2
2
村に戻ると 木の上から 大きな果実が、落ちてきた。
それは、見事に ルークの頭に命中する。
ディムナは、それを避けたから 当たることはない。
「いってぇ………って これ………金の林檎の?
危ないじゃないかッ!」
驚いて 見上げると 頭上から 笑い声が聞こえてくる。
その声は、少女の声。
「フフフ………油断大敵でしょう?
狩りの名人も そんなところかしら?
ディムナをごらんなさいよ………見事に 避けてみせたじゃない」少女――― クラリスは、言う。
クラリスは、軽やかに 木から降りてくる。
「いくらなんでも 無茶なことは、すべきじゃないんじゃないか?
万が一 潰れたら勿体ないぞ?」
「今日 一番の金の林檎よ?
そう簡単に 潰れるわけがないじゃないの」ディムナの言葉に クラリスは、きっぱりと言い放った。
「確かにそうかもしれないが………」
「おい………2人とも 俺の怪我の心配は、しないつもりか?」ルークは、頬を膨らませて 叫ぶ。
そんな幼馴染に ディムナとクラリスは、顔を見合わせて 笑う。
清々しく おかしそうに。
「それで この金の林檎は、何の為に収穫してたわけ?
いつもよりも 時期が早いんじゃないの?」ルークは、思い出したように 呟く。
「ああ………もうすぐ 『乙女祭り』でしょう?
だから 今現在で 実の生っている 金の林檎は、収穫することになったんですって。
乙女の選出は、全ての金の林檎を集めてから 決めるそうで………」
乙女――――とは、神に選ばれた 巫女見習いのこと。ケルト王国に存在する 3つの領地から 1人ずつ 白花・赤紫花・青紫花として 選出される。乙女
は、ひと月間 祈りの祠の中にこもり 国の繁栄と世界の平和を願うのだ。その願いは、国の中心に存在する 『聖女』の住まう 神殿にて 神へ伝えられ 国の平和が、保たれる。乙女に
選ばれた者は、1つだけ 願いを叶えてもらえるという噂だ。
「ふ~ん………その様子だと クラリスも、立候補するつもりなんだ?
一体 どんな願いを叶えてもらいたいんだよ」ルークは、面白くなさそうに 言う。
「あら………あたしは、他の子達のように 玉の輿にのりたいとかじゃないのよ?
あたしの願いは、巫女姫様にお会いすることなんですもの………どうしても お聞きしたいことがあって」
クラリスは、真剣な顔をして 金の林檎を抱え込んだ。
そんな彼女の様子に ディムナは、呆れた顔をする。
「聞きたいことって まさか………さ?
15年前のことを?
村のみんなの噂話でしか 知らないが」
「ええ………そうよ。
あたしは、どうしても 信じられないの」
「昔話を聞いて………何を知りたいんだよ」ルークは、溜息をつきながら 呟く。
「ちょっと ルーク?!
他人事じゃないでしょう?だって………15年前のことは………………」クラリスは、悲しげな顔で 言う。
「おい………クラリス」
ディムナが、止めようとするが クラリスは、言葉を続けた。
「ルーク………貴方は、悲しくないの?
あんな風に 自分の両親を悪く言われて………あたしだったら 悔しいわ?
写真でしか知らないのに………周りには、そんな風に教えられるだなんて」
「クラリスは、俺の気持ちがわかるとでも?
自分の気持ちは、自分にしかわからないよ」ルークは、小さく呟く。
そして 何も言わずに 走り去ってしまった。
「ルーク………」
「だから 止めようとしたんだ」
ディムナは、泣き出しそうな顔をしている クラリスの頭を抱きしめる。
「ルークにとって 亡くなった 両親のことは、琴線なんだ。
特に この時期は………」ディムナは、神妙な表情を浮かべて 言う。
「わかっているわ?
でも そろそろ 乗り越えないといけないことだと思うの。
それが、今のルークに大切なことなんだと思うのよ」クラリスは、涙を拭きながら 呟く。
「まぁ………それは、あいつもわかっているはずさ。
人のことを言えているんだから………自分の中では、色々と葛藤もあるんだろう」
ディムナは、そう言って 空を見上げる。
++++++++
ルークは、両親がいない。
2人は、ルークが赤ん坊の時に 死んだ。
その事件は、このアヴァロン村での大きな出来事だった。
ルークの両親は、神を裏切った存在として 国から追われていたのだ。
それを明らかになったのは、彼らに子供―――ルークが、生まれた時だった。
このケルト王国では、髪の色と瞳の色で その者が、精霊持ちであるか 何の精霊に加護されているのかを知る。
精霊に加護されていない者は、基本 茶色の三段階の色を持つ。
加護を受けている者は、その精霊の属する 色を持つ。(――火の精霊は、赤系 水のは、青系というように)
けれど 精霊持ちの中でも 特殊な部類に入る場合が、あった。
まずは、ケルト王国の始まりとなった 『闇を纏う者』。
彼らは、王族である意味合いを持ち 加護する 精霊の数も、半端ない。
そして もう1つが、『禁忌人』。
この者達は、色を持たない(・・・・・・)―――神から 否定されているのだことを示す。
ルークの髪の色と瞳の色には、色がない。
この事実が、公になり 村人は、ルークを恐れた。
そして 国から派遣された 軍に連行され 公開処刑されてしまったのだ。
ただ 1人生き残った ルークは、その後 アヴァロン村の村長の計らいによって 引き取られ 今では、納屋を借りて 無理で獣を狩ったり 果実を摘んで 生活している。
成長するにつれて 両親の面影を見出すようになってきた ルークは、幼馴染のディムナや隣村の孤児院の悪ガキと村長の娘である クラリスを除いて 自分から 接触することが少な
い。
みんな 腫物を扱うように接してくるので 心を許すことができないのだ。
大人達は、特に ルークのそばにいることで 天罰を受けることを恐れていた。
それが、村中に感染し 今では、話しかけてくる人も、ほとんどいない。
++++++++
ルークは、ただ 闇雲に 走っていた。
「あ~あ………クラリスに、八つ当たりしちゃったよ。
ディムナも、呆れているのかな?
こんなんじゃ………あいつのことを、とやかく 言えないじゃないか」ルークは、悲しげに 呟く。
立ち止まって 空を見上げた。
「別に………興味ないわけじゃないんだよ。
だけど 何だか 怖くて仕方がない。
どうして………僕は、色がないの?」
ルークは、悲しくなって その場に蹲る。
その周りに 精霊達が、心配そうに 飛び回っていた。