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ある朝〈ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス〉/George Harrisonに捧ぐ

ある朝

それは秋の暖かい朝だ

部屋中に陽の光が射し込んでいた


僕はミルクティを煎れてキミに運ぶ

そしてこう言うんだ


「今日もすごく素敵だね」って


ビクターの電源を入れて

ビートルズを聴く


キミは「ああ、またなの?」って顔をするけど

僕はいっこうに気にならない


キミと迎える朝はホント素晴らしいよ

「他に何もいらない」ってのはこういうことなんだな


やがて時計盤の針が10時を差す


寝ぼけまなこのキミが眩しそうに窓の外を見る


古ぼけたトースターからチーズの焦げる匂い

キミは小さな鼻をクンクン言わせてフェレットみたいにピンと背筋を伸ばす


心の中で

僕はシャッターを切る


カシャッ

カシャッ

何枚も


ゆっくり過ぎる時間

ああ、でも用事がたくさんある



街へ行こうよ

そしていろいろ見て回ろう


最新のファッションをからかって歩くんだ

珍しい香辛料も探そう

雑貨屋の端から端まで


何か掘り出し物があるかも知れない

インドのお守りとか良い夢が見られる入浴剤とか


僕はざわざわと出かけたい気分になる


相変わらず下着姿でうろちょろしてるキミに僕はこう言う


「今日はどうする?」ってね



ある朝

それは秋の暖かい朝だ

部屋中に陽の光が射し込んでいた


僕はミルクティを煎れてキミに運ぶ

そしてこう言うんだ


「今日もすごく素敵だね」って


ビクターの電源を入れて

ビートルズを聴く


キミは「ああ、またなの?」

って顔をするけど

僕はいっこうに気にならない



その時

〈ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス〉が鳴って僕はすべてを確信したんだ


ものすごく悲しいことが

ものすごく幸せなことにつながっているドアなんだって


ピンと来たんだ

電撃的だった


それで一緒に暮らそうと思ったのさ


僕はキミをつかまえてこう言った


「二人でしあわせを見つけようよ」




診察券やらお薬手帳なんかを片付けて僕は買い物リストをつくる


洗濯物が風にカラカラ揺れている


うさぎのポットでもう一杯お茶を飲む

キミが買ってくれたうさぎのポット



キミのために今日は何をしよう


マフラーをして手袋をして外に出ると

ソフトクリームみたいにクリーミーな雲がふんわり、ふんわか…



あれから僕は何度も思ったんだ


ほんの少しづつでいいからキミに近づいていこうと決めた


自分のことなんかもうあまり関係ないんだ

誰かのために何かをするのさ

何も求めず


それが最上級のことだと気づいたのさ


買い物リストにはオリーブ油とニッキとダウニーが仲良く並んでる


次から次へと流れるメロディー


アビー・ロードみたいにキミと出会い キミと歩いていく人生


そのうち僕はこう言うだろう

「すべてまあまあ、うまくいっているよ」



ごくわずかだけど不安がないわけじゃない


だってこれは映画や小説とは違うんだから

でも腐ったらもうおしまい


歌を聴きリズムに乗ろうよ

イカしたサウンド

アコースティックなバラードもいい


100年経っても色褪せない曲さ


木漏れ日の下

自転車で通りすぎる子どもたち

公園からにぎやかにボールが跳ねる音がしてる


穏やかな普通の日々



ある朝

それは秋の暖かい朝だ

部屋中に陽の光が射し込んでいた


僕はミルクティを煎れてキミに運ぶ

そしてこう言うんだ

「今日もすごく素敵だね」って


ビクターの電源を入れてビートルズを聴く


キミは「ああ、またなの?」って顔をするけど

僕はいっこうに気にならない


その時

〈ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス〉が鳴って僕はすべてを理解したんだ


ものすごく悲しいことが

ものすごく幸せなことにつながっているドアなんだって


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