の前で茜はしばらく静かに泣いた。

 拓也は唇を噛んで、涙をこらえた。

 口の中に、血の味が広がった。

「茜!!」

 そのとき、通路から友莉が走ってきた。

「……」

「よかった、無事で……」

 そこで友莉は言葉をのんだ。

 俊明がいないことに気が付いたのだろう。

「無事なんかじゃ、ない」

 茜はうつむいたまま呟いた。

「無事なんかじゃないよ……。こんなの、ひどい……」

 友莉は拓也と茜を静かに見つめ、そのまま口を閉じてしまう。

『無事に辿り着いた諸君、お疲れ様だった』

 放送が沈黙を破るように流れた。

「……とにかく、奥へ行こう」

 拓也の言葉に友莉は黙って頷き、茜は無言のまま拓也と友莉の隣に並んだ。

『残った中学生は合計四七一人だ』

 つまり、半分以上がすでに命を落としたということだ。

 拓也たちがその声を聞きながら通路を抜けると、中学校の体育館ほどの広さのある部屋に出た。

 何人かが拓也たちをちらりと見たが、すぐに目をそらした。

「ここに座ろう」

 友莉が指さした適当なスペースに三人は腰をおろした。

 最初と同じように白い部屋だった。

 部屋のスペースはところどころまだ残っていた。

『諸君らには次からは合成生物から逃げるだけではなく、戦ってもらうことになる』

 少し遠くで誰かが息をのんだのが聞こえた。

 しかし、誰も一言も喋らなかった。

『まず、諸君らにはある手続きをしてもらう』

 一度そこで声が途切れ、代わりに部屋の奥の方に閉まっていた赤と青の扉が開いた。

『男子は青、女子は赤の扉の中へ一人ずつ入ってくれ。手続きをしたら、奥にある部屋へそのまま進むように。全員の手続きが終わったら詳しく説明をしよう』

 ブツン、という音がして男の声は聞こえなくなった。

 しかし、誰も一番に動こうとはしていなかった。

 警戒しているのだろう。

 お互いの顔を見合わせている。

 だが、座りこんでいる生徒たちの中、一人が立ち上がった。

 学ランを着た、色の薄い髪をした少年だった。

 そのまま扉の中へ入っていく。

 すると少年が入ったあと、青い扉が左にスライドしながら閉まった。

 それを見守るように全員が扉を凝視した。

 だが、悲鳴も物音も聞こえない。

「めんどくさ」

 誰も動かないのをみた黒髪の少年が次に立ち上がる。

 隣にいたロングヘアーの少女もつられるように立ち上がり、少年のあとに続いた。

「あとは勝手にしろ」

「……」

 少年は少女にそう言うと、青い扉へと向かっていく。

 少女の方も何も言わずに赤い扉へと入っていった。

 少年の方は、扉の前に立っている。

 恐らく、中に入れないのだろう。

 だが少しすると青い扉も開き、少年は躊躇うことなく中へ入っていった。

 そのあとは一斉に他の生徒が立ち上がり、それぞれの扉の前に並び出した。

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