第1話 こっちにおいで。お友達になりましょう。
アポロと忘れられた古代の島の小さな子ホムンクルス。
小さな子を抱っこしている優しいお母さんの夢。
こっちにおいで。お友達になりましょう。
忘れられた古代の島。
その場所や歴史が忘れられてしまった古代の時代に文明が栄えていたとされている島。
緑にあふれている清らかな水の流れる美しい島。
そんな島の優しい風の吹いている緑の小高い丘の上に石造りの小屋があった。
古代の島はもう遠い昔に人は誰もいなくなってしまって『古の動物たち』だけが暮らしている。
そんな誰もいない島のはずなのにぺたぺたと不思議な足音が聞こえる。
そして、ぎーという音がして、古い木の扉が開くと石造りの小屋の中から小さな子が一人、眠たそうな顔をしたままで、外に出てきた。
その子は本当に小さな子だった。
しかもよく見ると、その小さな子は人の形をしているけど、なんだか少し変な感じがした。
どこがというわけではないのだけど、なんとなく人の子とは違っている。
大きな頭に小さな体。短い手と足。だけど力はあって、ものを動かすことや、大地の上を駆け回ったりすることに問題はない。
大きな『青色の宇宙みたいな瞳の中には星が輝いている』。
それは『小さな子ホムンクルス』の特徴でもあった。
この子は『人の作り出した命、小さな子ホムンクルス』のようだった。
その小さな子ホムンクルスの名前はなかった。
この小さな子はこの島で目を覚ましてからずっとひとりぼっちで暮らしてきた。
だから名前はなかったし、名前がある必要もなかったのだ。(とっても、とっても悲しいことだけど)
「きゃ」
小さな子ホムンクルスはその遠くまで全部が青色の空を見て嬉しそうな顔ではしゃいで、小さな手をぱだぱたと動かしながら、そう言った。
昨日の夜は嵐の夜で、ずっと怒っているみたいにして、大きなかみなりの音が鳴り続けていて、どきどき強いかみなりの光が暗い夜の中で光って、それから強い風が吹いていて、とっても強い雨も降っていた。
小さな子ホムンクルスはずっと石造りの小屋の中で、毛布にくるまって丸くなりながら、眠りの中に落ちるまでずっと、ずっと小さく震えていたのだった。
小さな子ホムンクルスはその小さな体に雨がっぱのようなフードのある水色の水玉模様のコートを着ていた。
それはホムンクルスの服で、小さな子ホムンクルスは人の服も着ることができるので、人の服を着ている小さな子ホムンクルスもいるのだけど、そうではない小さな子ホムンクルスは、このホムンクルスの服を着ていた。(とても丈夫で、着心地も良くて、運動するのにも強い服だった)
足元はとっても小さな長靴みたいなホムンクルスの(コートと同じ色の)水色の水玉模様の靴をはいている。
小さな子ホムンクルスはその大きな頭に顔の出る形の不思議なかぶりものをしていた。
そのかぶりものは『可愛らしい子どもの一角獣のかぶりもの』だった。(それは小さな子ホムンクルスの服ではなかったので、『誰か』がこの小さな子ホムンクルスにかぶせたものらしかった)
でも、その一角獣のつのは根本のところで折れてしまっていた。(転んで折れてしまったのかもしれない)
可愛らしい子どもの一角獣はにっこりと笑ったとっても幸せそうな顔をしていた。
小さな子ホムンクルスは水桶の水を使ってぱしゃぱしゃと顔を洗って、それから子ども用の歯ブラシで歯を磨いた。
石造りの小屋の中にはどうやら毎日の暮らしのために必要な道具がなぜかちゃんとあるみたいだった。
小さな子ホムンクルスは歯磨きが終わると、家のことをし始めた。
石造りの小屋の中を掃除したり、ホムンクルスの服を洗うために(いくつか色や模様の違うホムンクルスの服があるみたいだった)洗濯かごを背負って、丘の下のところの深い森の中に流れている川のところまで楽しそうに走っていって、一生懸命になってごしごしと土で汚れた(きっとたくさん遊んで汚れたのだろう)ホムンクルスの服を洗ったりした。
そんなことが終わると、(とっても満足そうな顔をしていた)小屋の中にしまっておいた不思議な果物を取り出して、(まるで宝物を見つけたみたいに)小さな両手で持ち上げるみたいにして、「わぁ」と嬉しそうな顔で言って、布で綺麗に拭いてから、それをもぐもぐと石造りの小屋の外でのんびりとしながら食べ始めた。
小さな子ホムンクルスが食べているのは、『黄金色のりんご』だった。
それはこの古代の島にしかない外の世界では『永遠の命が与えられる』といわれる伝説のある(とっても栄養満点のすごい)神話に語られる果物だった。
そんな黄金のりんごみたいないろんな不思議な果物がたくさん古代の島にはあった。(水も綺麗でそのまま飲めたし、実りも豊かで、飲みものや食べものには困らなかった)
そして同じように伝説や神話に語られるような古の動物たちがたくさん、たくさん古代の島にはいた。
そんなとき、小さな子ホムンクルスはふと不思議なものを見つけた。
青色の空の中になにかが飛んでいる。(はじめは鳥さんかと思ったけど違うみたいだった)
それはだんだんと大きくなって、形もだんだんとはっきり見えてくるようになった。
それは『古い時代のプロペラの青色の飛行機』だった。
そのプロペラの青色の飛行機はふらふらと危なっかしく揺れながら空の中を飛んでいる。
よく見ると煙が出ているみたいだった。
どんどんと高さが落ちている。
このままだと落ちる。
小さな子ホムンクルスはそう思った。
プロペラの青色の飛行機に乗っている飛行機乗りの人もそう思ったらしい。
やがてプロペラの青色の飛行機から人が抜け出すようにして、ぽんっと、飛び出すと、ばさっと大きな花が咲くみたいにして、鮮やかな黄色いパラシュートが開いた。
古い時代のプロペラの青色の飛行機は深い森の中に落っこちた。
そして黄色いパラシュートを広げた青色の飛行服を着ている飛行機乗りの人はゆっくりと小さな子ホムンクルスのいる小高い丘の上に向かって落ちてきたのだった。
小さな子ホムンクルスは「あわわ」とびっくりした顔をして言いながら、青色の飛行服を着た飛行機乗りが小高い丘の上に落ちる前に慌てて逃げるみたいにして石造りの小屋の中に入って古い木の扉を閉めて隠れた。
でもそんな小さな子ホムンクルスの動きを青色の飛行服を着た飛行機乗りははっきりとその大きな緑色の瞳でゴーグル越しにちゃんと見ていた。




