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第7話 来客の応対も、段取り次第で楽になります

 修繕工事が始まった翌週のこと。


 廊下では大工が雨漏り補修をしており、厨房では棚の取り替えが進んでいた。

 騒がしいといえば騒がしいが、これが終われば快適さが上がる。

 一時的な不便は我慢できる。


 前世では「工事中でも通常業務やれ」「客を通すな」「雑音がうるさい」と上下から挟まれながら働いていた。

 それに比べれば。


 比べれば?


 ……比べるまでもなく今の方が楽です。


 そんな離宮に、またお客様がやってきた。


 今度は、王城の上貴族の奥方と、その娘御が二人。


 執事が私のところへ来て、やや焦った顔で言った。


 「第二王女殿下の御付きの貴族夫人が、お茶のご招待を……」


 「第二王女殿下の御付き? なぜ離宮に?」


 「その、殿下の様子を見に来たいと仰っているようでして……」


 要するに物見遊山だ。


 冷遇された王女の離宮がどんな様子か、見に来た。

 社交界のネタに使うつもりかもしれない。


 前世で言うなら「傍観者がパフォーマンス評価にきた」みたいなものだ。

 あまり好きではない。


 でも来客を断ると、それはそれで話題になる。

 「加護なしの王女が来客も断った」「引きこもっている」などと言われる可能性がある。


 ……面倒くさいな。


 私はため息を一つついて、立った。


 「迎えます。応接間を整えてください」


 「は、はい」


 「あと、いつものお茶と、焼き菓子があれば」


 「焼き菓子は……今、料理長に確認してきます」


 「お願いします」


 来客の応対で大事なのは、用意を整えることと、時間を決めることだ。

 前世で学んだ鉄則である。

 だらだらと長引かせると、相手もこちらも消耗する。


 30分で切り上げる。

 それだけ決めておけば、あとは何とかなる。


 貴族夫人のヴァルク夫人は、50代の上品な女性だった。

 その娘が二人付いてきていた。

 眼が鋭く、値踏みするような視線がある。

 まあ想定内だ。


 「第七王女殿下、お招きありがとうございます」


 「こちらこそ、ようこそおいでくださいました」


 「……こちら、思ったより整っていますのね」


 初手でそれを言うか。


 「古い建物ですが、暮らしやすくしました」


 「あら、ご自分で?」


 「住むなら快適な方がいいですから」


 夫人は少し意外そうな顔をした。

 たぶん「落ちぶれた王女が見るも哀れな部屋に押し込められている」図を期待していたのだろう。


 でも実際には、使いやすく整った応接間と、きちんと淹れられたお茶と、小さいけれど丁寧な焼き菓子がある。


 ルナとほかの侍女が、さりげなく動線よく給仕している。


 「……殿下、加護は本当にないのですか」


 娘の一人が、率直に聞いてきた。

 少し失礼だが、貴族の若い娘らしい正直さだ。


 「ないですよ。神殿で確認しましたから」


 「でも……」


 「加護がなくても、住みやすくすることはできます」


 「でもそれって、どこかの加護の力じゃ……」


 「違います。段取りと優先順位ですよ」


 娘が言葉に詰まった。


 夫人は続けてこう言った。


 「第二王女殿下が、貴女のことを心配しておいでです」


 「ありがたいことです」


 「王城に戻ってくることはお考えではないので?」


 「今は考えていません」


 「どうして……」


 「ここが静かで、気に入っているので」


 また沈黙。


 夫人は娘たちと視線を交わした。

 たぶん「どう報告しよう」と考えている。


 でもまあ、どう報告されても構わない。

 『加護なしの王女が離宮を気に入って暮らしている』

 それだけだ。


 隠すことは何もない。


 30分経ったころ、私は静かに立ち上がった。


 「本日は遠いところをありがとうございました。またいつでもいらしてください」


 「え、あ、もうよろしいので?」


 「次の工事の確認がございますので。失礼をお許しください」


 にっこり笑って、帰っていただいた。


 後ろでルナが小さく吹き出すのが聞こえたが、知らないふりをした。


 帰宅した貴族夫人が何を報告するかは分からない。

 でも、少なくとも「みすぼらしい離宮」「哀れな王女」のイメージは変わったはずだ。


 それで十分だ。


 夕方、ルナが廊下で忍び笑いしながら言った。


 「殿下、本当にすっぱり30分で終わらせましたね」


 「来客が長引くと疲れますから」


 「でも失礼では……」


 「最初から終わりの時間を決めておけば、失礼じゃないんですよ。ずるずる続ける方が相手も困る」


 ルナが「なるほど……」と感心した顔をした。


 前世でさんざんやった会議管理の知恵だが、それは言わなくていい。


 厨房から焼き菓子の焼けるいい匂いがした。

 料理長が今日の来客向けに少し多めに焼いたので、余分が残っている。


 「今日の分、皆さんで食べていいですよ」


 「え、いいんですか」


 「作ってくれた料理長と、給仕してくれた皆さんのおかげで来客対応がうまくいったので」


 ルナの顔がぱっと明るくなった。


 こういう顔を引き出せると、こちらも気分がいい。


 前世では、成果を出しても「で、次は?」だったから。

 小さなことでちゃんと良かったと言える場所は、思っていた以上に大切だ。

読んでいただきありがとうございます。

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