夜明けのチケット
まだ夜も明けないうちに
鞄に荷物を詰め込んで
思い出を捨ててゆく
慣れ親しんだ部屋に別れを告げて
ブルゾンのポケットには一枚のチケット
今日という日を忘れないように
タクシーの中から
通り過ぎる街並みを目に焼き付ける
人生の岐路に立った時
かならず心に浮かぶ場面がある
そして何度もこう問い掛けるんだ
選択は間違っていなかっただろうかと
背負った荷物の重さに驚きながら
人は旅を続けるもの
夜が明けたらまた歩き出そう
心が錆びついて動かなくなる前に
タクシーの運転手は話し続ける
こっちの気も知らないで
野球の勝敗に一喜一憂しながら
通りを黒猫が横切っても笑ってやり過ごせばいいさと
「人生は擦り切れたジーンズなのさ
挫折の数だけ愛しさが訪れる」
恋人との長い電話のあと
バーボンを片手にそのまま眠っていたかも知れない
でもその夜はいつもと何かが違っていた
窓から空を見上げると星に手が届きそうな夜だった
チップを受け取ってタクシーは走り去る
巨大な銀色のフェンスの向こう
見たこともない朝焼けが広がっていた
空と海の境界がやがてはっきりしていく
見えなかったものが
今はくっきりと見える
搭乗アナウンスが静かに流れるロビー
待合室には疲れ果てた人々
旅の終わりなのか始まりなのかさえ分からない
そんな目をして
鉄のコンドル達がゆっくりと翼を広げる
出会いと別れが穏やかに行き過ぎていく
映画のワンシーンみたいに
恋人 家族 見知らぬ他人達が織りなす人間模様
電光掲示板が軽やかに行き先を示す時
ポケットの中のチケットを握りしめ
もう一度だけ懐かしい故郷を想う
白黒だった世界が今鮮やかな色を取り戻す
恋人よ 愛しい人よ
もしも生まれ変わったら
君の好きな花を窓辺に飾って
二人がお気に入りのブルースを聴こう
朝から晩までkissをして
木洩れ陽の下で愛を交わそう
お腹が空いたら手作りのジャムをパンに塗って
二人で淹れたてのコーヒーを飲むんだ
ベッドの上で
暖かいベッドの上で
夢の続きを楽しもう
搭乗ゲートに向かう人の列
代わり映えしない毎日が遠ざかる
愛の言葉も未来への約束も
君の前ではすべてが色褪せてしまう
年老いてもなお
愛し続けることを恐れないで
肉体がいつか土に還る日が来ても
魂に終わりが来ることは決してないから
だから眠っていいよ
安心して
いつも
いつまでもそばに居るから
明日になったら
また旅を続けよう
また新しい旅を始めよう
二人で何処までも
歩いていこう
人生の岐路に立った時
かならず心に浮かぶ場面がある
そして何度もこう問い掛けるんだ
あの時の選択は間違っていなかっただろうかと
背負った荷物の重さに驚きながら
人は旅を続けるもの
夜が明けたらまた歩き出そう
心が錆びついて動かなくなる前に
まだ夜も明けないうちに
鞄に荷物を詰め込んで
思い出を捨ててゆく
慣れ親しんだ部屋に別れを告げて




