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1+1=   作者: 陽菜
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稲葉航。

品行方正で勉強ができて運動もできる真面目な優等生イケメンだけど、ところどころ抜けてるところとシャイなところが可愛いと人気のキャラ。物腰が丁寧で優しいので頼りがいという点には欠けるけれど同級生ながら安心感を感じられるところが良いとされていた。聖陽暁学園という名の乙女ゲームの攻略キャラクターの1人だった。―――と、思う。

思う、というのは自信がないから。

そしてまだ状況が把握できていないから。


「なんだろこれ……やっぱり夢?ゲームと現実がごっちゃになってるとか、やっぱり勉強のしすぎかな。でも確かに隣にいたよね?沙紀も知ってたし…ってことはむしろ私の妄想?」

うーんと悩んでいきついた結論に顔を顰める。クラスメイトをすっかり忘れゲームのキャラクターの1人だと思い込むとかどんな痛い子だ。しかもその世界に自分もいるとか。

「しかも聖陽暁学園って実際の高校だし、むしろ志望校だし。…ちょっと私まずくないかな。高校入ったらゲームスタート?どのキャラを攻略しようかって?うわぁなんだそれ……」

流石に自分が痛すぎて保健室のベッドで頭を抱えてしまった。

恥ずかしいし情けない。せっかく頭をボールにぶつけてリセットしたのに思いだしたのがこれというのは残念すぎる。


ゲームは確か、主人公の高校入学から始まる。

期間は高校三年間で、学園生活を送りながら攻略キャラの中の1人と恋に落ちて結ばれるというよくある乙女ゲームのパターン。キャラと結ばれないエンドはあるが特に人外やらファンタジー要素なんかはないノーマルな学園物だったので、殺人やら世界崩壊やらのバッドエンドはなかったはず。攻略対象は先輩、同級生、後輩、先生、OB、隠しキャラに学園外の生徒やショップ店員なんてのもあった気がする。キャラの性格は王道どころが殆どだったか。俺様や王子様、S様、お色気、クール、ツンデレ、癒し系や甘えキャラや尽くし系。ちなみに稲葉航は真面目でうっかりついでにシャイ、と銘打っていたような。


などと、色々設定を思いだしたのだけれど、『確か』とか『だったはず』とか、実は全部があやふやだ。

それもこれも実は1度もプレイした覚えのないゲームだからだったりする。

元々なんとなく持っていた乙女ゲームへの興味が身近になったのは、スマホで無料のゲームができることを知ってから。初めてのゲームは王宮物だったけれどイベントや仲間交流もありなかなか楽しくできたので、1日1時間だけと決めて受験勉強の息抜きにしていた。

そして少し前に王宮物の乙女ゲームで初めて1つのエンディングを迎えることができた。他の人は1人のキャラが終われば次のキャラを攻略したりしていたようだけど、私は1つのエンディングを迎えると次のゲームがしたくなるタイプだった。そこで次に目に入ったのが聖陽暁学園という名のゲーム。王宮の次は学園物かなと思い、手を出す前ににキャラ設定を眺めたりしていた……という段階だった。だから手持ちの情報はとても少ない。正直名前やイベントどころか正確な攻略可能人数すら危うい。たぶん稲葉航を覚えていたのはメンバーの中で一番好感を覚えたキャラだったから。色々眺めてはみるものの結局私は一番ノーマルなキャラクターを選択する傾向があると思う。おそらく何もなければ、私は彼を攻略対象としてゲームを始めていただろう。


「いやだから、キャラってさあ……」


思わず呟いて自分の思考回路にげんなりした。

最近は芸能人をモデルにした乙女ゲームも出てきていると聞くが、あくまでゲームはゲームで現実は現実。

実際にある学園や人間でゲームができるはずはなく、況してや攻略対象が現実の中に入り込むはずもない。

バーチャル世界のゲームも増えてはきているが、これは確かに現実だと思うのだ。

何故なら私はキャラクターを設定した覚えがない。

鏡を見ても現実の自分として認識している汐見千花の顔しか映らない。

友達の沙紀も教室内の顔ぶれも先生だって認識にぶれはない。自分どころかある意味モブと呼ばれる周囲までこんなに細かく設定できるゲームなんてあるはずない。


「それって一体どんなVRデスカ。いかん、絶対勉強のしすぎだ。どっかの回路がおかしくなってる」


確かに現実にあったらちょっと興味はあるけれど。


「っていやいや、もう1回ぶつけた方がいいなこれ」


この際英単語の10個や20個潔く諦めた方がいいとみた。


たぶん夢なのだ。

夢で見た。そんなゲームをやる夢を。

きっと、受験勉強で追い込まれた頭が、目指す学校で乙女ゲームみたいな恋ができるかもなんてことを思ったんだろう。思ったことによってテンションをあげようとしたに違いない。私は私が思う以上に夢見る夢子さんだったのだ。切ないけれどもそれが現実。

もしくは今見ているのが夢かもしれない。頬をつねれば痛いし赤く跡にもなるけれど痛覚があるように思える夢だってあるんだろう。たぶん夢だと認識しないために実際にはない痛覚があるように思いこんでる。それなら大いに有り得る。ならば早く目覚めねば。

稲葉君忘れてごめん。

忘れたわけじゃないのだろうけど思いこんでてごめん。

もしかしたらまだ夢の中なのかもしれないけどどっちにしろごめん。

ひとつ息を吐いて私はぐっとおなかに力を入れる。


「―――よしいってみよう」


「って、ちょっと汐見何する気?!」


ベッドの手すりを握りしめその場所に今にも頭をぶつけようとしていた私の奇行を止めたのは、謝罪対象である稲葉君当人だった。

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